第2話 気配
――ぞわっ
突然、背筋に悪寒が走った。
これは……魔獣の気配?
獲物を探してるんだろうか、害意も伝わってくる。
そっちに意識を向けると、気配がビジョンで浮かんできた。
なにこれ凄い、チートスキル?
……って、あの熊の魔獣じゃん!?
同じ個体かどうかはわかんないけど、もしかして記憶から時系列つながってんの?
イージーモードのつもりでいたけど、あんな魔獣が普通にウロウロしてるって、身の危険ありまくりのハードモードじゃない!? 実際死んでるし!
幸い魔獣はまだ遠くて、まだこっちに気付いてる様子はない。
モードが変わる前に、ここは逃げの一手!
ボクは全速力で逃げ出した。
――って、ボク速っ! 速すぎっ! やばっ!
ボクの全速力はハンパなかった。矢のようなスピードに驚きながら、それでも木々の枝をかわして森の上空へ。急ブレーキで空中停止。
「はぁっはぁっ……なんて、スピード、だよ……」
思わず出た独り言。少し鼻にかかったような、高音で耳に残る声。
ほわぁ、妹系。尊い。
でも、ほんの数秒の超ダッシュだけど、息切れが……
――ぞわっ
えっ、別の気配、どっち?
一瞬方向に迷ってしまう。見えたビジョンは、鳥!?
……上っ! 狙われてる!
見上げると、巨大な影の巨大な爪がすごい勢いで目の前に迫ってた。
咄嗟に身をかわしたけど……
ドンッ!
一瞬遅かった。
背中に衝撃を受けて弾き飛ばされ、樹上の茂みに突っ込む。
追って来るっ!?
……来ない?
巨大な鳥の魔獣は、急転回すると、また遥か上空に舞い上がっていった。
……どうやら追撃はないみたい。なんとか躱したからか、それとも茂みに隠れたからか、追ってこなかった。
上空から急降下で一撃離脱ってタイプ?
かろうじて命拾い……したのかな?
「……ぐぅっ」
身を起そうとして呻きが漏れる。
背中が焼けるように熱い。
ぬるり。
肩から手を回すと、べったりと血が付いた。
というか、手が触れた背中は大きく裂けて抉れてて……
痛いのは通り越してるんだろうか、ただ熱い。
……致命傷だよね、これ?
ああ、なんか視界が暗転していくんだけど。
意識も……
また死んじゃうのか……何度目だよ……
◇ ◇ ◇
……ん?
ここは……さっきの木。
死んでない、怪我は!?
おそるおそる、また背中に手を……あれ? 傷がない?
背中の羽を伸ばしてみる。
……うん、何ともない。
え、治ったの?
もしかして自動で治癒発動?
超気配察知に超スピード飛行、さらに超自動治癒、これが転生チートってやつ?
よくある女神さまチュートリアルのイベントとか、なかったよね?
傷はなくなったけど、身体も服も血まみれの破れかぶれで凄いことになってる。
どこか洗えるところないかな?
上から見てみたら……って、さっきの鳥の魔獣にまた襲われたら……
でも、安全そうな場所を探さなきゃ。
気配を警戒して茂みに身を隠しながら、高い木へ高い木へと飛び移りながら登っていく。
空が広く見えてきて、注意深く見回してみても、よくよく気配を探っても、あの鳥魔獣はいないみたい。
ひときわ高い木のてっぺんまで登ると、景色が開けた。
うわぁ……
広大な世界だ。
青空と、どこまでも続く森と。
森の奥は緩やかに上って山地へと続いている。奥の方はより鬱蒼としていて、雰囲気が怖い。
魔物なのかな?はるかに遠くてよくわかんないけど、いやな気配がたくさんある。
反対側はなだらかに下っていて、遠くは霞んでいる。
なんとなく明るい感じがして、街でもありそうな気がする。
とりあえず、降りる方向に向かってみよう。
◇ ◇ ◇
自分の身体を見下ろす。
――素っ裸。
沢を見つけて身体と服を洗ったところ。
慎ましいけどしっかりと主張するふたつの膨らみ。
あらためて見てると顔が火照ってくるのがわかる。
だって、こんなに間近で見るの初めてだし……
手を添えてちょっと持ち上げてみたり……
にゃ……
ままま、まあ、はやく服着ないと。寒くないのが幸いだよ。
でも、血は洗い流せたけど、ふわふわだったワンピースはびしょ濡れのまま。
背中の羽に実体はないから、本来は服の背中が開いたりとかはしてないけど、今は大穴開いちゃってる。
こういうの魔力で直ったり乾いたりしないのかな?
そう、実は魔力は自然に扱える。飛んでるのも魔力使ってるしね。
試しに、服に魔力を流してみる。
すると、ふわっと、光の粒がたくさん現れたかと思うと、服の周りを舞って、消えた。
――ホントに直っちゃった。乾いてるし。
これもチートスキル?
それともチート装備?
◇ ◇ ◇
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