第6話 狼狩り
村長から狼退治を頼まれたオレは、森の中へ入っていく。
「この先か……?」
村人の目撃情報から、狼の群れの方角を予測。
森の中に残った群れの足跡をつけていく。
この森は幼い時に、何度も入ったことがある。
また狩りも幼い時に、大人の手伝いでしていた。
孤児である当時のオレは、何でも仕事をしないと生き残れなかった。
だから森の中は庭のようなものだ。
「あれか?」
森の中をしばらく移動した所で、狼の群れを発見する。
闘気術で五感を高めていたために、こちらが先に発見できた。
もちろん相手に気がつかれないように、風下から接近していた。
まだ狼たちには気がつかれていない。
「随分と群れの数が多いな?」
強化された遠目で確認しただけもで、30匹以上はいる。
この地域の狼の群れとしては、かなり多い。
何か理由でもあるのであろうか?
「まあ、いい。さっさと終わらせるか」
狼程度なら数の多さは問題にならない。
村長から借りてきた弓矢を構える。
そのまま一気に矢を放つ。
「まず一匹」
群れの中の狼の頭が、いきなり吹き飛ぶ。
闘気術で強化した力で、遠距離から矢を撃ったのである。
強化されすぎたオレの筋力により、狼の頭蓋骨が吹き飛んだのだ。
「二匹目……三匹目……」
距離感がつかめたところで、連射で狼を仕留めていく。
先日の投石と違い、弓矢は遠距離でも命中率が下がりにくい。
借りてきた弓矢の質はそれほど高くないが、悪くない方だ。
この距離なら外すことはないであろう。
『『『ガルルル⁉』』』
狼たちは突然のことに混乱していた。
何しろ音もなく仲間たちの頭が、次々と吹き飛ばされているのだ。
向こうにしたら、ちょっとしたオカルト現象であろう。
「7匹目……8匹目……おっ、こっちに気がついたか?」
隠密術で射撃していたオレの存在を、狼の群れに発見されてしまった。
さすがは野生の獣。たいした
『ガルルル!』
生き残った20数匹が牙をむき出して、こちらに向かってきた。
同胞を殺しているオレを、食い殺そうと殺気だっている。
「だが悪いが、こっちも仕事なんでな」
見つかったから隠密をしている必要はない。
オレは立ち上がり、狼の群れを挑発する。
「さて、何か獲物はないかな?」
近距離では弓矢を当てるのは不可能ではない。
だが少しばかり面倒である。
弓矢の代わりになる武器を、森の中を見回し探す。
「おっ、これはいい感じだな?」
ちょうど手頃な太さと長さの木の枝があった。
成人男性くらいの身長の長さで、太さもかなりある。
これならオレの力にも、少しくらいなら耐えられるであろう。
「せーの……いくぞ!」
飛びかかってきた狼に向かって、大木を横に振り回す。
『キャイィイーン!』
その攻撃で一気に、2匹の狼が吹き飛ぶ。
狼の全身の骨は粉々になり、一瞬で絶命していた。
「さあ、まだ
その言葉と当時に、オレは殺気を解放する。
今まで隠密で隠していた闘気を、全身から発っした。
戦鬼と呼ばれたオレの殺気は半端ない。
まともに食らえば腕利きの傭兵でも、小便を漏らしてしまう代物である。
(これで遠くに退いてくれたら、いいのだが……)
相手が野生の獣とはいえ、無償な殺生はしたくはない。
普通の野生の狼なら、このまま負けを認め、逃げ出すはずだ。
『グルル……』
だが生き残った狼たちは、一匹たりとも逃げ出さなかった。
遠巻きにオレを包囲しながら、更に牙を剥き出しにして威嚇してくる。
「ほう、これはたいしたものだな? いったいどういうことだ?」
闘争心を失わない狼たちに、むしろ感心する。
先ほどの殺気で、普通なら逃げ出すはず。
それにもかかわらず狼たちは、まだ戦おうとしているのだ。
「これは強いボスがいるのか? だがボスは先ほど殺したはずだが?」
野生の群れの獣は、ボスを倒されると闘争本能を失う。
だからオレは最初に、ボスらしき大きな狼を射っていた。
ということは、もしかしたら他にボスがいるのか?
それも尋常ではない統率力をもった個体が?
◇
(ん? これは……真ボスのさっそくお出ましか?)
その時である。
どこからともなく殺気が襲ってきた。
「上か?」
同時に上の木の枝から、影が急降下してきた。
一匹の白い狼がオレに襲ってきたのだ。
「奇襲攻撃か? やるな!」
白い狼はオレの死角を狙って、攻撃をしかけてきた。
感心しながら、オレは持っていた木の棒で防御する。
「おっと? 木の棒が? 普通の狼ではないのか?」
驚いたことが起きた。
防御に使った大木が、真っ二つに切り裂かれたのだ。
もちろん普通の狼には、こん馬鹿げた芸当はできない。
『グルル……人間め……』
更に驚いた。
襲撃してきた白銀の狼は、人語を話してきたのだ。
それもかなり流暢な大陸共通語である。
「お前、
獣の中には魔素を宿した“魔獣”と呼ばれる個体が、まれに存在する。
それらは普通の獣に比べて凶暴で、身体能力や知能も高い。
ごくまれに人語も話せる魔獣もいるのだ。
『
ほう、白魔狼だと?
これは更に珍しい種族だ。
たしか、ここから遠い北限の北大山脈に、数頭だけ住んでいると聞いたことがある。
かなり賢い魔獣で、滅多なことでは人前には姿を現さないという。
だが何故こんな遠い南にいるのだ?
しかも普通の狼を率いて?
そんな話は今まで聞いたこともない。
しかも目の前の白魔狼は、噂ほど大きくない。
成長すると白魔狼は、巨馬ほどの大きさになるという。
だが現れた白魔狼は普通の子犬ほどの大きさ。
もしかしたら白魔狼の子どもなのかもしれない。
ということは、お前は“はぐれ”や孤児なのか?
『うるさい! 死ね!』
まるで子供のような
問答無用で白魔狼は襲いかかってきた。
この反応は、やはりまだ幼い白魔狼なのかもしれない。
「ほう? 幼い割には、かなり素早いな?」
白魔狼の素早さに、思わず感心する。
先ほどの襲撃以上のスピードで、オレに襲いかかってきたのだ。
残像を伴って、白銀の牙が迫ってくる。
『死ね! 愚かな人め!』
勝利を確信して、白魔狼は吠える。
鋭い牙を大きく開けて、オレの顔を食い破ろうと迫ってきた。
「速い。だが……工夫がないなっ……と!」
そんな白魔狼の顔面を、オレは拳で殴りつける。
いくら素早いとはいえ、直線的すぎる動き。
闘気術で五感を上げたオレには、簡単に予測しやすいのだ。
『キャーーン!』
岩をも砕くオレの右拳。
それを受けて白魔狼は吹き飛んでいく。
「ほう? まだ息があるのか? たいしたものだな?」
驚いたことに白魔狼は生きていた。
とっさに防御態勢をとっていたのであろうか?
それとも上位の魔獣がもつと言われている“魔気”で、全身を被っていたのかもしれない。
どちらにしても大したものである。
『くっ、くそっ……』
だが白魔狼は瀕死だった。
すでにフラフラとしか、立ち上がれていない。
脳震盪を起こして、意識も半分ほど飛んでいる。
『『キャイーン、キャイーン!』』
その時である。
見守っていた他の狼たちが、鳴き声をあげながら逃げ去っていく。
ボスである白魔狼が倒れたことにより、負けを悟ったのであろうか。
もしくは白魔狼が負けたことにより、何かの強制力から解放されたのかもしれない。
「とにかく、これで終わりだな」
村を悩ませていた、狼の群れは退散した。
あれだけ痛い目にあったので、もう二度と村に近づくことなないであろう。
あとはボスの白魔狼に止めを刺して、オレの今回の任務は終わりである。
「さて、止めを刺すか……」
脳震盪で動けない白魔狼に、ゆっくりと近づいていく。
オレは先ほどよりも更に闘気を強めて、右の拳を振り上げる。
何しろ魔獣は普通の獣ではない。
とくにこいつは危険な上位魔獣の白魔狼族の子ども。
ここで始末しておかないと、後でどうなるか予想もできない。
最悪の場合、成長して村に復讐にくる可能性もある。
だから残酷かもしれないが、止めを刺す必要があるのだ。
『無念……』
動けない白魔狼は、死を覚悟していた。
誇り高き白魔狼族として目を閉じて、最期を迎えようとしていた。
『父上……母上……
最後にそう言い残し、倒れ込んでしまう。
意識を失って、気絶をしてまったのであろう。
その目には薄っすらと涙がにじんでいた。
「父上に母上……だと? やっぱり
振り上げた拳を止める。
予想していた通りこの白魔狼は、まだ子どもの個体だったのだ。
それも生まれてから数年も経っていない幼狼。
同じく幼いマリアの顔が、オレの頭にチラつく。
「ちっ、仕方がないな。オレは
荒くれ者と思われている傭兵にも、主義・仁義というものがある。
オレの場合は『女子ども、弱い者には手を出さない』だ。
「それにマリアの遊び相手に、ちょうどいいかも……な」
こうして気絶した白魔狼の子どもを
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます