第21話 学園長の思惑
私がアグル学園学園長に就任してから、様々なことを行ってきた。
横暴な貴族たちの調査もその一つだった。
9年前からそれは目につくようになった。
ヘルト・アンファングが直談判して来た時の件。入学前事件だ。
それまで私は、平民の入学への関与をしていなかった。
別に担当する者がおり、その人物に任せていたのだ。
だが、ある日彼が妙な報告をして来たのだ。「平民の子が殺されている」と。
偶然の事故ではなく、故意的な殺害であると。
私はあらゆる手を講じて、毎年それを阻止しようと試みた。
しかし、全てを阻止することはできず、毎年必ず死者を出していた。
担当していた者は、今でも私の下につきこの問題に取り組んでいる。
人数も増やし、調査も大規模に行った。
勿論、それは隠してだ。
世間に話が広がることはなかった。
しかし、この入学前事件は、私が生徒として学園に在籍していた時から、既に行われていたことが判明した。
全くの初耳。当時から行われていたなんて思いもしなかった。
顔見知りが関与しているかもしれない。
絶対にこの問題を解決しなくてはならない。そう思った。
学園の馭者たちは、生徒の送迎以外にも任務がある。
私の個人的な組織の一員でもあるからだ。
今年の事件では多くの証言がある。
それを元に、学園と一般生徒の故郷を繋ぐ道、村、集落、その他全てを調べるよう命じた。
今回でこの事件は確実に終わらせる。
◆◆◆◆◆◆
伝統貴族の悪行は、入学前事件だけではなかった。
遡れば学園創立から五年後。
初年度一年生の生徒が六年生になった時からだった。
始めは六年の特権として、扱われたようだが、些細なことから始まり徐々にその権力は増大していった。
時が経つにつれ、その権力は伝統貴族全体で使われ始め、その時から低級貴族とされる生徒や平民の生徒が虐げられるようになっていたそうだ。
その頃から、暴力を振るい、性暴力で尊厳を奪うといったことが行われて来たようだ。
中には責任を取って妻とした者や従者にした者も居たそうだが、それが美談とは思わない。
創立20年後には、入学前平民入園試験として、私たちが言う入学前事件が行われ出したようだ。
始めは少数で行っていたようだが、暴力や性暴力の秘密共有のせいで、その数はどんどん増えていった。
妨害する手段は様々あり、中でも酷いのが、盗賊に襲わせその後所有の館で拉致監禁、強姦というものがあった。
被害に遭った者たちがどうなったかまでは分からないが、とても生活に戻れたとは思えない。
他にも、隠れて会合する者たちがいることも突き止めた。
それも、始めは悪行を自慢する雑談場所で、人数が増えるごとに組織化されたようだ。結果、個人で行われていた悪行も複雑化していき、それは今も続いているようだ。
恐ろしいことが学園で起き、今では卒業生たちが形成する貴族社会にも蔓延していると思われる。
学園だけの問題では無いため、ホイナスら以外の別組織を作る必要もありそうだ。
できれば罪を犯していない伝統貴族も仲間に引き入れたいが、正直難しい。
ここまでの悪行が続いている。知らないと言っても疑われるのは必至。
ヘルト・アンファングも、これを知っていて一人で背負い込んだのかもしれないな。
組織として、秘密が漏れない仕組みは賞賛するが、行って来た行為は褒められたものではない。
これは伝統貴族全体の責任。
この資料を残して来た過去の学園長たちの為にも、私の代で終わらせなければならない。
◆◆◆◆◆◆
ホイナスらから報告が続々と上がって来る。
季節外れに熊狩猟の格好をした人間たちが居た。狼を数十頭カゴに入れて運ぶ連中が居たなど、山や森を経由していた生徒の道程には、その事実が報告として上がってきた。
他にも、橋が崩落していた。盗賊が何故か通行を止めていたなど、様々な報告が続々と上がってきた。
私はそれらを読み、洗い出された人物と伝統貴族の繋がりを確かめた。
すると、出て来る名前は、ヘルト・アンファングが問題を起こした時に共に上がって来る名前ばかり。
ヘルト・アンファングには、別で監視をつけ現状は知っている。
そのため、名前が上がった伝統貴族たちは確定黒だが泳がせ、その時が来るのを待つ。
この間に被害を受けた者たちには、影の者が治療したり、計画の開示、黙秘の報酬を払うなどして対処する。
◆◆◆◆◆◆
私の計画は、選抜戦で発動する。
それまでは全て下準備。
ヘルト・アンファングの動向で彼が情報を握っているのは分かっている。
恐らく彼も、選抜戦で何か行う気だ。
通年観客として伝統貴族が来るのを知っているのかもしれない。
ただ今年は、学園創立200年。
盛大な選抜戦となる訳で、会場も大きく観客もそれ相応に呼ぶ。
現に在籍する伝統貴族生徒の親は勿論、学園で罪を犯しのうのうと生きる伝統貴族も、その繋がりある者全てを呼ぶ。
何も犯していない潔白な伝統貴族も呼び、この問題の解決へ移行する空気を自然と作ってもらう。
ヘルト・アンファングは必ず選抜戦に出て何かしでかす。
ただ彼には伝手も何もない。彼が主張したとて信じるものは少ないだろう。それは仕方ないこと。
私は後出しをして信憑性を上げるとしよう。
彼が何もしなくても万事計画が進むよう、会場や施設の設営を済ませる。
盛大に祝おうじゃないか。
創立200年と苦しみの解放を。
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