第13話 水浴び
共同部屋。まあ、ザコ寝部屋だね。優に10人以上は寝られる広さだけど、不潔ではないくらいの床と毛布があるだけ。それでも、危険がないだけでも御の字。夕方早いからか、まだ誰もいない。
共同部屋からは裏庭に出られた。井戸があって衝立で仕切られたスペースがある。
「水浴びできるみたい!」
ニアが嬉しそうに井戸に駆け寄ってつるべを落とす。へえ、猫なのに水嫌いじゃないんだ。
手桶に水を汲んで衝立スペースへ。ニアが外套を脱ぎ捨てる。
「わぷ」
ボクが外套から這い出すと、ニアはもう嬉しそうに体を洗っていた。
ボクも、巻き付けてた布切れとズタズタの服を脱ぎ、ニアがバシャバシャやってる手桶の縁によじ登る。うー、飛べないって不便……おっ、とっ、とっ、うわっ。
ポチャン
バランスを崩して、手桶の中に落ちて尻餅をつく。水はもう少なくて、ビニールプールに座り込んでるくらいの感じ。
ニアの手が伸びてきて、ボクを持ち上げる。
「フェイ、洗ったげる」
ニアが手で水をすくっては、パシャパシャフニフニと洗ってくれる。ニアは全身毛皮だけど、指先の腹と手のひらのプニプニだけは肉が出てる。いわゆる肉球に似た状態。
パシャパシャ
ふにふに
はわあ、気持ちいい……。
あ、鏡だ。
そういや自分の姿をしっかり見たことがなかった。
「ニア、鏡を見たいんだけど」
「ん? ……ん」
ニアが鏡の前にボクを差し出してくれる。
目の前に立ってる、妖精さん。身長は20cm弱くらい? よくある萌え系フィギュアサイズ。華奢な身体、見た目はローティーン、13、4歳くらいの感じかな。きっとまだ膨らみかけの慎ましい胸。濃い目のブロンドが濡れて肩に貼り付いている。
そして、顔を初めて見た。ちょっとだけキツめのアイラインにブルーの瞳。短くぽってりしたエルフ耳。これがボク……かわいい……。
改めて、全裸の自分を見て赤面する。こんなかわいい女の子の裸を見放題とか犯罪的ですら……にゃあああ! 恥ずかし嬉しい!
「ねえ、フェイ?」
「……ん……ほわ!?」
鏡見てナルシってたら、いつの間にかニアの顔が近い!
「舐めてもいい?」
「ほえ!? ……ややや、それはちょっと……」
「フェイも私の胸でモフモフしてたよね?」
「あ、いや、それはその……」
両手で両肩をがっしり押さえられてしまった。
ペロ。
「ふやあああ……」
大きな舌がボクのおなかを舐め上げる。
ニアの息遣いを肌で感じる。
自由にならない腕で顔を押し返して抵抗するけど、許してくれないらしい。
「ちょ……ニアぁ……ぁ……」
おなかから胸へ、温かい大きな筋肉の塊が何度も優しく擦り上げる。
はむ、もむむ。
舌に片腕を持ち上げられたかと思うと、ぱくりと口に含まれる。
肩から指先まで丁寧に舐めたかと思うと、もう片方の腕も同じようにしゃぶる。
腕が暖かい口中に包まれ、その圧力が心地いい。
腕の次は足、にゃああ、そんな、根本まで……
そのまま裏返すようにおしりから背中を……
あああ、そんな、もう全身隅々まで。
「フェイ、おいしい」
ちょ、ニア、そんなとこまで………
・ ・ ・
「やっぱり、フェイを舐めると傷が少し回復してる。こことかまだ痛かったの治ってる。ポーションみたい」
「…………」
ぐったり全身脱力してるボクをもう一度洗いながらニアが言う。
血が病気に効くって話だったけど、舐めるだけでもそんな効果があるの?
でも、泉のフェイじゃなくても身が持たないよこんなの。
◇ ◇ ◇
「くすー……くすー……」
ちょっとだけ鼻にかかるようなニアの寝息。横向きに、ボクを胸に抱いて、外套を羽織って毛布を被り、尻尾まで丸くなるように眠ってる。
他にも酔っ払いがいびきをかいて寝てるけど、隅の方で頭から毛布を被って寝てるニアには見向きもしなかった。
ボクはニアの二の腕を枕にして胸の柔毛に顔を埋め、もう一方の手を背中に添えられ、割と窮屈な状態でうとうとしてる。毛皮は柔らかいし、その下に感じる腕の肉感も寝心地いいけど、栄養状態が良くないのか、痩せてるニアの胸板にふくよかさはない。
「ん……にゅう……」
眠ったままボクを抱き直すように、背に添えられた手で、その胸の柔毛にさらに押しつけられる。
ふやあ……全身をニアに包まれる窮屈さが逆に安心感で、心地いいや。ふゆ……。
◇ ◇ ◇
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