第30話  危険な賊との戦闘(後編)

 野盗たちは次々に吹き飛んでいく。


 オレは更に攻撃しながら流れるように移動。


 拳を振り回し倒していく。


 さて、これで20人目か?


 さて、相手も怯みだしたから、そろそろ、頃合いか?


「ふう……『去れ。さもなくば、ここから先は手加減しないぞ!』」


 その言葉を殺気と共に発する。


 覇気を全身から放出させて、野盗側の全員にぶつけていく。


「ひっ、ひぃ……」


「あわわ……あわわ……」


 オレの周囲にいた数人は、恐怖のあまり気絶してしまう。


 小便を漏らして、恐怖で身体を震わせていた。


「こ、こいつは……ヤバイ……」


「くそっ! 撤退だ!」


 他の野盗たちも、恐怖で逃げ出して始める。


 この時のために副官らしき男は、わざと残しておいた。


 そいつが命令を下して、野盗たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


 残存野盗は恐怖で正気を失っていた。


 だから気絶した隊長と、仲間を見捨てていったのだ。


「だが馬車だけは、何とかしろ! 橋から突き落とせ!」


 賊の副官が撤退しながら叫ぶ。


 橋の上に残った、馬車を始末しろと。


(やはり、そうきたか……)


 その命令をオレは読んでいた。


 何しろ、相手は、馬車の中の人物を執拗に狙っている。


 恐らくは事故死に見せかけて、中の人物を殺したいのであろう。


 それでなければ真っ先に、馬車に火矢でも放つのが、戦いのセオリーなのだ。


「副隊長! 馬車を落としてやりました!」


「よし! 作戦は成功だ! 撤退だ!」


 残存賊は馬車を谷底に突き落とす。


 そして一目散に撤退していく。


「よし、今だ!」


 その瞬間をオレは見逃さなかった。


 相手の死角から、谷底を一気に駆け下りていく。


「よし、いたぞ!」


 落下している馬車に、闘気術で一気に追いつく。


 そのまま馬車の扉を粉砕して、中で気絶していた人物を助け出す。


 更に馬車から離脱して、


 崖に生えている木に飛び移る。


「ふう……少し、ギリギリだったな……」


 間一髪だった。


 谷底に落ちて木っ端みじんになる馬車を、見つめながら息を吐き出す。


「だがこれで、アイツ等は、この少女が死んだと、思っているであろうな」


 あのまま野盗を全滅させることは簡単だった。


 だが、そうなれば確実に遺恨が残る。


 奴らは兵を集めて、この少女のことを追跡してくるであろう。


 だからオレは一芝居をうった。


 ワザと馬車を落とさせて、アイツ等に確証を持たせたのだ。


「さて、そろそろ、いいか?」


 崖上の気配をさぐる。


 野盗の残党は、どこか遠くへ逃げていった。


 隠れてこちらを監視している者の気配もない。


 一応の安全は確保されたであろう。


《フェン。こっちは終わった。今からそっちに向かう》


《分かったワン! 待っているワン!》


 少し離れたところで待機していたフェンに、念話で合図をする。


「さて、行くとするか」


 気絶したままの少女を左手に抱えて、オレは崖を飛び渡っていく。


 周囲の気配を索敵しながら、そのままエリザベスたちに合流するのであった。


 ◇


 崖上の茂みの中で、エリザベスたち3人と合流する。


「パパ、だいじょうぶ⁉」


 マリアが駆け寄ってきた。


 遠目に先ほどの戦いを見ていたのであろう。


 かなり心配そうにしていた。


 オレの全身をペタペタ触ってくる。


「あの程度は、大丈夫だ。オレは……マリアのパパは強い。これからも心配は無用だ」


 今後のためにも、マリアに教えておく。


 オレは強い。


 どんな敵がきても心配をしなくも大丈夫だと。


 だからマリアは、いつも笑顔に戻ってもいいと。


 目いっぱい力こぶを作り、自分の力を見せてやる。


「うん、わかった! マリアのパパは、すごくつよい! とっても、つよい!」


 マリアに笑顔が戻る。


 どうやらオレの想いを分かってくれたらしい。


 これなら一安心。


 今後、荒事に巻き込まれても、マリアが暗い顔になることはないであろう。


「それにしても、オードル。まさか素手で、あそこまでやるとはな? 相変わらず、規格外の男だな」


 遠目に20数人の野盗が、気絶をしていた。


 かなり異様な光景。


 その光景を眺めながら、エリザベスは呆れかえっている。


「あの程度の連中ならエリザベス、お前でも再現は可能だろう?」


「剣で倒すなら、私でも可能だ。だが、お前のように、誰ひとり殺さずの戦いは、不可能だ。こんな馬鹿げたことができるのは、オードルぐらいのものだぞ!」


 なるほど、そういうことか。


 確かに不殺さずの戦いは、高い技術を要する。


 オレも殺した方が早かったであろう。


 今回はマリアが近くにいた。


 だからオレは敢えて、不殺生に徹していたのだ。


「さて、無駄話と寄り道も、ここまでだ。早く、あの街を向かうぞ」


 目的の街の城壁が、遠目に見えている。


 ここからなら急げば、午後には到着するであろう。


 早く街に入って、マリアの疲れを癒してやりたい。


「ところで、オードル。この少女はどうするのだ?」


 助け出した少女は、まだ気絶したまま。


 歳はエリザベスより少し下くらいであろう。


 金髪の美しい顔立ちの少女だ。


「ん⁉ この方は、まさか⁉」


 少女の顔を間近で見て、エリザベスが言葉を失っていた。


 どうやら顔見知りらしい。


 もしかしたら知り合いの修道女シスターなのか?


「知り合いも何も……この方は聖女様だ……この大陸に一人しかいない聖女リリィ様だ……」


 オレが助けだしたのは聖女と呼ばれる少女。


 しかも謎の兵士団に狙われていた存在。


「なんだと、聖女だと?」


 こうしてオレは少しだけ面倒なことに、巻き込まれるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る