第12話 目的のために
学園に入学して六ヶ月。
私は試験のために復習と鍛錬を繰り返していた。
王都ランクに来てからこれまで、多くの経験をして間違いなく成長できた。
魔力を発現させてから二年と六ヶ月。
始まりは好奇心だったけれど、今ではそれが人生の軸になっている。
学園では、少人数のクラスに在籍することになった。
クラスメイトは全員落ち着いていて、偶にある嫌がらせにも上手く対応していた。
私はそれに慣れることができず、よく友人を頼って解決している。
どうやら、私のクラスは全員成績が優秀な者で固められているらしく、他クラスの貴族に反感を買っているみたい。
私たちはただ振り分けられただけに過ぎない。
それが本音だが、言っても分からないだろうということで、淡々と対応することに自然となっていった。
「フェリン。分からないところはない?」
話しかけて来たのは友人のクラリッサ。
学園に来て初めてできた友人。
彼女は貴族で、クラスメイトの始めの対応を見た感じ、かなり上の階級だと理解した。
ただ彼女自身が学園の規則に
他のクラスメイトもそれなりの出自みたいで、田舎から出て来たのは私だけだった。
「ここかな……?」
「ここね。ここは――――」
今は筆記試験に出るであろう問題を解いている最中。
授業も終わっているため、居残り自習みたいな感じ。
寮に戻ればダラダラしてしまうかも、という理由で教室で勉強をしている。
今度の試験は長期休暇前の総
順位も出るみたいで、他クラスの子たちもよく勉強しているのを見かける。
何でも、今後の進路に関わるからとかの理由で頑張っているみたい。
私は卒業しても冒険者になるため、どちらかと言えば実技に力を入れている。
今はクラリッサと座学をやっているけど、もう少ししたら移動する予定だ。
「フェリン。これを解いたら体を動かしに行きましょ?」
「うん。付き合ってくれてありがとう」
「……いいのよ。ほら、後は貴方だけよ」
「え……?! 速いよ!」
「ふふ、早くしなさい」
「待ってよ〜」
◆◆◆◆◆◆
試験が終わり、休暇前最後の登校日。
試験の結果が張り出され、そこには人の群れが押し寄せていた。
いつものようにクラリッサと寮から登校し、何気ない会話をしていて忘れていた。
私たちが見えた途端、視線はほとんどこちらに向く。
熱量が凄いというか、変に目立つ感じがまだ慣れない。
クラスメイトたちは、スッと寄って来て私たちを守るように囲った。
「俺微妙だったよ」
「僕もです」
「ワタシもー」
「でも上位は私たちが独占みたいです」
「へぇ〜、そうなんだぁ」
他にも思い思いに喋り、周りは一気に騒がしくなる。
慣れないけど嫌いじゃない。そのまま張り出された紙に近づいていく。
全員上位みたいだし、18位から見ていく。
クラス人数がその数であるため、最低でもその順位になる。
下から見ていくが、中々名前が見つからない。
そんな私に気づいたのか、クラリッサがもっと上と伝えて来た。
「上、上、うえー………1位?」
「ふふ、何で疑問形なの?」
「おい、フェリン! 次は負けねーぞ」
「ええ、ワタシもですわ」
「俺だってな!」
周りからは、対抗心を燃やすクラスメイトたちが宣戦布告してくる。
私は普通に問題を解いただけだし、普通に模擬戦に臨んだだけ。だけど、みんながそう言うなら私も負けてられない。
「次はもっと頑張っちゃおうかな!」
「おう! 絶対勝ってやるぜ」
「ふふっ、やる気が出てきましたわ」
私たちはそんな風に意気揚々と教室へと向かった。
教室へ向かう間、クラリッサからは実技について聞かれた。
「実技満点だったけれど、フェリンは何をしたの?」
「何って言われても、相手を倒したぐらい……」
「相手を……倒した? それ本当なの?」
「うん」
「なるほど。それは満点を上げるしかないわね」
「どうして?」
自分も満点が気になっていたため、知ってそうなクラリッサに尋ねる。
「模擬戦の相手は、主に卒業生よ。しかもそれなりの強さがなければ評価できない」
「うん……」
「言ってしまえば、学園が予想していた強さを超越しているということよ」
「評価する人を上回ったからってこと?」
「そうよ。次点の私で80点。鍛錬の強度を上げなくちゃ」
クラリッサも良い点数を獲得していた。
そう考えると、少しばかりやり過ぎたのかもしれない。
ただ、まだまだ通過点でしかない。
何か起きても対処できなければ意味がない。
「でも、座学はクラリッサが満点だよ?」
「まあ、そうだけれど……」
「頑張ろうね。お互いに」
「………ええ、そうね」
クラリッサは表情を少し和らげた。
高望み過ぎても身がもたない。
一つ一つ達成していけばいいわけで、根を詰める必要はない。
まだ五年もあるんだから。
◆◆◆◆◆◆
長期休暇初日。
何故か私たちのクラスだけが登校するよう命じられた。
学園長から用事があると言われていた私は最初から残るつもりだったけど、クラスメイトはそうじゃないみたい。
「何だろうな。呼び出し」
「そうですわね。何かしましたか? わたしたち」
「お父様が何も言わないといいですけど……」
貴族の皆は実家に帰るようで、急な予定に困惑していた。中には家族の心配をする人もいた。
教室で待っていると、一人の生徒が入って来た。
「初めまして、Sクラスの諸君。君らを呼び出したのは私だ」
入って来た男子生徒は背も高く、バッチをつけてることから先輩だと理解した。
面倒事にならなければ問題ないけど、何が目的なんだろう。
「フェリン。あなたの用事は大丈夫なの?」
「うん。お昼を食べながらお話みたいだし、間に合うと思うよ」
「そう。それならいいわ」
クラリッサは学園長との用事を確認して来た。
学園長はそんなに気を遣う必要は無いと思うのだけれど、やっぱり貴族とは認識が違うのかもしれない。
私の知らないことを知っている。そんな感じがする。
「君たちには付いて来てもらいたい場所がある」
「危ないところですか?」
「いいや。危険なことはない。寧ろ君たちにとって有益な場所だ」
先輩はぼかしながら話す。
それにクラリッサは疑いを向ける。
「本題を話してください。私たちは先輩と言えどすぐに信用することはありません」
「……確かにそうだね。では、私の目的を話そう」
先輩はそう告げると魔法を発動させた。
教室を全て包み込む幕のようなものが張られた。
話をする上で教室を囲んだ。恐らく防音や盗聴を防ぐためのもの。
それに気づいて、私含めSクラスは先輩に目を向けた。
「私が君たちを呼び出したのは他でもない。学園の
「ある組織?」
「ああ。その組織は、学園には存在していないことになっている」
「何だそれ。秘密組織でもやってるってのか?」
「そう、君の言う通りだ」
秘密組織。
男の子たちは、そこで少しばかり興味を持ったように思える。
秘密組織と言っても何をする組織なのか、そこを聞かないと入る入らないは決められない。
「その組織は、学園の伝統とも言える。代々秘密裏に行動し、これまでそれを保って来た。組織の目的は、優秀な者の研鑽を援助すること。どうだ? 少しは興味が湧いたかな?」
先輩の言う通りなら乗ってもいい話だと思う。
ただ、何故援助するのか分からない。
そこを聞きたい。
クラリッサは考えてるから難しそう……自分で聞くしかない。
「援助する理由はどういったものですか?」
「君は……いい質問をするね。援助する理由。それは、身分によって優秀な者が排斥されるのを防ぐためだ」
かなり善良な組織と見て良さそう。
表立って活動しないのは、必ず邪魔が入ると考えてだろうか。
身分を盾に平民の子たちを虐げていることはよく聞く。
優秀な人限定なのは引っかかるけれど、その人が成長できれば自ずと周りも守ることに繋がると考えれば、理に適っているのかも。
「よし。理解できたみたいだね。それじゃあ、私たちの活動拠点を教える。ついて来てくれ」
そこで教室を後にする。
私とクラリッサが先輩の後ろに位置し、固まって行動する。
「ここだ」
「何も……ありませんけど……」
「特殊な扉でね。ここに魔力を流すと………このように扉が開くのさ。登録された魔力が鍵だからバレることもないのさ」
「凄い技術ですね。誰がこんな……」
「そうだね。案外近くに居るかもだけど」
「?」
最後の言葉に私たちは首を傾げる。
そんな私たちを気にすることなく先輩は前に歩いて行き、それに遅れないように着いて行く。
結論から話すと、そこは地下に繋がっており、学園の地下に巨大な空間があることがわかった。
そこには様々な施設が建設されており、様々な分野の研究も行うことができるようになっていた。
学園には生徒代表会というものが存在しているが、それよりも巨大な組織であることが一目見て理解できた。
私たちは魔力の登録を行い、自由に行き来できる鍵を作成した。
組織のことは他言無用。
バレると推薦した人間も懲罰を受けることになるらしく、案内した先輩含め多くの生徒が不幸になることだけ最後に告げられた。
それには少し恐さを感じたけれど、言わなければ問題ない。
それに、生徒代表会には秘密組織を知っているものが多数在籍しているため、議題にそれらしきものがあると、自然とその人たちで対処するように仕組まれているらしい。
その日はそれで終了。
昼前に終わったこともあり、学園長の呼び出しにも間に合う。
クラリッサ含めクラスメイトたちと別れて、私は学園長室に向かった。
◆◆◆◆◆◆
コンッコンッ――――。
「入りなさい」
ノックをすると中から学園長の
私はドアノブを捻って扉を開けた。
「失礼します」
「よく来たね。ささ、そこに座りなさい」
「はい」
「ほっほっほっ、楽にしなさい。誰も来はせんよ」
「ふぅ………防音もついてるの?」
「ああ、そうだとも」
安心でき口調も変える。
私と学園長とは少し変な関係になっている。
何でも、私の産まれた集落は元々王族が作ったモノと、学園長が言ったのが始まり。
集落の誰も、両親もそんなことを言っていなかったため、信じられなかった。
ただ、知る人ぞ知る歴史書にはそのことが書いてあるらしく、学園長もそれを持っていた。
私もそれを読んで事実であることを理解した。
ただ、この事実を伝えることは辞めておいた方がいいらしい。
そして、更に驚くことに、私と学園長は親戚らしい。
親戚といってもそこまで近い関係ではないらしいが、学園長はその事実を知り私の入学を進めたみたい。
ヘルトにも声をかけたみたいだけど、それは叶わなかったらしい。
そんな変な関係であるため、二人の時は口調を変えても怒られることは無かった。寧ろ、堅苦しいため自然体でいて欲しいとお願いされた。
「秘密組織の話をしていたようだね」
「聞いてたの?」
「まあ、アレくらいの防音は簡単だったぞ。ほっほっほっ――――」
「凄いねぇ。秘密組織のこと知ってたの?」
「当然じゃな。何せ儂が立ち上げたのじゃからな」
「え………!? そうだったの!」
「うむ。本当の話じゃ」
軽く聞いてみれば考えられない事実が判明した。
集落のできた理由といい、親戚といい、秘密組織と最近驚いてばかりだ。
学園長が凄いことだけはすぐに理解できた。
「さて、休暇の話をしようかの。フェリンは村に戻るかね?」
「……ううん。戻らない」
話は休暇の話に変わる。
「ふむ。では、休暇の間何をするのじゃ?」
「実戦を経験したいと思ってるの。ギルドに登録して」
「そうか………」
学園長は否定することもなく一度頷く。
「それならば条件をつけようかの」
「条件?」
「さ、入って来なさい」
「失礼します」
凛とした高い声が聞こえて来る。
入って来たのは赤髪赤目の女性。
騎士とも言えない軽装備。そこで女性が冒険者であることを理解した。
「冒険者のハンナじゃ。フェリンはまだ学生で学園が預かる身。何かあっては困るからの」
「護衛ってこと?」
「それもあるが、冒険者というのを近くで学ぶためじゃな」
「……なるほど」
ハンナという女性を置いて話を進める。
どんな人か知らないが学園長が依頼した人なら間違いない。私は信用してハンナさんに挨拶をする。
「よろしくお願いします。ハンナさん」
「ああ、よろしくな」
握手を交わす。
「うむ。儂からの話は終わりじゃが、どうする? フェリン」
「ご飯食べたらギルドに行ってみたいかな」
「そうかそうか。ではお昼とするか」
学園長がそう言うと、扉を開けて給仕たちが準備を始め、あっという間に三人分の料理が運ばれて来た。
私は遠慮なくそれを口に運び、食事を終えるとハンナと共にギルドへと向かった。
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