転生したとて変わらんよ

アライキアラ

学園編1

始まり

プロローグ



 ずっと考えていたことがある。

 自分にとっての希望が何であるのか、と。

 食べることなのか、誰かと話すことなのか、何かを目指すことなのか……。

 むしろ希望と呼べるものは無くて、幻想に過ぎないのかも、と。


 義務教育を終えた段階で、人間は不平等に生かされてると何となく理解した。

 競争を望む社会と世間は、自我の無い奴隷を欲していて、枠外の自我を持つ者たちを排斥する。


 起業をする者たちには自我があるじゃないか。

 そういう声もあるだろうが、結局は枠組みの中の話。

 そもそも競争したくないと思う者たちを無視していて、成功者とされる者たちの大半は、彼らを無意識に見下している。


 自我の無い、それに憧れる者たちによって圧力は更に強まり、それが正解とされる現状が続く。

 否が応にも競争に巻き込まれ、疲弊した体に幻想を抱かせ、死ぬまで働かせる。

 一般人の結末は皆同じ。

 自我の無い監視者が多く居るせいで、自我を持つ者も次第にそれを手放し、自分も監視を始め――――希望を見ることもやめる。

 まあ、考え方次第ではあるがな。


「あんた仕事は?」

「今日は休み」


 平日の昼間。

 流れる映像をボーッと眺めながら母の問いに答える。

 の人間なら働いている時間だ。


 自論を展開し、現状を再認識する。

 今に思う。

 レールに乗っかってれば楽に生きれたな、と。


 誰かと同じであれば、どれだけ楽だっただろう。

 誰かと同じであれば、こんなストレスを抱えることもなかっただろう。


 本音を話したところで、両親が理解するかも分からない。

 それに現状、若干のストレス以外に不満はない。

 ただ、その一つのストレスが目立ち、悩みの種になっている。それだけ。


「はぁ………お母さんたち死んじゃったらどうするのよ」


 今日もまた、母が独り言のように言葉を漏らしプレッシャーを与えてくる。

 以前までは答えていたが、最近は無視を決め込み溜め息すら我慢している。


 生きて来た時代が違い、価値観が違い過ぎることに両親は気づいていない。

 いや、気づけないでいる。

 ただ母たちが言いたいことも何となく理解できる。

 それがまた、自分を悩ませる。


「………」


 今日は耐えられなくて暴言を吐きそうだ。

 このまま寛いでいても碌なことが起きそうにない。


「はぁ………」


 こういった時は必ず外へ出て1時間ほど軽くぶらぶらする。

 同じ空間を共有していると、少しの生活音ですら不快に感じてしまうからだ。


 晴れた空を一度眺め一歩踏み出す。

 誰か見てる。

 そんな気を薄らとさせながら通りを歩く。

 実際、人は他人にあまり関心がない。

 それを分かってはいるが、どこかで自分はダメなんだと卑下し、そんな自分を見てるんじゃないか。そんな風に思ってしまう。


 対処法は知っている。

 それは、暇を無くすこと。

 ただそんなことをすれば、わざわざレールを外れた意味がない。


 公園がふと視界に入る。

 そこには数組の親子。

 ボールが道に出る。危ない。

 コロコロと転がり近くに来たため拾って渡す。


「へ、変質者………?!」

「ハァ……」


 馬鹿の反応にため息を吐く。

 もうどうしようもない。

 肯定も否定も、何もしない。

 言ったもん勝ちの世の中で、後手で何か行動を起こすのは悪手。


 何もしていないのだから、流れに身を任せるのが一番早く終わる。

 さっさと警察来いよな。マジで。

 縁石に腰掛け、全てが終わるのを待った。


 警察は数分で到着し、警察署で事情聴取が行われた。

 馬鹿の見ていた世界を共有したせいで、今日一日の大半を奪われた。

 時間は命と同義とも考えられるため、命を取られたと主張してもいい。

 ただ、それは認められることはない。

 分かっている。


 なんだかんだあって、家に帰り着いたのは夜遅く。

 鍵を開けて……閉める。


「………」


 何のための散歩だったか………。

 考えることも面倒になり、携帯の画面に映る時間を見る。

 23時。早いが今日は寝るか。

 オレは自室に戻り、携帯の電源を切る。

 一瞬だけつけた照明を消して、ベッドに体を預けて眠りにつく。

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