第41話 家のリフォーム
礼拝堂裏での事件から数日が経つ。
あれ以来、マリアの学園生活は特に事件もなく順調。
今朝もマリアは元気よく朝食を作っていた。
「いただきます」
「「「いただきます!」」」
『ワン!』
朝ご飯ができたので、全員で食べ始める。
丸いテーブルに、オレを中心にしてマリア、エリザベス、リリィが席に付いていた。
子犬のフェンは床が特等席だ。
「ん? このスープ。美味いな」
スープを飲んでオレは思わず声をあげる。
シンプルなスープだが、今までの味付けと違う味わいだったのだ。
「それはリリィお姉ちゃんに教えてもらって、マリアが作ったんだよ!」
なんとマリアが作ったスープなのか。
自分の娘の料理の腕が上がったことに、二度目の感動をする。
「マリア様は物覚えがいいので、教えがいがあります」
この家に引っ越してきてからリリィが、マリアの料理の先生だった。
リリィは聖女時代に、修道女たちに女性としての
特に料理はリリィ本人も好きで、進んで勉強していた。
そのリリィが教えてくれるお陰で、最近はマリアの料理の腕がどんどん上がっていた。
掃除や洗濯などの家事も、リリィに習っていた。
「色々と悪いな、リリィ」
オレも傭兵流の家事なら、マリアに教えることは出来る。
だが女性が覚えるべき家事は、傭兵流とは違う。
だからリリィの心遣いに感謝していた。
勉強だけではなく、女性としてもマリアは成長している。
「
リリィも聖女を辞めてから、生きがいを探していた。
マリアに家事を教えることによって、本当の生き方を見つけたという。
それを差し引いても、リリィには感謝だ。
「わ、私だってマリアに色々と教えているぞ、オードル!」
大人しく朝食を食べていたエリザベスが、急にアピールをしてくる。
何かリリィに対抗しているのであろうか。
「勉強の復習とか運動とか、ちゃんとマリアに教えているぞ!」
「エリザベスお姉ちゃんの教えかた、分かりやすいから、マリア好きだよ!」
お嬢さま育ちのエリザベスは家事が苦手。
だが勉強や身体能力はかなり高い。
そのため家ではマリアの勉強と運動の家庭教師をしているのだ。
「ああ、お前にも感謝しているぞ、エリザベス」
「おお、そうか! そうか! 嬉しいぞ、オードル!」
感謝されてエリザベスは満面の笑みを浮かべる。
先日の礼拝堂の裏でも、マリアは驚異的な運動神経を見せていた。
あれもエリザベスの運動の教えの成果かもしれない。
(だが、マリアがエリザベスみたいになるのか……)
エリザベスも悪い少女ではない。
公爵令嬢として学があり、女性としての教養もある。
王都で猫を被っていたエリザベスは、舞踏会でも男性貴族にモテていた。
(しかし、エリザベスみたいに剣一筋に生きていくのは……ちょっとだな……)
エリザベスの本質は剣に生きる女剣士である。
何しろ戦鬼と呼ばれていたオレに、いきなり斬りかかって腕試しをしてきた少女だ。
客観的に見ても普通ではない。
自分の娘がそんな風に成長していくのは、少し不安に思う。
エリザベスの運動も教育も、ほどほどにしてもらおう。
『ワンワン!』
お前のことも忘れていないぞ、フェン。
いつもマリアと仲良く遊んでくれて感謝している。
歳の離れたエリザベスとリリィとは違い、二歳のフェンの精神年齢はマリアに近い。
家でもいつも楽しそうに遊んでいるのだ。
さて、朝食も終わったのでお茶タイムとするか。
今日は安息日で学校と仕事もない。
全員でゆっくり出来る一日なのだ。
「そういえば、この家に何か欲しいものはないか?」
食事を終えた全員に尋ねる。
この家に引っ越してきてから数週間が経つ。
暮らしている中で、何か欲しい機能や家具がないか?
「
リリィは今まで大聖堂の冷たい部屋に住んでいた。
だから不満な点は特にないという。
「ですが、少しだけワガママを言えるのなら……“お風呂”が欲しいです」
この大陸では風呂は特殊な習慣である。
大都市では蒸し風呂の共同サウナが一般的。
この屋敷にあったのも小さなサウナ部屋だけだった。
ちなみに田舎は小川で水浴びしたり、井戸水で身体を拭くのが普通。
「実は
リリィが五歳まで育った故郷は、暖かいお湯“温泉”の産地だったという。
だから幼い時は暖かい風呂に入って育っていた。
だがこの大陸では一般的には風呂の習慣はない。
だから懐かしいのであろう。
なるほど、風呂か。
オレも傭兵として大陸を旅していた時、利用したことがある。
たしかに風呂はいいものだった。
「よし、今日は風呂を作ろう」
今日は特に予定はない。
リリィのアイデアを受けて、家に風呂を作ることにした。
◇
その日の夕方になる。
風呂は無事に完成した。
「これが風呂だ。後でお湯は入れる」
完成した風呂を、みんなに披露する。
「すごい、パパ! おふろはじめて見た!」
『ワン! ワン!』
マリアとフェンは大喜びしていた。
使い方が分からないので、空の湯船に入って遊び始める。
「まさか、たった一日で完成させるとは……相変わらずだな、オードル」
エリザベスは苦笑いしていたが、今回の風呂はそれほど難しい造りではない。
何しろここは王国でも第三の都市ルーダ。
材料は探せばいくらでも大きな商店に売っている。
「湯船は木造にした。耐水もある木なので、お湯を入れても大丈夫だ」
街の下町にある材木屋で、大きな丸太を買ってきた。
適当な大きさにカットして、中身をくり抜いて湯船にしたのだ。
五人くらいは同時に入れる広さである。
「木のいい香りだね、フェン!」
『ワンワン!』
湯船の中の二人が喜ぶように、木のいい香りがしていた。
お湯を溜めたら、もっといい香りが広がるであろう。
修正済み本文
「あと、お湯はこの部分で沸かす。お湯の温度も井戸水で調整できる」
湯船の隣に湯沸かしの機器を作っておいた。
水は庭の井戸から引いてきて、
この風呂の設計図は傭兵時代に、とある地方で学んだものだ。
ちなみにお湯を沸かす機器には、
耐水性で耐火性の性質を、今回は最大限に利用したのだ。
「お湯を溜める機能は、使いながら今後も改造していく。最初は試作品として入ろう」
今日作ったのは湯船と、簡便にお湯を沸かして流し込む機能。
できれば、もっと手軽にお湯を沸かしたい。
使いながら改造していくことにした。
「ありがとうございます、オードル様……」
リクエストをしたリリィは一番感動していた。
完成した風呂を見つめて、うっすらと涙を浮かべている。
「オレも入りたいと思っていたから気にするな。ところで、リリィ。なんでそんな薄着なのだ?」
風呂を目の前に感動しているリリィは、かなり薄着だった。
下着に近いくらいに薄着である。
「これは故郷でのお風呂着を模したものでした。もしかしたら迷惑でしたか、オードル様?」
なるほど、そうだったのか。
リリィの故郷では風呂前は、そういう格好をするのか。
故郷の風習なら仕方がない。
だがリリィは15歳と年齢にそぐわない、女らしい豊かな身体つきをしている。
オレは彼女を女として見ていないので問題はない。
だが何となく目線のやり場に困るのだ。
「そうだ、リリィ! あなたのその恰好、私も気になっていたのだ! ま、まさか……オードルを誘惑しているつもりなのか⁉」
何やら急にエリザベスが、リリィに噛みついていく。
リリィの身体に比べて、エリザベスは慎ましい身体つきをしている。
どうやらそれを気にしているようだ。
「あら、エリザベス様。これは私の普通の格好ですわ。でも、オードル様が望むなら、私はこの乙女の全てを捧げるつもりです」
「ちょっ、と、リリィ⁉ いきなり、何てことを⁉ わ、私も負けている場合ではないぞ、これは!」
リリィに対抗して、エリザベスも薄着になろうとする。
だが、ハッと我に返って、顔を真っ赤にする。
「マリアも、おようふく、ぬぐ!」
『わん! わん!』
そのどんちゃん騒ぎに、マリアとフェンも加わる。
二人とも上着を脱いで、下着姿になろうとする。
というか……フェン、お前は毛を脱ぐことはできないであろう。
もしかしたら、白魔狼族には何かの秘密があったのか?
いや……無かったらしい。
「やれやれ……騒がしくなったな。さあ、お湯を沸かすぞ。手伝え、お前たち」
この後は大騒ぎのまま、お湯を溜めて風呂に入ることにした。
もちろん男女は別々。
エリザベスは強引にオレと入ろうとしたので、手刀で気絶させておいた。
「ふう……いい湯だな。苦労して作って大正解だったな……」
こうしてオレは一人で大きな風呂を満喫するのであった。
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戦鬼と呼ばれた男、パパと呼んでくる幼女を拾い、一緒にスローライフをはじめる ハーーナ殿下 @haanadenka
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