第4話 幼馴染



 父の出張? が少なくなり、それと合わせて集落が盛り上がり始めた。

 理由は、祭りが開催されるとのこと。

 ただ祭りと言ったが、これはオレのニュアンスでしかなく、やる事は魔力持ちの人間を祝うというもの。


「ヘルトはなかなか同年代の子と遊べないからな。友達ができるといいな」

「はい」


 父と集会所に向かいながら話す。

 少し家が離れているというのもあって、自然と会う機会が無い。

 父はそれを少し気にしているようだ。


「グランツさん。息子さんですか?」

「ええ、ヘルトと言います。中々会うことがありませんでしたが、よろしくお願いします」

「お願いします」


 集会所に着き父は誰かに話しかけられた。

 その際、オレを紹介していたため、流れで挨拶を行った。


「ほら、あそこにヘルトと同じ子たちがいる。行っておいで」

「はい。分かりました」


 父に指差し教えられた場所に目を向け、そこに居る三人の少年少女を認識する。

 到着してすぐ薄らと魔力反応があったが、どうやらその三人のもののようだ。


「やあ、君たちも呼ばれたの?」


 自然に三人の輪に入り声をかける。


「見たことないね」

「初めて」

「お前もか?」


 三者三様というか、少女二人はお互いに目を合わせ確認し合い、少年は聞き返して来た。

 少女二人は顔がよく似ている。恐らく双子だろう。


「うん。僕たちのためのお祝いらしいね」


 少年の問いに答える形で返答。


「じゃあ、みんな魔力を持ってんだな」

「持ってる」

「あるよ」


 魔力について初めて話したのか確認している。

 魔力を感知できていない?

 自分ができていることがおかしいのだろうか。

 いや、もしかしたら魔力量だったりで感知出来ないのかも知れない。


 魔力は不明な点が多すぎる。

 あまり外と交流も無いみたいだし、集落に知識がないのも仕方がない。

 独学で解明していかなければ。


「他にも呼ばれてる人は居るのかな?」

「あと二人だったな」

「へぇ、そうなんだ」

「凄い。六人」


 確かに。

 一度に六人の魔力持ちが出現するのは、何もなかった集落では異常事態。

 奇跡の年。

 そんな御触れで催しの開催を決めたのだろう。


 ただ魔力について何も分かっていない。

 今回の同時出現は、もしかしたら悪い兆しの可能性だってある。

 まあ、集落内にも魔力持ちの大人がちらほら居るし、考え過ぎない方がいいだろう。


「ん?」

「どうした?」

「いや、何でもない」


 大人と子ども。

 魔力持ちとそうでないもの。

 それらを見比べてるうちに、ある事実を知った。


 魔力持ちは美形な顔立ちをしている。


 これは危ない。

 集落ほどの人数では何も起こらないだろうが、都市に行けば危険な思想が存在しているかもしれない。

 考え過ぎだといいんだが………。



 ◆◆◆◆◆◆



 少し離れたところで声が聞こえた。

 ………村長。

 節々にその単語が必ずあり、近くにこの集落の村長が来ていることを理解した。

 ただそんな村長は、オレたちの方へと近づいて来る。


「君たち。この子も混ぜてくれないかい?」


 姿を見てそこまで年老いてないと感じつつ、告げられた言葉に首を傾げる。

 子どもがいない。

 誰のことを言っているのだろうか。

 他の三人もポカンとしている。


「あ、ああ。この子だよ。少し恥ずかしがり屋でね」


 村長が後ろから子どもを引っ張り見せて来た。

 少し無理にだったが、必死に隠れようとしている姿はなかなか面白かった。


「分かりました」

「おお、ありがとうね。よろしく」


 オレはその子に近づき手を握る。

 少しは安心できるのではないか。

 そう考えての行動だった。


「よろしくね」

「……うん」


 緊張が解けないようで、まだぎこちない。

 率先して行動した手前どうにかしないといけない。

 馴染ませるためには、打ち解けるためには、どうすればいいか。


「僕の名前はヘルト。君の名前を教えて」


 選んだのは自己紹介。

 名前を呼び合えば、少しは心の距離を縮めることができる。そう思った。


「ぼ、ぼくは、ゼンズリーベ……」


 一人称的にも名前的にも男の子。

 しかし、顔も体も表情も仕草も、どれもが女の子。

 そういうこと、なのか?

 半信半疑だが、特徴を加味して呼び方を変えよう。

 特別な呼び方があれば、更に打ち解けると思われる。


「よろしくね。リーベ」

「……う、うん」

「村長の時みたいに、後ろに隠れてもいいよ?」

「い、いや……」

「少しずつ直せばいいからね」

「………」


 コクッと頷き、リーベはオレの背中にくっついた。

 隠れるほどの大きさはないため、密着することで安心感を得ようとしているのかも知れない。

 まあ、些細なことだ。


「ず、ずるいぞ!」

「わたしも!」

「んも!」


 よく分からないが、先にいた三人が無理矢理手を握って来た。


「一人一人手を繋ごうよ」


 三人は流石に無理だ。

 一人一人片手ずつ繋げば問題ない。


「そうだな」

「じゃあこうだね」

「こう」

「うん。これでよし」


 リーベがオレのすぐ後ろにいるため歪な円になったが、全員で手を繋ぐことができた。

 まだ4歳だしこんな感じなんだろうな。


「さっき名前言ってたよな。もう一回教えてくれよ」

「ああ、そうだね。僕はヘルト。君は?」

「俺はレーター」

「わたしはルーフェ」

「ディート」

「……」

「リーベ。この子はリーベって呼んであげて」


 まだ難しそうであったため代わりに紹介した。

 赤茶色のツンツン髪のレーター。

 深緑のセミロングがルーフェで、紺のセミロングがディート。

 白髪に近い水色のショートがリーベ。

 こんな感じか。


「おう。ゆっくりでいいぞ、リーベ」

「よろしくね〜」

「仲間」


 三人とも理解を示す。

 誰かしら棘のあることを言うかと思いきや、そんなことは一切なく全員純粋そうだ。

 なんか眩しいな。



 ◆◆◆◆◆◆



 もう一人が集まることなく集会が始まった。

 初めの挨拶で祖母が出て来た時は少し驚いたが、それ以外は普通だった。

 ――――少女が出て来るまでは………。


「清めの儀式にて、驚異的な記録を叩き出した少女。フェリンちゃんです」

「「ふぉおおおおおお――――!!」」


 集落の人間が紹介を聞き盛り上がる。

 すると、壇上の奥から少女が姿を現した。


「………!!」


 茶色、ではなくブラウン。

 そう呼んだ方が合う髪色をしており、用意されていたのか装飾の入った服を着ている。

 本来は長いであろう髪も編まれており、普段集落で見ることのない髪型をしている。

 特別感のある衣装は無意識に目を奪われる。


 ただ、服というより顔から違う。

 オレたち魔力持ちの中でも飛び抜けている。

 その理由は明確で、感じる魔力が異次元。

 目にした瞬間の圧が半端ではない。


 横を見ればレーターたちも少なからず感じているみたいで、目を離せなくなっている。

 リーベに関しては、フェリンが出て来た時からよりオレに身を寄せて来ている。


 上には上がいる。

 分かっていたが、少なからず心にダメージはある。

 他の四人よりはまだマシだろうがな。


「なんだろうな、ほんと………」


 空を見上げた後、目を瞑る。

 嫉妬は多少あるだろうが少し違う。

 矛先を向ける対象は、少女フェリンではない。

 だが、まとめて考えてしまう。


 不自然に転生して来たオレの周りに、あまり出現することのない魔力持ちが複数現れる。

 それも一人は、魔力持ちの中でも特別な資質を持つ。

 比較するものではないと分かっていても、人間ならばそれをしてしまうもの。

 偶然も重なり過ぎれば仕組まれてるようにも見えて来る。


「………呆れてるのか」


 特別な人間だと錯覚させられ、競争心を煽られている。魔力を持つということが一つの仕掛け。

 魔力を持つもの、フェリンに対して特別興味はない。

 オレが引っ掛かってるのはこの現状。進行している世界に対してだ。


「だ、大丈夫……?」

「ああ、少し落ち着いたよ。ありがとう、リーベ」

「うん……!」


 感じたことのない初めての感情に振り回され、戸惑いつつもリーベに助けられた。

 あの時行動して良かった、か?



 ◆◆◆◆◆◆



 進行する催しを眺めつつ、オレは別のことに意識を向けていた。

 正確に言えば、魔力の資質を基準に当てはめていた。


 基準は既に定まっているオレの数値。

 五つの評価軸、十の評価値で総合的には決まる。

 だが、常識では魔力量の評価でざっくり決められている。

 今回はそれに則って考えてみる。


 まず基準となるオレの数値だが、魔力量4-。

 フェリンの訳の分からなさは5+で間違いない。

 高い順に並べると、フェリン、オレ、リーベ、レーター、ルーフェとディート、となる。

 数値にすると、5+、4-、3-、2+、2-、2-、だ。


 正直フェリンに関しては、他の評価値もほとんど5+であるように感じる。

 自分より下の値は分かる。

 だが、上の値はオレで言うと5-までしか正確には分からない。

 フェリンを5+にしているのも、明らかに上だが理解できないからだ。


 同じような環境でここまでの差。

 特別、天才という他ない。


「呼ばれてるみたい……」

「ん? ああ、行こうか」


 静かにしていたリーベが肩に触れ、オレの意識を現実に引き戻す。

 相変わらず手を繋ぎながら、呼ばれている場所まで向かう。


「集まったね。みんなにはこれから夢について話してもらおうと思います。将来あんなことしたい、こんなことしたい。それをみんなに聞かせてあげてほしいんだ。よろしくね」


 待っていた元気なお姉さんは一方的に話をした。

 面倒だ。めちゃくちゃ面倒だ。

 当たり障りのないことを言ってすぐに終わろう。

 ん? 左半身が揺れてる気が…………あっ。


「だ、だ……だだっ、だいじょぶ、だよ?」


 ダメだ。終わりだ。

 リーベの奴、普通に生活してて人見知り発動するのに、壇上に立って更に目立つとどうなるか分からない。

 無理をさせ過ぎるのは良くないよ。ほんと。

 どうするべきか。


「俺は、村のみんなを笑顔にすることだな!」


 レーターが告白する。

 漠然としたものだが印象はいい。

 何を言えばいいのか分からない。そんな不安は取り除けたんじゃないだろうか。


「ぼ、ぼぼ……ぼくはっ、次期……お、おさ、と……して」


 後一息か。


「大丈夫。このまま行こう。目を瞑って僕の手だけ感じるといい」

「こ、こう……かな?」

「うん」


 多くの人間を改めて認識すれば必ず何か起きる。

 それは避けたい。だからこその策だ。


「それじゃあ、上がってちょうだい!」

「準備はいいかい?」

「……うん!!」


 お姉さんに導かれ壇上に上がる。

 そして、既にそこで待っている少女の横へと移動する。

 オレとリーベの後ろにはレーター。ルーフェ、ディートと、評価値順となっていた。

 横からの圧を感じながら、彼女の言葉を聞く。


「私は、世界で起きてる魔物災害を防げるようになりたいです」

「「おおぉ……」」


 魔物災害? 初めて聞く言葉だ。

 聞いてる大人たちの反応からも、やれないことではない。そんな風に受け取れた。

 言い換えれば、5+の人間が言って初めて納得できること、となる。


 特別な資質を持ったばかりに、使命に生きると考えると少し切ない。

 まあ、本人の顔を見るに、そうでもなさそうだ。


「ディートは役に立ちたい。村のみんなが喜べるように」

「わたしは困ってる人を助けたいです」

「俺は村のみんなを笑顔にしたい!」


 あっという間に次々と宣言されていく。

 順番的にオレだったはずだが………まあいい。

 次はリーベの番。

 握っている手が震えている。


「大丈夫。リーベは何をしたい? 教えて」

「……」


 会場は静かになり、注目が集まる。

 あまり声を張り上げなくても聞こえるチャンス。

 改めてギュッとリーベの手を握る。


「ぼ、僕は! 村のみんなが、より豊かに生活できるようにしたい!」


 やけくそか、ちゃんと声を張り上げて宣言した。

 リーベの顔を見てみると、目を見開いて集まった人たちを見ていた。

 少しは克服できた、でいいのかな。


 さて、次はオレの番。

 何故かトリを任される羽目になってしまったが、気負いはしない。

 転生した時から変わらず、一歩一歩進んで行くこと。これがオレの目標。


「僕は、自分のできることを精一杯やる。ただそれだけです」


 そこで司会の人間が割って入って来て壇上から降りた。

 オレたちの出番は終わり、集会も最後に挨拶がある程度。

 壇上を降りれば、そこには母とフィルマが居て、他にも大人の女性が待っていた。

 みんなの母親か。


「リーベ。お母さんは居る?」

「うん」

「そう。じゃあ、またね」

「うん……今日は、ありがとう」


 手を離し、母の元へ向かうリーベに手を振る。

 たったの数時間、かなり距離が縮まったと思う。

 同級生で一番の友人はリーベになるかもな。


「ヘルト! またな!」

「ああ、また。レーター」

「またね」

「ね」

「うん。ルーフェ、ディート」


 全員に手を振り別れを済ませる。

 今生の別れではない。

 だが、掴んだ紐が飛んでいくような、手の中から離れた寂しさがそこにはあった。

 まだ遊びたい。もっと一緒にいたい。

 自然とそんな思いも出て来た。


「母さん。フィルマ」

「頑張ったわね。ヘルト」

「兄ちゃ」


 母親たちが子供を迎えに来てるということ。

 それはこれから父親たちで何かあるということ。

 間違いなく酒盛り。

 念のため父に帰宅を知らせるか。


「父さん。今から帰ります」

「ああ。ヘルトらしい宣言で良かったぞ。明日の朝は、手伝いがないからゆっくりしていいぞ」

「分かりました」


 父から休日を与えられた。

 丸一日何も無いことなんてあっただろうか。

 何かやった方が得な気もするが何をしよう。

 そうだな。折角だし、集落を――――。


「ごめんなさい。ちょっといい?」

「はい。何で……」


 母の元へ向かおうと歩き始めると、後ろから声をかけられた。

 返事をして振り向く。

 声の主は、今日の主役フェリンだった。


「何かな?」


 改めて用件を確認する。


「その、今日はやることがあって、みんなとお話しできなかったの。だから、その……」


 なるほど。

 みんなというのは恐らく魔力持ちのこと。

 確かに今日、誰かと話すことは難しかっただろう。

 まあ、仕方ないか。

 明日はみんなも同じように暇してるだろうし、集落を散策するついでに紹介するか。


「明日なら何もないからいいよ」

「ほ、ほんと!」


 なかなか子どもっぽい反応。いや、子どもなんだけど。

 見た目がそれを許さなそうだし、この子はこの子で何かありそうだな。

 まあ、関わる気はないけど。


「そうだなぁ……待ち合わせを決めたいけど」

「迎えに行くよ?」

「いやいやそれは」

「迎えに行くよ?」


 何だ? 何だこの圧は?

 断ったらどうなる。

 何が起こるか分からないけど、やめといた方が良さそうだ。

 まあでも、迎えに来てもらった方が楽ではあるな。


「分かった。僕の家は、ここを真っ直ぐ行くと」

「知ってるよ」

「え?」

「知ってる」


 こわっ。

 何だ何だ何だ!?

 マジで何だ?!

 分からない。本当に分からない。

 どういうことだ?

 どう、えぇ……?


「ごめんね。魔力で分かっちゃったの」

「……なるほど、ね。じゃあ、好きな時間に来ていいよ。準備しておくから」

「うん。ごめんね」

「いいよ、気にしないで。じゃあ、また明日」


 魔力で分かる、か。

 やはり彼女は異次元の資質を持っている。

 距離があっても、明確に魔力の存在を理解できているということ。

 オレにはできない芸当だ。


 ただ申し訳ないことをした。

 良くない反応をして彼女を傷つけたかもしれない。

 最後の謝罪が、自分の異質さを理解しているものだとオレには分かった。

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