第26話 出番



 控え室にて一人、時が経つのを待っていると、クルデアとカイガが訪ねて来た。


「体調はどうだ?」

「問題ない」

「申し訳ないです。ヘルト君に任せてしまって」

「別にいい。二人に別のことを頼んだのは僕だ」


 入室早々二人はオレを気遣ってくる。

 クルデアは体調を、カイガは選抜戦出場自体を。

 クルデアとカイガも選抜戦に出て貰っても良かった。

 だが、最近の出場者が伝統貴族のみらしく、そこに一人の平民が出るという話題性があれば、より注目を集めることができると思った。

 今回の選抜戦には出場できないが、次回から出場が可能なら一度様子見しても問題ない。二人はそう告げてオレの案に乗ってくれた。


「二人にはクラスメイトを守って貰ってる。僕が集中できたのも二人のおかげだ」

「お互い様でしょう。ヘルト君が注目を集め、コチラに大きな被害を出さなかった」

「ミルフィと教材はやられたがな」

「確かにそれはあるが、ミルフィは俺たちにも加担している。多少の傷や怪我は承知の上だ」

「そうですよ。ミルフィさんが傷を負ってダメなら僕らも同じですよ」

「確かにそうだな……」


 オレたちは四人でクラスメイトを守って来た。

 ミルフィを女だから守るべき対象と見ていたみたいだ。

 そこは反省しないとな。


「達成後はミルフィにも感謝しないとな」

「そうだな。ずっと皆を見て居たのはアイツだ」

「ええ。僕たちは手を貸していたに近いですし」


 クラスメイトに関してはそうかもな。

 ただ、全体を見ればオレたち三人が始めた流れ。

 ミルフィの活躍もその一部でしかなく、本筋とは別…………この考えだから、ミルフィを守るべき対象と見ていたのかもしれない。

 …………やっとだ。

 これまでやって来たことの原因を、やっと終わらせることができる。


「もう少しで時間だ」

「ああ。見てるぞ」

「それでは後ほど」


 二人は察して控え室を出ていく。

 少し集中したい。

 相手がホヌフィンだからと侮って負ける訳にはいかない。



 ◆◆◆◆◆◆



 一人になり、瞑想を始め数分。

 オレは入退場通路へと向かう。


「武器を預かります」

「分かりました」


 手に持っていた剣を預け、用意されている椅子へと座る。

 目の前にはホヌフィンが既に待機しており、後は試合が終わるのを待つだけだった。

 武器を預けるのは私闘を防ぐため。

 昔、待機場所で戦闘を始めた奴らが居たらしく、次の対戦からそれが義務付けられたようだ。

 その話から考えるに、以前はもっと血生臭い祭典、大会だったように思える。

 時が経つにつれ、安全を考慮するようになり、それらは鳴りを潜める。

 命が奪われないだけオレにとっては都合が良い。

 それを体験している者たちからすれば、物足りなさを感じるかもしれないがな。


「ホヌフィン。今どんな気持ちだ?」

「…………緊張と高揚、だな」

「そうか」


 やはりホヌフィンは向こう側になりきれていない。

 カラドであれば、オレが姿を見せれば自分から話しかけ煽ってくる。

 そうでなくても、オレの質問に素直に答える訳がない。


「何故お前はカラドに付き従っているんだ?」

「っ………!?」


 素直に聞くと、ホヌフィンは目を見開いた。


「オレが思うに、お前はそこまで貴族と平民と分けて考えていない。さっき心境を聞いて、素直に答えもしたしな」

「…………ああ。俺はそこまで身分にこだわりはない。だが、それでも付いて行かなければならない」


 ホヌフィンはそう言うと、担当官から武器を受け取り先に入場した。

 奴も奴で、何かしらしがらみがあるのかもしれない。

 まあ、知ったことではないがな。



 ◆◆◆◆◆◆



 オレはホヌフィンが入場したのを歓声と共に確認し、武器を受け取り入場した。


「「ブウゥ――――!!」」


 会場からはオレを否定するような声が響く。

 見学している学生たちからだ。

 周辺にいる貴族たちは辺りを見回し、互いに顔を見合わせ表情を歪めている。

 中には一つも表情を変えない貴族らしき観客も居たが、そこはどうでもいい。

 観客の中に、何も知らない人間。それも貴族が居ることが何より重要だ。


 離れて合図を待つホヌフィンを見る。

 服装、防具、剣、腕輪。

 服装はオレと同様に、少しばかり目立つもので晴れ舞台用と言ったところ。

 防具は急所の部分に当ててあるが、幅が少し大きく動きにくそう。

 剣に関しては明らかに品質が良い。

 ただ、気になる点は腕輪だ。


 着飾るとしても邪魔だろう。

 何のためか知らないが、頭の片隅に留めて置く。

 思考はただ勝つことに切り替える。

 ホヌフィンが起こす行動の情報、それだけで今はいい。



 ◆◆◆◆◆◆



 立会人が入場する。

 オレたちの間に陣取り、呼びつける。


「これより試合を行います。気絶、降参の意思、その声があれば試合を止め、結果を告げます。過度な殺傷攻撃、重傷を負わせると即刻中止。治療、回復次第で勝ち上がり、対戦権の剥奪を行います。よろしいですか?」

「はい」「ああ」

「それでは元の位置に」


 返事をして指示に従う。

 位置に着くと、鞘から剣を引き抜く。

 いよいよ始まる。

 ホヌフィンも構え、合図を待つ。


「――――始め!!」


 合図が出た。

 全身に魔力を纏い一瞬で――――おかしい。

 魔力を上手く扱えない。

 何故――――くそっ!


「どうした。手を抜いているのか」


 ホヌフィンの接近を許し、剣を振り抜かれる。

 何とか回避し、オレは一部分のみの魔力強化に切り替える。


「ああ。妨害を受けているようだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る