第20話 装備

 冒険者組合を出る。

 ボクとニアの冒険者生活。ここからスタートだ。

 当座の資金は潤沢。

「ニア。まずは装備を揃えよう」

 受付でお仕事中のネケケさんに、必要なことは聞いてきた。

「買い物……やったことない」

「ボクも……」

 この世界では、ね。日本みたいに笑顔で接客とかしてもらえなさそうな。

「まあ、お店に行けば買えるハズだよ、きっと」


 ◇ ◇ ◇


 ネケケさんに聞いた武器屋。

 もちろんどこぞのフィギュア屋さんのことではない。

 ドアを開けると、中は雑然とした倉庫のよう。商品を見て選ぶって感じじゃないな。

 カウンターには、いかにも職人って感じのいかついおっさん。ジロリとニアを睨む。

「……あん?」

 い、一応、用を聞いてくれてるんだよね?

「装備が欲しい」

 ニアは平然と言い放つ。

 おっさんは表情を変えない。

「武器と防具か? 何を使う?」

「……短剣?」

 ニアは模擬戦を思い出しているのか、手を握ったり開いたりしながら答える。

「予算」

「……わかんない」

 おっさんの顔が渋くなった。ひっ、怒る?怒る?

「駆け出しなら大銀貨3枚。倍出せるなら、その方がいい」

 あれっ、顔とは裏腹に意外と優しい?

 ちなみに大銀貨は10シル、日本円にして1万円くらいかな?

「出せる」

「見繕おう。そこに立て」


 脱いで壁に掛けられたニアの外套の中から覗き見る。

 要所が革で保護されたショートタンクトップにショートパンツ、革の籠手と脛当て、ってところ。

 おお、見違えるなあ。

「獣人は身体を覆いすぎない方がいいだろう?」

 おなかは丸出しだし、靴も履いてない。

 ちなみにニアの足はヒトよりも少し獣っぽい。

 常に爪先立ちで、爪先から踵までが少し長い。

 普人や半獣人と同じ靴は履けなそうだけど、裸足の方が高性能かもしれない。

「むー……」

「何だ。不満か?」

「胸のところ、もっと大きい方がいい」

「ははは、成長の予定か?」

 おっさんの表情が少し緩んだ。


「剣はこのへんだろう」

 短剣を手渡されたニア、また不満そう。

「……重い」

 おっさんが片眉を上げる。

「嬢ちゃんがスピード型ならもう少し軽い方がいいだろうが、値が張る。もう2枚出せるか?」

「出す」

「じゃあ、こっちでどうだ」

「……うん、これがいい」


 支払いを済ませて店を出た。

「買い物、楽しい」

 ニアが楽しそうに言う。

 えっ、あれで楽しかったの?

 まあ、無愛想なおっさんだったけど、結局いい買い物は出来たもんな。オマケで下着付けてもらったし。

 ネケケさんが紹介するんだから、そりゃ駆け出しに厳しいとこは教えないか。

 ちなみに、ニアが気にしたのは将来の成長分ではなく、ボクが入るスペースだった。

 胸当て付きのタンクトップの内側にスッポリ納まると、ニアの胸の柔毛がクッションになってとても居心地がいい。

 これなら外套なしでも人目に触れなくて済むね。

 とはいえ、ニアはやっぱりまだ外套とフードで肌も顔も隠したいらしい。

 せっかく冒険者らしい出で立ちになったのになあ。

 まあ街中では仕方ないか。


 次は道具屋。

 扉をくぐると、今度は綺麗な店内だった。

 綺麗というか、何もない。

 カウンターにおばちゃんが座ってるだけだ。

「いらっしゃい」

 おっ、でも今度はお店らしい対応。

「新顔だね、新人かい?」

 こくりとニアが頷く。

「じゃあ、ひととおり見繕うかい?」

「お願い」

 おばちゃんは一度奥に引っ込み、しばらくガチャガチャと物音をさせていたかと思うと、いろいろ詰め込まれた大きな箱を抱えて戻ってきた。

 ずいぶん面倒なシステムだけど、万引き防止なのかな。小物が多いしね。

 水袋、食糧袋、ロープ、帆布、着火具、小鍋、その他小道具。それと回復と毒消しのポーションを2つずつ。

 ニアは夜目が利くから、星明りがあればランプ類はいらないらしい。

 そういやニアは猫族だけど、瞳は猫みたいに細長くはないんだよね。

 いろいろ買ったけど、全部魔法収納に突っ込むからほぼ手ぶらだ。

 すぐ使えるようにポーション類をベルトのポーチに入れとくくらい。

 ちなみに収納量は大人用のでっかいザックくらいらしい。

 意外と大きくないのね。


 ◇ ◇ ◇


 そうこうするうち、お昼どき。

「ニア、お昼食べよう」

「お店で? フェイは?」

「ボクはここで食べてもいい?」

 ニアの胸の間から。

「うん」


 ニアが選んだのは、店の前にイラストでメニューが展示してある店だった。

 ドアを押して入ると、ドアベルがカランカランと音をたてた。

 中はテーブルが10席以上ある大きめの食堂。ぱっと見、満席。

「いらっしゃい、1人かい? カウンターでいい?」

 恰幅のいいおばちゃんの声が飛んでくる。

 見ると、カウンター席は2、3席空いてる。

 ニアは頷いてカウンターの椅子に向かい、よじ登るように腰かけてフードを外す。

「いらっしゃい、子猫ちゃん。メニューはいるかい?」

 ふるふる……。

「あれ」

 他の人が食べてるものを指差す。お行儀悪いな。

 ……って、あれは、紛う方なきオムライスじゃないか。

「はいよ、オムライスね」

 名前もそのまんまかい!

 これは偶然なんだろうか?

 いや、神の作為を感じる。

 ――――。

「はい、お待ちどお。30ブロね」

 あ、この時点で会計なのね。

 銀貨を1枚渡し、大銅貨が7枚返ってくる。

 ニアはお皿を前に手を合わせて目を瞑った。

 そしてスプーンを手に取ると、卵とライスをほんの少し取って、まずボクにくれた。

(いただきまーす)

 ボクは心の中でそう唱えて、ふわふわの卵にかぶりつく。

 同時にニアもひと口、ぱくり。

「……ん! おいしい!」

 まったくの同感!

 ニアのスプーンが止まることはなかった。

 ボクも大満足。


 ・ ・ ・


 そういや、ここからシロンのアトリエがすぐ近くだ。ちょっと寄って行こうよ。

 あの本の事は一応報告しときたいし。

 勝手に消したこと、謝った方がいいかな?


 ◇ ◇ ◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る