第四章

第19話 強者



 ある日、学園の教師が数人しか居ないという事態になり、臨時休校となった。

 そんなこともあるのか、と思いつつ教師が戻るまでの連休を楽しもうと決めた。


 いつものように、朝鍛錬を行い、昼もゆっくりではあるが体を動かし、生活魔法でサッパリさせ図書館へ向かった。

 誰も居ないだろうと思っていたが、そんな予想は外れ学園には多くの生徒で溢れていた。


 近くにセバルを発見したため、そこへ向かって歩く。

 セバルはそれに気づき、建物の陰に向かうことを指差して指示。オレはそれに従った。


「セバル。休みだよな?」

「ああ、そうだぞ」

「何であんなに人がいるんだ?」

「それなんだが………」

「どうした……?」


 言い淀むセバルに追求する。


「お前の先輩が一人。酷い状態で見つかった」

「命は?」

「何とかあるようだ。生徒の中に回復系の魔法を扱える奴がいてそいつが何とかしている」

「犯人はわかるか?」

「分からない。治療している奴が言うには、明確に後遺症が残る傷を与えているとか……」


 嫌な感じだ。

 わざわざそうやって傷つけている。


「セバル」

「何だ?」

「今後は更に警戒した方がいいかもしれない」

「了解した」

「じゃあ、また」


 セバルと離れ、オレは図書館へと向かう。

 何をどう警戒すればいいか分からないが、少しの変化も見逃さないようにしておきたい。

 今までの伝統貴族たちとは違うやり口。

 それに教師が少ないこのタイミング。

 外部か……? 誰かが依頼した、とか…………。

 実力者が動き出したとも考えられるか……。

 何にせよ、警戒して様子見だ。


 それから連休は何事もなく進んだ。

 しかし、連休最終日。

 またしても同じ場所で、一人の生徒が酷い状態で発見された。


「セバル」

「今回は低級貴族の人間みたいだ」

「協力者じゃないよな?」

「ああ。それだけは確か」

「そうか………被害者は何か活動とかしているか?」


 ふと気になりセバルに尋ねる。


「確か…………」


 セバルは目を見開く。


「どうした。心当たりがあるのか?」

「二人とも参加している。俺たちの会合にも…………」

「平民と低級貴族のやつか………?」

「………そうだ」


 これは明らかな宣戦布告。

 相手には知られていることになる。

 平民と低級貴族の関係も、セバルとオレが隠れて情報交換していることも、全部。

 少し相手を舐め過ぎた。

 まだ核の奴らに届いてなかったということか。


「セバル」

「……どうした」

「この先は覚悟しておかないといけない」

「覚悟ならしている」

「いや、相手は予想を超えて来ている」

「………」

「何が起きても抵抗し続ける。そんな覚悟をしなくてはならない」


 自分にも言い聞かせるように告げる。

 それを言い残してオレは自室へと引き返した。

 明らかな殺意がオレたちに向いている。

 こんなに近い日数で犯行が起こったとなると、外部ではなさそうだ。

 だが、外と繋がりのある者が核として、学園内で暴れている気がする。

 これからはそいつらとの戦いになる。

 気を引き締め直し、覚悟を決めなければな。



 ◆◆◆◆◆◆



 あの日から協力者の犯行が無くなっていた。

 低級貴族が発見された日からだ。

 嫌な予感を感じながら、オレは情報屋のセバルに尋ねることにした。


「協力者の犯行が無くなって報告も来なくなった」

「あの日、からだよな?」

「ああ」

「………もう一度手紙を送ってみる。そこで判断しよう」

「返って来なかったらまたここで頼む」

「ああ。時間はいつもと同じだ」

「分かった」


 セバルも協力者の失踪は掴んでいなかった。

 相手は確実に近づいて来ている。

 セバルが情報を、とも思ったが可能性だけの話で選択肢からは除外した。

 明日になれば分かる。だが、それが緊張を生む。

 後手後手でしか動くことができない今、相手からの接触を待つ以外に道はない。

 オレはその時を待つことにし、いつものように生活を続けた。


 翌日。

 届くはずの手紙は無く、オレは約束の場所に向かった。

 すると、


「……ヘル、ト…………」


 そこにはボロボロのセバルが倒れていた。


「セバル!?」


 慌てて駆け寄り容体を調べる。

 右目は腫れ、口の中は血だらけ。髪もボサボサで服も破れ汚れている。手足が変に曲がっているとかは無いが、状態は酷い。


「医務官を呼ぶ……!」

「頼む……」


 魔法で作り出した手紙を学園に在中する医務官へと飛ばす。


「何があった。聞かせてくれ」

「……やはり、あの時……やられて、いた」

「犯人は分かるか?」

「いや、見たこと……ない」

「分かった。後は傷を治すことに集中しろ」

「気をつけろ…………」


 セバルは意識を失った。

 それからすぐ医務官が到着し、セバルを任せてオレはその時が来るのを待つことにした。

 味方はおらず、一人で相手と対峙することになる。

 これまで受けて来た伝統貴族たちとは比にならない実力者の犯行。

 もうそこまで来ている感じだ。

 最近は呼び出しも無くなっていた。

 次の呼び出しを受ける時がその時だろう。



 ◆◆◆◆◆◆



 セバルがやられて数日後。

 とうとうヘルトは呼び出しを受けた。

 名前は分からず、日時と場所の指定のみだった。

 無視でも良かったがここまで来てそれはない、とヘルトは指定場所に向かった。


「誰だ? あれ……」


 そこには先に誰か来ており、呼び出した相手か知らぬふりしてヘルトは尋ねた。


「すいません。どちら様でしょうか? 名前も書いてありませんでしたが――――」


 魔法が飛んでくる。


「あっぶねぇ……いきなり何を――――」


 ヘルトは魔法を見送り、相手に詰めようと正面を向く。

 すると、既に次の魔法が飛んで来ていた。


「ッ――――」


 顔面と腹部に直撃し、被弾したヘルトは吹き飛ばされ、後ろの壁に衝突した。


「痛えなぁ………」


 ヘルトは何とか意識を保ち、四つん這いで相手を窺う。


「お前が主犯だと聞いている。これまでのことを謝罪すればここまでにしとくが………?」


 低い声色。

 ヘルトはそこで相手が男だと認識する。

 外套がいとうを使って姿を隠しており、逆光ということもあってヘルトは詳細にその男を見ていなかった。


「まずはお前たちが先だ。……お前たち伝統貴族が先に平民と低級貴族に謝罪するんだよ」


 ヘルトの答えは変わらない。

 これまでの行いは、全て伝統貴族たちから受けたことを返しただけ。

 だが、男にそんな理論が通用するはずもなく………。


「そうか………ならば――――」

「ッ――――」

「――――こうだ」


 ヘルトの腹部に鋭い蹴りが刺さる。



 ◆◆◆◆◆◆



 男はもう一度謝罪を要求し、ヘルトはそれを断り反論をぶつけた。

 二人はこれを何度も続けた。

 繰り返される暴力にヘルトの体はボロボロとなる。

 だが、ヘルトは反撃するために立ち上がった。


「まだ立つのか」

「ハァ…………ハァ………」

「容赦はしない」


 男は一言。

 それを残して一気に迫る。

 ヘルトは目を見開き移動速度に驚く。

 拳が届く。めり込み、魔力が集中し、腹を弾く。

 くの字に曲がりヘルトは飛ぶ。追撃の魔法。壁に当たる跳ね返りに着弾する。


 男は距離を詰める。

 煙が発生し、ヘルトの姿は見えない。

 男は風の魔法で煙を払う。瞬間。ヘルトの足が見える。


(立っている……!)


 ヘルトの反撃。

 男の鳩尾に肘がめり込む。

 魔力で強化されたそれは、魔力の防御を破りダメージを与えた。

 男は軽く宙返りして距離を取る。

 だが、膝をついてしまう。


「効いてるなぁ」

「そうかもな」


 スッと立った男を見てヘルトは実力の差を実感する。


 身体能力とか、資質や才能、努力して来た量、全てで負けている。

 これまでヘルトが戦って来た伝統貴族とは圧倒的に違う。

 資質や才能があり、尚努力した人間が目の前の相手。

 年月が違うにせよ、相手になってない。

 魔力値的には少し上。

 ヘルトは魔力評価値が当てにならないと思い始めた。

 ヘルトは息を整え、次は自分から攻勢に出た。


「無駄だぞ」

「知るかっ――――!!」


 ヘルトは男を信じ、自分の成長に目を向けた。

 これまで何人もの被害者が出ていたが、命を奪われた者は一人として居なかった。

 人を殺せば何かしら罪を背負うことになる。

 そう考え、男は殺人は行わないと冷静に分析していた。

 ヘルトはこの戦闘を成長するための戦いとした。


「こいつ……」


 男はヘルトの変化に気づき手加減をやめた。


「勘違いするな」


 殴り、蹴り、魔法を放ちながら、男はヘルトに告げる。


「お前との戦闘など、一瞬で終わる」


 男の言う通り、ヘルトは回避することすらできず、全ての攻撃を受け地面に転がった。

 意識を失ったヘルトに男は興味を無くし、その場を後にした。

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