第18話 復讐

「やられたらやり返す。冒険者の掟」

 豚の前に立ちニアが宣言する。

 もしかして、それも母親直伝なの?

 ニアは厳選してきた大きなヤットコを両手で持っている。

 ガチンガチン

 ニアが豚の目の前でヤットコを鳴らす。

 その先端の形は禍々しく、挟むものをズタズタに潰してやろうという強い意志が現れている。

 豚の目が怯えてる。

「私は痛くて血が出た。おまえも血が出るまで痛くする」

 見たくもない光景だけど、拘束台は大の字になっていて、豚の股間は丸出しのまま。

 股間の鉄防具は「袋」の部分だけを覆っていて、「棒」の部分はそこからニョッキリ出ている。

 その「棒」をヤットコが挟む。

「あうおおおお! うごおおおおおお!」

 豚が涙目になって何か懇願してるけど、聞きとれないから聞かない。

 ニアが容赦なくヤットコを絞る。

 ぐにゅううううと「棒」が歪んでいく。

「えああああああああああ!」

 豚の声が絶叫になっていく。

 ミヂッ

「ああああいいいいぃ~~~~~っ!」

 ヤットコの間から血が流れる。

 おもむろにヤットコが開かれると、「棒」は真ん中で潰れて、へにゃんと折れ曲がった。

「血が出た。どうだ痛いだろう」

 さっきからヘンに芝居がかってるのは、高圧的態度のつもりなのかな。

「おああああ、ああああ…………」

 豚は涙を流し、鉄球の猿ぐつわのまま泣いていた。

 だがしかし。

「ニア。男の本当の弱点は、その鉄防具の中だ」

「…………おお」

 ボクは悪魔の宣告をした。豚の目が恐怖で見開かれる。

「おあっ、あえっ、あえええええ!!!」

 豚が必死に何かを訴える。

 もちろん、耳を貸す気はない。ニアに何しやがった。地獄に落ちろ。

 ニアが豚の股間の防具を外した。柔らかなその弱点が露わになる。

「フェイ、これ?」

「おあっ!」

 ニアがそのふたつのうちのひとつをつまむと、豚がビクンと反応した。

「…………なるほど」

 ボクが頷くまでもなく、豚の反応が物語っている。

 ニアがヤットコで「それ」を掴む。

「あえええ、あええええええ!!!」

 豚が涙と鼻水を流して呻く。

 無慈悲なヤットコがぎゅうううと閉じられ、ソレが押し潰されていく。

「☆×△っっ!!! Д∀дω◇ж!!!」

 豚の悲鳴は、もはや声にもなっていなかった。

 パヂュッ

「――――――ッ!!!!!!!!」

 嫌な音だった。

 前世の感覚を思い出して悪寒が背筋を走った。

 豚は涙と涎と鼻水を巻き散らして泡を吹き、白目を剥いて気絶していた。


 ・ ・ ・


 上の階に大人数の気配。

 ダンデたちが突入してきたのかな。まだ1日経ってないと思うけど、なんとかして来てくれた?

「ニア、上、突入したみたい」

「……まずいかな、これ?」

「うーん……とりあえず外しとく?」

「そだね」

 二人で、気絶してる豚の拘束を外す。まあボクは何も出来てないけど。

 ついでに、ニアが豚の頭を台から蹴り落した。

 ズル……ドサッ

 頭につられて、ずり落ちるように豚の身体が台から落ちた。

「ぐ…………が…………」

 豚が呻いて身悶えする。起き上がろうとしてる、しぶといな。

 虚ろに開かれた目にニアとボクの姿が映ると、その目に意志が戻ってきた。

「ぎ…………ぎざまらぁ…………」

 数人の気配が外の階段を駆け降りて来てる。

「ゆるざん…………」

 立ち上がり、ボクを肩に乗せたニアの首に手が伸びる。

 ニアは、届かないように一歩下がる。

(じゃあ、ボクは隠れるから、後は手筈通りに)

「うん」

 バァン!

 ボクが通気口に逃げ込むと同時に、部屋の扉が勢いよく開き、ダンデを先頭に数人が部屋になだれ込んできた。

「なんだこの部屋は!? いたぞガフベデ……何してやがる! 取り押さえろ! 子供を保護する!」

 ダンデはガフベデからニアを引き離した。

「お嬢ちゃん、もう大丈夫だ。(すまんニア、遅くなった)」

 周りに聞こえないように謝る。


 げしっ!


 ニアの答えは顔面パンチだった。


 ◇ ◇ ◇

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