第18話 圧倒的実力



 休暇中、私はハンナと共に冒険者活動をしていた。

 ハンナは手取り足取り教えてくれて、すぐに初心者は卒業することができた。

 魔物討伐も経験して、小規模な盗賊たちとも対峙することがあった。

 そこで、初めて人の命を奪った。

 正確にはハンナだけれど、そこに居合わせたのは事実であったため、私はそう思っている。


 覚悟はしていたけれど、ハンナが居てくれたおかげで乗り越えることができた。

 魔物災害を防ぐことが私の使命と思っているけれど、その前に人同士の争いを止めなくちゃいけないかもしれない。

 それもあって、ハンナには王都ランク以外の都市や国についてよく聞いていた。


 そんな日々を過ごし、休暇明け三日前になって私は思い出した。実技と筆記の試験があることを。

 私はハンナにそのことを伝え、休暇残りの三日は冒険者活動を休止した。

 学園も始まり、クラリッサ共久しぶりに会う。


「久しぶり、フェリン」

「うん。ひさびさだねぇ」

「日焼けしすぎじゃない?」

「ちょっと冒険者してたからね〜」

「え!? 大丈夫だったの?」

「うん。お姉さんが付いてくれたからね」

「そう……」


 クラリッサはコロコロと表情を変えた。

 心配してくれたのが少し嬉しかった。


「試験は大丈夫?」

「……何とか」

「今回も順位が出るみたいよ?」

「ええー!?」

「みんな貴方に追い付くために頑張ったみたいよ」

「そ、そうなんだ……」


 少し申し訳なさを感じつつ、試験に挑むことになった。

 三日前に思い出したとか言えないや。


「ふうー、終わったー」


 筆記の試験が行われた。

 何とか解けた実感はあったけれど、終わった後のみんなを見て今回は期待できないと悟った。


 試験が終わり、その日は終了となったが、皆休暇中の思い出を語り合って中々寮に帰らずにいた。

 私もクラリッサと話し、冬には招待すると言われて予定を埋めることになった。

 貴族の実家なんてどんな家か想像できないよ。

 クラリッサにもそう言ったけど、普通と返されて絶対違うなと確信した。



 ◆◆◆◆◆◆



 翌日。

 実技試験の内容が明かされた。

 内容は、対戦形式。気絶、もしくは降参と口にされた時点で終了となる。


 順番は前回の試験での順位とされ、対戦形式ということで相手はクラリッサとなった。

 クラリッサもそうだが、クラスメイトは試験に闘志を燃やしていた。


 クラスメイトは実技より筆記に秀でていた。

 だからなのか、みんなの相手は別のクラスの子たちで、実技でも負けない。そんな雰囲気を感じた。

 試験が始まり、どんどん進んで行く。


 クラスメイトたちは、特訓の成果なのか対戦相手にことごとく勝ち、それを見る私たちも盛り上がった。

 試験は最後となり、私とクラリッサの番になった。

 しかし、試験は遮られた。


「フェリンという平民はいるか? 私が直々に実力を見てやる」


 隣の試験会場に居るはずの上級生が入って来て、試験の邪魔をして来た。

 クラリッサは、横で身分について口にする上級生に苛立っていたけど、私はあまり気にならなかった。


「フェリン。別に受けなくてもいいわよ。多分だけど、フェリンが前回の試験で相手を倒したっていう噂を確かめるためだけだと思うから」

「そうなんだね。でも、受けようかな。クラリッサはああいう人嫌いでしょ?」

「そう、だけど……」

「クラリッサとはこれからたくさんできるでしょ?」

「そうね。ついでに私も相手してもらいましょう」


 クラリッサと小声で話し、結論を出した。

 私は声を出して遮って来た上級生。

 クラリッサは、その人の後ろにいる内の一人と対戦することになった。



 ◆◆◆◆◆◆



 クラリッサの試験が始まった。

 勢いよく飛び出し、二人は鍔迫つばぜり合いを行う。

 素の力では相手が男ということもあってクラリッサは劣勢。

 ただ圧倒的というほどでもない。

 真っ向からは難しいかもだけど、工夫をすれば勝てそうな感じがする。


「お嬢様のくせにやるなぁ」

「関係ありませんわ。貴方が弱いだけではなくて?」

「ちっ………」


 相手が踏み込みクラリッサに迫る。

 ただその動きは単調で、クラリッサは簡単に反撃を与えた。

 思ったより効いたのか、相手は膝をついた。

 クラリッサはそこで油断した。

 相手が魔法を発動させ、クラリッサを襲った。


 水の球と地面の揺れ。

 上下気にしなくてはならず、クラリッサに勢いのある水の球が直撃した。

 その威力は強く、クラリッサは吹き飛んだ。


 ただ、クラリッサも負けず魔法を放ちながら接近し、隙をついて木剣で打撃を与えていた。

 二人とも満身創痍でどちらが先に倒れてもおかしくはなかった。

 しかし、クラリッサの執念なのか、最後まで攻撃の手を緩めず、相手の降参を引き出し試験は終わった。


「はぁぁ………やったわ。フェリン」

「うん。お疲れ様! この前より凄かったよ」

「ふふっ、ありがとう」


 私はクラリッサの横を通り前に出る。

 相手は上級生。クラリッサが成長したとは言え、苦戦した相手より強い人。

 自信があるようだし、油断はしない。


「よし。俺たちもやろうか」

「お願いします」


 盗賊の時の反省を活かす時。

 冷静に、相手をよく見る。


「お前ってすごい噂があるの知ってるか?」

「いいえ、知りません」

「教師たちを買収してるって話だ」

「ありえません」

「本当か……?」


 瞬間。

 相手は踏み込みコチラに迫ろうとした。

 それに反射するよう動き、木剣を相手の腹部に打ち込む。



 ◆◆◆◆◆◆



 手応えはあった。

 しかし、相手は効いてなさそう。

 速度で勝ったことで攻撃には成功している。

 ならば、連撃で様子を見る。


「ふんっ――――」

「効かないね〜」


 私の攻撃を捌きながら相手は口を開いた。

 かなり余裕がある。

 なら、もっと上げても大丈夫か。


「くっ……」

「まだまだいきます!」


 顔を歪めたがまだ対応して来た。

 私は更に速度を上げ、木剣が重なる瞬間に力を込めるようにした。


「重っ……ちっ…………」


 変化に気づいて相手は言葉を漏らした。

 そこで、私はこれを繰り返せば勝てると確信し、更に手数を増やしあらゆる場所に木剣を振った。

 次第に相手の動きは鈍り、私の攻撃がほとんど通るようになった。


「……降、参」


 その言葉を聞いて私は攻撃をやめた。

 深い傷はないけれど、切り傷から血が流れていたためやり過ぎたかもしれない。


「フェリン。お疲れ様」

「うん」

「どうだった?」

「うーん。傷が深くならないように注意したんだけど、あんまり上手くはいかないね〜」

「そ、そうなのね……」


 クラリッサは上級生の体を見ながら返事をした。

 正直もっとできたと思うけど、試験だし仕方ないよね。


 ------


 フェリンの強さが本物であることは瞬く間に広がった。

 4歳も違う相手であったことが、更に拍車をかけた。

 冒険者の間では既に話題になっていたが、今回の一件でフェリンの名前はランクという都市全域に知られることとなった。


 魔力持ちは成長が速いと理解している者は、これが如何に異常なことなのか、何か起こる兆しとして備えを始めることとなった。

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