第28話 終幕



 確実に心臓だ。

 クソッ…………また刺されて死ぬのか…………。


「ハァ……ハァ……ハァ…………」


 近くでホヌフィンの呼吸が聞こえる。

 気が動転でもしたか……?

 人を殺すつもりなんてなかった。そんなことを言うに違いない。

 手首と命。比べ物にならない。


「ふぅぅ…………ふん」


 ホヌフィンはどこかスッキリとした表情を見せた。

 は? コイツ天秤が壊れてやがる。

 結局コイツも伝統貴族。本性が出た。

 …………絶対に殺す。

 ホヌフィンと魔力で突き飛ばした奴は、絶対に殺すっ。


 薄れる視界の中、オレは意識を治療に切り替える。

 遠くから幾つかの足音が聞こえて来るが、邪魔でしかない。耳障りだ。

 体内魔力と体外魔力…………自然魔力を集めろ。


「な、なんだ?」

「魔力が彼にっ!」


 うるさい。黙ってろっ。

 自然魔力が多い。体内魔力が足りない。

 何とか意識は繋いでいられる。

 でもこのままだと治療は難しい。

 もっとだ、もっと集めろ……。


「ヘルトっ……!」

「必要なこと、必要なことっ……」


 クルデアとカイガか。

 助けに来てくれたのはありがたい。

 ただ、何も出来ねぇよ。

 もうオレしかどうすることもできない。


「すまない……静かに、しててくれ」


 本音を告げ魔力に集中する。

 やっぱりダメか……体内魔力が足りない。

 …………あぁ、やるしかないか。


 その一瞬、オレは体に魔力を張り巡らせる。

 何故そう思ったのかは思い出せない。

 ただ、解決手段がそれしかないとも思った。

 体の全細胞超高速代謝。

 細胞の活性とでも言おうか。

 寿命は削られるだろうが仕方ない。


「何が起きている……」

「これほど凄まじい魔力圧…………世に出せないな」

「学園長。準備を」

「分かっている。ただ何かが起きようとしているのだっ。見逃す訳にはいかない」


 熱い。体が熱い。

 燃えたことないが、自分が燃えている感じがする。

 傷も塞がって来た。

 魔力を通して細胞の活性が伝わってくる。

 もう少しだ。もう少しで…………。


「カラド様っ、やりました」

「ホヌフィン。よくやったな!」



 ◆◆◆◆◆◆



 すぐ近くで二人の声が聞こえた。


「カラド様の助けがあってこそです」

「何、少し手を加えてやっただけだ。追い詰めたのはお前だ」

「ありがとうございます。これで奴も死んだと思いますが、今後はどのように」

「何もする必要はないだろう。魔力痕もこの自然魔力じゃ消え失せる。何かしようとしてるみたいだが、どんどん弱って来ている」

「そうですね。後は、ただ選抜戦を続けるだけですね」


 二人の会話が明確に聞こえる。

 細胞の活性と魔力を研ぎ澄ませているからだろう。

 しかし、内容は良くない。ホヌフィンとカラド、二人でオレを殺害したと自白しているようなもの。許すわけがない。

 

 話の流れから察するに、魔力で突き飛ばしたのはカラドということになる。

 いずれと思っていたが、今殺すしかない。

 もう、治療も終わる。

 魔力に集中すれば、臓器が修復、回復しているのが理解できた。

 後は傷が塞がれば完治。

 爪と髪が伸びているが、今は気にしない。

 痩せた体も見慣れないが、考える必要はない。


「治ったな…………」


 胸をさすり傷がないことを確認、理解する。

 オレは横に落ちた鉄剣を拾い、まだ話しているホヌフィンに近づいた。

 意識すれば一瞬。ホヌフィンの目の前に到着する。


「誰だっ……!?」

「オレだよ、ホヌフィン」

「お前は死――――」


 体を貫く感触。

 切断した時より気持ちが悪い。


「があ゙ぁ…………」


 剣を持つ右手に魔力を流す。

 突き刺した剣をそのまま下へおろす。

 その後、勢いよく上に振り上げる。


「終わり」


 次はカラド。

 先程と同じく、意識すれば一瞬で目の前へ移動した。

 魔力の流れに無駄がない。出力も完璧。

 地面を蹴っても音がしない。

 至ってはいけない領域にオレはいるのかもしれない。


「……ヘルトか――――」


 両腕、両脚膝下を切断。


「な、な、何が起きた……何が起きたっ――――!!」


 早過ぎて感覚がイカれたか。

 急に落下したことにビビってやがる。


「両手両脚切ったんだ」

「は……はぁっ…………!? 嘘だ! 絶対嘘だ!!」

「うるさい」


 最後に首を切り落とす。

 ……やることはやった。

 集めていた魔力を解き放つ。

 周囲の人間はそれだけで気絶。

 クルデアとカイガは辛うじて意識があるが動けまい。

 二つの死体が晒される。


「「キャァアアアアアア――――――――!!」」


 悲鳴が会場に響き渡る。

 オレは観客席を降りて会場の中心へ向かう。



 ◆◆◆◆◆◆



 剣を鞘に戻し、立会人の元へ向かう。

 近づく度に体を震わせ恐れているように見える。

 ただ、もう殺しはしない。

 穏便に事を運んでほしい。


「君は……ヘルト選手、なのかね……」

「ああ。早く警備を呼べ」


 両手を合わせ手を差し出す。


「警備の者――――!!」


 二人の男が会場へと入る。

 行動は速やかで、立会人の元へ駆け寄ると説明を聞き、オレの両手に枷を付けた。

 拘束されたオレは入退場通路へと連行される。

 ただ、それと同時に学園長の話が始まった。


「皆の者、どうか冷静に」


 まずは観客たちを落ち着かせ、注目を集める。


「今、我が学園の生徒によって二人の命が奪われた。許されない事である。しかし、彼、ヘルト少年がそうするに至った原因も皆知っているはずだ」


 学園長は続ける。


「彼が口にした事は全て事実。伝統貴族によって多くの被害者が出ており、中には死者も存在する。そして、これはアグル学園創設五年目から続くものである」

「そんな……」

「私は一つも知らないぞ……」

「約200年もの間、起こり続けていたというのか」


 通路近くの貴族から声が聞こえた。


「私もこの学園に通っていた時期もあるが、当時は知りもしなかったこと。それだけ巧妙に隠され続けていたことなのだ。不甲斐なく思うと同時に、改善しなければならないとも思った」


 皆真剣に学園長の話を聞く。

 何かが変わる。そんな雰囲気を誰しも感じているのだろう。


「今ここで伝統貴族を断罪しても意味ない事は皆理解できていると思う。よって、副都アグルに住む伝統貴族全てに賠償金を要求し、被害者遺族への謝罪、都市の改革を進めるよう進言する」


 パチパチパチ――――。

 拍手が聞こえ、それは徐々に大きく、喝采へと変わる。

 それを背中越しに聞きながら、オレは馬車へと乗り込んだ。


「外れたなぁ…………」



 ◆◆◆◆◆◆



 レールから外れた。

 拘束され、オレは森の中を馬車で移動させられていた。

 二人の警備がそのまま同乗しており、馭者含めて全員で四人。

 どこれ連れて行かれるのだろうか。


「もうすぐ目的地だ。運が良いのか悪いのか。お前には任務が与えられている」

「任務?」

「ああ。降りろ」


 馬車が止まり下車を促される。

 オレはそれに従い外へと出る。


「デカい屋敷……森の中に」

「ほら、着いてこい」

「はい」


 森の中にある大きな屋敷。

 塀に囲まれており、門は鉄の格子。

 少し歩いて玄関という感じだ。


「お前は学園長先生。プルト・イングリースの命により死刑を免れる。ただ条件があり、それは後ほど通達が来る。屋敷にて待つように」

「分かりました」


 鉄の格子の奥。

 屋敷の敷地に先に入れられ、格子越しに手枷を外される。

 その後、連行して来た三人は森の中へと消えて行き、オレは屋敷に一人となった。


「まずは掃除か……」


 何かあるか屋敷内を巡ったが何もなく、ただ埃が凄かった。

 オレは通達があるまですることもないため、屋敷の掃除、敷地内の草刈りを行った。


「ヘルトー!」

「……ホイナス?」


 門の先にホイナスが来ており、格子を開けて敷地へと進入して来た。


「どうしたんだ? ホイナス」

「通達があると言われなかったか?」

「そういうことか」

「んじゃ、早速。通達。森の中に潜む魔物の討伐、出荷を定期的に行うこと。一年終業の式には参加してもらうため、近くなれば迎えが来る。それまで命に従い生活すること。だってよ」

「そうか……」


 どうやらまだ、レールからは外れてないようだ。

 学園長は使えないと思っていたが、評価を改めなければならない。


「とりあえず必要そうなもの持って来たから運ぶぞ」

「分かった」


 ホイナスと共に屋敷へと荷物を運ぶ。

 荷物と言っても、服の替えなどの日用品が主。

 ホイナスはそれだけ届けてまた森の中へと消えて行った。


「退学でもおかしくないがなぁ…………」


 まだ学園に在籍していることに驚きながらも、オレは今後何があってもいいよう計画を立て始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る