第3話 森

 森の上は鳥の魔獣が怖いから、森を抜けながら進んでる。森の中なら気配で魔獣を避けられる。

 飛んでるから人が歩くよりは全然速い。ママチャリがのんびり走るくらいのスピードかな。このくらいなら、さっきみたいに息切れすることはないみたい。

 ぐうう……

 お腹がすいたと思ってたけど、とうとうお腹の虫まで鳴ってしまった。

 何か食べられるものないかな……

 木の実や草の実のようなものはあちこちにあるんだけど、食べられるものなのかどうかがわかんない。野草の知識とか全くないんだよねえ。そもそも地球と種類が同じかどうかもわかんないけど。

 房で生ってるこのリンゴくらいの赤い実とかどうだろう。

 ボクのサイズにとってのリンゴだから、人間サイズだと……どのくらいなんだろ? ボクって何分の1フィギュア?

 ――まあいいや。

 ひとつもいで、匂ってみる。

 ……あんまり美味しそうな匂いじゃないなあ。

 ひと口齧ってみる。

 ……うぇ、ぺっぺっ! 渋い。ダメだこりゃ。

 そうだ、他の動物が食べてるものなら食べられるよね。何かいないかな?

 生き物の気配は……おっ、発見。小鳥さんだ。魔力を感じないから、魔獣じゃなくてただの鳥みたい。

 それにしても凄いなこのチートスキル。気配ビジョンと名付けよう。

 ともあれ、気配で見えた小鳥さんのところに行ってみる。

 ――いたいた。

 ただの小鳥とはいえ、ボクから見ると大きめの犬くらいのサイズ。姿は小鳥なのにこの大きさはコミカルかも。

 彼は背の低い木にとまって、その実をついばんでる。

 やったね、食べものみっけ!

 ボクが姿を見せても、彼は特に何の反応もなく食事を続けてる。

 少し離れたところで、ボクもその茶色い木の実をひとつ手に取ってみた。

 柔らかいな、熟した柿みたいだ。皮をむいたら、中身が流れ出しそう。

 ちゅる……

 啜るようにひと口。

 ……あれ? うーん、あんまり美味しくはないな。独特な香りで甘味はあるけど、味が薄い。

 でも喉は潤うかな。スポーツドリンクゼリーとでも思えばいいのかもしれない。

 3つほど平らげて、ん、満足。


 ◇ ◇ ◇


 日が落ちて暗くなってきた。特に夜目が利く、ということはないみたい。普通に暗くて先が見にくい。

 気配は明るさ関係なくわかるみたいだ。だから危険は避けられるけど。

 木の枝に腰を下ろした。

 ふう。

 結構普通に疲れてる。このままここで寝ちゃおうか。葉にもたれて瞼を閉じる。

 でも、うとうとしてきたところで、少し離れたところに魔獣の気配が。

 じっとしたまま目を開け、気配を探る。

 ……狼?

 獲物を探しながらなのか、まわりを警戒するように身を低くして進んでる。

 こっちは木の上だし、気付かれないようにじっとしていれば大丈夫かな。気付かれたところで逃げても間に合うだろうし。

 じっと息をひそめて、狼が通り過ぎるのを待った。

 緊張した時間がどのくらい経っただろう。やっと狼が去っていった。力が抜けると、眠気が襲ってくる。

 やっと眠れる……と思ったら、また遠くに魔獣の気配。ううう、うっとおしいなあ。どこかもっと安心して寝られるところないかな。

 月明かりの中で辺りを見回すと、木の幹にボクが入れそうなくらいの穴を見つけた。

 中を覗いても真っ暗で何も見えないけど、生き物の気配は感じない。

 中に入って周りをぺたぺた触ってみる。とりあえず危ないとか汚いとかいうことはなさそうだ。

 ここなら外よりは安全だよね。もういいかげん限界。壁にもたれると、ボクはすぐに意識を手放した。


 ◇ ◇ ◇


 さわ……さわわ……

 葉が揺れる音。

 んん……か、かんばい……にゅ……

 ああ、またこの夢だったか。お目当てのサークルの行列に並んで、新刊が目の前で完売したときの夢。後から通販で手に入れたけど、あの本は良い本だ……うへへぇ……。朝ということもあり、特定の場所に血が集まるのを……

 あれ? ない? おかしいな……?

 薄ぼんやりと目が開く。木のうろに朝日が差してるのが見える。ああ……そうか、転生したんだっけ。やっぱり夢じゃないのかあ。

 むっくりと起き上がって座り込み、ん――っと伸び上がる。ふう。

 そして下を見ると、女の子の身体。

 ……うへへぇ。この世界は良いところだ。

 木のうろから顔を出してきょろきょろと周りを見る。何もいないし、気配もない。

 朝目が覚めたら、まずしたいことがあるよね。昨日の木の実のせいもあるのか、割と危機が近い。

 下の方に背の低い茂みを見つけた。その脇に降りて地面に立ち、覗き込む。うん、いい具合に周りから隠れてしゃがめそう。

 ……ふへぇ。

 水の流れる音とともに、緊張から解放されてため息が出る。

 いやあ、女なんだぁ、実感するなあ。……ん、ちょっと葉っぱを拝借。


 ◇ ◇ ◇


 一度、森の上に出て方向を確かめ、また森の中を進む。ちょこちょこと魔獣がいるけど、気配を感じたら迂回していく。

 また、何かの気配。……複数いる。

 迂回のため進路を変えようとして、ボクは立ち止まった。いや、立ってないけど。ホバり止まるとでも言えばいいのかな? いや、だからね。


 人間だ!

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