第24話 選抜者
王都ランク学園では、例年よりも早く選抜戦が行われることとなった。
早めに選抜を決めることで、他の学園の生徒より成長できるようにする、学園長の考えだった。
観客は伝統貴族、低級貴族、平民、旅人、商人と様々。
その人数の多さに、フェリンは圧倒させる。
「うわぁ……すごいねぇ……」
「毎年このくらい集まるわよ?」
「えぇ〜!? そんなに!?」
いつもより舞い上がるフェリンにクラリッサは微笑む。ただ、すぐに切り替え、自分の思いを告げる。
「フェリン。貴方と戦えるように勝ち続けるわね」
「じゃあ、私もクラリッサと当たるまで負けないね」
二人は笑顔で約束する。
以前の試験では、相手として決まっていたにも関わらず、上級生の邪魔が入りお預けとなっていた。
フェリンはあまり気にしていなかったが、クラリッサは折角の機会が失われ、いつか必ず――――そう思っていた。
いよいよ初戦。
選抜戦の第一試合。
この大会を盛り上げる重要な試合でもある。
そこに選ばれたのは――――フェリンだった。
「いってらっしゃい。フェリン」
「うん」
クラリッサに見送られたフェリンは、先程までとは違い落ち着き払っていた。
戦闘になれば人が変わる。
クラリッサはフェリンをそんな風に分析していた。
「さあ! いよいよ始まるランク学園選抜戦。その初戦、第一試合を飾るのは、突如現れた天才一年生! フェリン選手です」
「「おぉ……!!」」
実況が声を出してフェリンを紹介する。
都市全域に知れ渡った名前に観客は期待の声を上げる。
相手が不憫だと感じる人もおり、圧倒的な注目を浴びてフェリンは初戦に望む。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ。よろしくお願いします」
対戦相手は同じ一年生男子。
決められた位置に二人は移動し、始まりの合図を待つ。
「それでは、第一試合! 始め!!」
声が響くと同時に、対戦する二人は一直線に相手に向かう。
一瞬で二人の距離が無くなる。
キンッ――――、ドサッ――――。
甲高い音が響き、何か物質のあるものが落ちる音が聞こえる。
観客は置いてけぼり。
会場には凛と立つ一人の少女の姿が見える。
静まった会場は、勝利宣言の後爆発する。
「勝者! フェリン選手〜!!」
「「おおぉおおおおおお――――!!」」
こうして、選抜戦が開幕した。
フェリンは控え室につながる通路へと戻る。
「次は私ね」
「うん。頑張って、クラリッサ」
入れ替わるようにクラリッサが会場へと向かい。
次戦が始まった。
それから選抜戦は進み、16人が勝ち上がるところまで来ていた。
フェリンは初戦と2回戦を同学年、3回戦を三年生。
残り8人になるため、四年生と戦っていた。
「三年も先に産まれてんだぞっ…………クソッ」
フェリンの相手が愚痴を漏らす。
ただフェリンは容赦なく攻め立てる。
そして――――フェリンの勝利で試合は終わった。
◆◆◆◆◆◆
フェリンとクラリッサは、残り4人を決めるというところまで勝ち進んだ。
例年一年生がここまで勝ち上がることは無く、その事実に会場は熱を帯びていた。
そして、その4人に入るため、その二人が対戦することになった。
「やっとだわ」
「お互い全力だよ」
「ええ、貴方こそ手は抜かないで頂戴」
「うん」
二人は同時に会場に姿を見せ、歓声を受け止める。
その期待に二人は困惑するが、すぐに気を取り直し目の前の相手を見据えた。
試合開始。
二人は直線に飛び出し衝突する。
力と力の押し合い。
先に仕掛けるのはフェリン。
力でクラリッサの剣を押さえ、自分の剣が地面と平行になりかけた瞬間。横薙ぎに剣を振る。
クラリッサは後ろへ跳び回避。
互いに魔法の準備をしながら接近する。
だが、クラリッサが速く、触れ合う手前で魔法を放つ。
フェリンは地を踏み抜き高速回避。勢いそのままクラリッサに突っ込む。
目の鋭さ。
クラリッサはフェリンのそれを見て、恐れを抱く。
一瞬の怯み。
フェリンは逃さなかった。
準備した魔法を至近距離で放ち、追撃へ向かう。
魔法は着弾し、クラリッサは吹き飛ばされる。
ただ剣を盾にしており、怪我一つない。
フェリンの高速剣撃が襲う。
それには観客も息を呑む。
会場は剣撃の音だけが響く、異様な光景。
実況すら声を出せずにいた。
猛攻は止まらない。
クラリッサも何とか防ぐが、徐々に押され始め、傷をつけていく。
クラリッサは、一瞬を見計らい何とか逃げ延び距離を取る。
肩で息をするクラリッサ。
息の乱れがないフェリン。
決着は目に見えていた。
クラリッサは勝負に出る。
全魔力を込め魔法を放つ体勢を整えた。
フェリンはそれを受け、剣に魔力を込め迎えた。
会場は魔力の多さにどよめき、被害を被らないか気が気ではなかった。
魔法が放たれる。
水魔法、五つの強烈な水流が龍となりフェリンへと向かう。
フェリンは次々に迫る水の龍を切り裂き、クラリッサへと迫っていく。
踊るように
クラリッサですら、その動きに目を奪われる。
全てを切り裂きフェリンはクラリッサの元へと到着。
首に剣が添えられる。
「参りました」
「ふぅ………楽しかったね!」
クラリッサは屈託のない笑顔を見て気を失った。
フェリンはクラリッサを支え、運ぶのを手伝い会場を去った。
◆◆◆◆◆◆
結局、優勝したのはフェリンだった。
実力の違いがあるとして、1〜4年と5、6年で分けていたため、フェリンは低学年の部で最強となった。
順位的には下になっているが、決勝を見た観客は、クラリッサが次点だと納得しており、クラリッサの評価も高いものとなっていた。
選抜戦も終わり、後は一年の総まとめというところ。
フェリンとクラリッサは呼び出しを受けた。
「お待たせしました」
「失礼します」
扉を開け入った先には、上級生優勝者と上位陣が集まっていた。
「えー、皆に集まってもらったのは、学園対抗戦へ出場してもらうためです。追って連絡は行くと思いますが、その準備を怠らないようお願いします」
呼び出した教師が速やかに説明を行い、用件を済ませる。
上級生たちはそれで終わりと知っているため、続々と部屋を出ていく。
フェリンとクラリッサ二人は、それを見ていることしかできず、全員が部屋から出てから行動を始めた。
「学園対抗戦か……楽しみだなぁ」
「その前に試験があるわよ」
「頑張ります」
二人は教室へと足を進める。
しかし、扉が破壊されているのが見え、二人は走った。
◆◆◆◆◆◆
「どうしたの!?」
フェリンが教室に居るはずのクラスメイトに呼びかける。
しかし、声が返ってくることはなく、呻く声だけが響く。
クラリッサも中を確かめ、その有様に言葉を失う。
教室は荒らされ、クラスメイトは怪我を負って倒れている。
フェリンは全員を廊下へと出して容体を確かめる。
その間に医務官へ伝えに行ったクラリッサが戻って来て、フェリンとクラリッサ、遅れて来た担任は現状を確かめた。
「誰の仕業かしら……」
「犯人の特定は急ぐとして、君たちはどうする?」
「話を聞きます」
「分かった。犯人が判明次第、君たちを呼ぶ」
「ありがとうございます」
数日後。
犯人が見つかり、フェリンとクラリッサは話し合いの場を設けてもらう。
「何故あのようなことをされたのですか?」
「貴族の私が平民如きに負けるのが許されないからだ」
「なら何で私を狙わなかったの? クラスメイトは皆貴族だけど」
「関係ない。お前と親しくしている者を痛めつけてやりたかっただけだ」
「はぁ………」
クラリッサはあまりの愚かさに溜息をつく。
フェリンは自分ではなくクラスメイトに危害を加えたことに怒りを覚えていた。
ただ、それをぶつけても意味ないことを理解し、思っていることを説明するよう口にした。
「貴方たち貴族は才能に全てを委ねているから負けたんです」
「はぁ? 何言ってんだよ。才能の世界だろうが」
「はい。それも重要です。ただ、それだけじゃ足りないということです。貴方が私に負けたのは、才能と鍛錬、運、全てです」
「馬鹿にしてんのか!!」
「はい。あの日、貴方は一つも私に勝っていません。これから先もそれは変わらないでしょうけど」
フェリンは言いたいことを言うだけ言って席を立った。
クラリッサも後を追い、話し合いの場は男の貴族の心を折るだけのものになった。
フェリンは、この日を機に更に激しい鍛錬を行なっていく。
クラリッサは自分のペースを保ちつつ、フェリンが躓いた時に支えられるよう目を配った。
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