第12話 【閑話】国王の話

《閑話:オードルを粛清した国王視点》


 傭兵オードルの活躍のおかげで、王国には平和が戻っていた。だが、国王は再び戦に挑もうとしていた。


 戦鬼オードルのおかげで、せっかく有利に結べた休戦協定を破棄し、愚かにも隣国の帝国領に侵攻しようとしていたのだ。


 ◇


「陛下! もう一度、考え直しを。せっかく帝国と休戦協定を結べたのに、また戦をする意味はありません!」


 愚策を決断した国王に対して、王国の軍師は進言する。今は戦争をするよりも、疲弊した国土を復興するのが優先だと。


「ふん、臆病者め! こんな時だからこそ、戦をするのじゃ! 今度こそ帝国の領土を奪って、たっぷり賠償金を請求するのだ! そんな簡単なことも分からんのか⁉ 軍師のくせに、この愚か者め!」


 だが国王は聞く耳を持たなかった。何故なら王国にとって、戦争は大切な国策の一つ。


 国王は抱えている騎士や貴族に、給与や領土を与えなくてはいけない。そのためには新しい領土や金が必要だった。だから帝国に進攻しようとしていたのだ。


 何より、勝ち得た賠償金で王の私腹を肥やすのが一番の理由である。


「ですが陛下! 帝国軍は手強いです。残念ながら今の当軍の戦力では、負ける確率が高いです!」


 軍師も引き下がらなかった。何故ならここで侵攻しても、王国軍が負けるのは必至だった。


 単純な国力は帝国軍の方が上。先日の決戦で王国が勝てたのは、一人の傭兵の存在があったからなのだ。


「お聞きください、陛下。オードル殿が事故死した今、帝国軍に勝てる可能性は低いです!」


 その男の名は“戦鬼”と呼ばれた傭兵オードル。一騎当千の彼の働きのおかげで、王国はこの5年間、なんとか勝てていた。


 不審火でその男を失った今、王国には勝ち目はない……と軍師は進言する。


「あの男の名を出すな! オードルは死んだのじゃ! あんな下賎な傭兵がいなくても、我が栄光ある王国は大陸最強なのじゃ!」


 オードルの名前を聞いて、国王は顔を真っ赤にする。目をギラギラさせ、鼻息を荒くして、髪をむしり出した。


「ですが、陛下……」

「もう、いい! おい、こいつを幽閉しておけ! 不敬罪じゃ!」


 反論する軍師を捕えるように、護衛の兵士に指示を出す。軍師はあっという間に取り囲まれて、そのまま牢屋へと連れていかれた。


(クソっ! あんな死んだ傭兵が必要なかったことを、ワシ自ら証明してやるのじゃ!)


 こうして国王自らが大軍を率いて、帝国領に侵攻していくのであった。


 ◇


 それから2週間後。帝国との戦いは、あっという間に決着がついた。


 王国軍の惨敗。


 国境沿いの草原での戦いで、王国軍は敗れ去り、さらに軍を率いていた国王は、帝国軍の将軍に捕らえられたのだ。


 その後、莫大な身代金を支払い、国王は解放される。


 ◇


「くそっ! くそっ! なぜじゃ……なぜ、こんなことになったのじゃ!」


 王都に戻った国王は、半狂乱に陥っていた。


 今回の惨敗により、王国軍は多くの戦力を失ってしまった。また、帝国に支払った身代金は、国王の財の半分以上にもわたる。


 さらに国王が個人的に所有していた銀山を、帝国軍に賠償金として奪われてしまった。


 これらの帝国からの要求は、断ることはできなかった。何故なら、また戦争になれば王国が負けてしまうからだ。


 その後、更に悪いことが続いていく。


『だから言ったでしょう、陛下。オードル殿がいない今、王国は終わりだと。さようなら』


 戦の後、軍師がそう書き置きを残して、どこかに消えていったのだ。今まで軍師のおかげで、王国は国内のバランスを保ってきた。


 王国は軍事だけでなく、内政の力も失ってしまったのだ。


『では我々も去らせていただきます、陛下。オードル殿が生きていれば、違う未来もあったのでしょうが……』

『オードル殿が生きていた時と、今の王国は月とスッポン。さらばです、王様』


 軍師に続いて、そんな言葉を残し、騎士や傭兵たちが王国を去っていった。これにより王国は人材不足にも陥る。


 もはや戦争をしている場合ですらなくなってしまったのだ。


「な、なんじゃと……なんじゃと……どいつも、こいつも、オードル、オードルと……」


 バタン!


 津波のように押し寄せてきた不幸に、国王は倒れてしまった。ストレスにより脳がパンクしてしまったのである。


「くそ……これもオードルの呪いなのか……」


 だが倒れた国王は知らなかった。オードルを粛清した報いが、まだ終わっていないことを。


 国王を更なる不幸が待ちかまえているのであった。

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