第4話 蛙の王
「この……足音……ダメ! あなた達! 早く逃げて! あいつが……あいつがくる!」
アリミアは起き上がり、俺たちに逃げるよう迫った。彼女の表情は恐怖に満ちている。
「この足音……敵は一体だな。俺たちのスキルなら、ある程度の敵なら一体ぐらいどうにかな――」
「ダメよ! あれは……あいつは!」
その瞬間、俺たちの前に足音の主が現れた。
冷や汗が体中の節々を伝い、体内の液体がざわめくような感覚に襲われた。全身が凍りつくような恐怖に包まれ、足元が震える。
体が蟻のせいなのか、強者に対しての恐怖なんて初めての事だ。
でも俺は目の前の巨大な影から目を離さなかった。
筋肉質な四肢が地面を踏みしめるたびに、洞窟全体が揺れ、岩壁から小さな破片が落ちてくる。重々しい足音は、まるで地鳴りのようだ。
口元には鋭い牙が覗き、そこから漏れ出る重々しい息は、まるで地獄の底から響いてくるかのようだ。その息が洞窟内の空気を冷やし、俺たちの肌に冷たい刺すような感覚をもたらす。息をするたびに洞窟内の温度が下がり、俺たちの呼吸が白くなる。
巨大な手足は鞭のようにしなやかで、岩をも砕く力を秘めている。その一撃がどれほどの破壊力を持つか想像するだけで、足が震えた。
あいつの背中には無数の傷跡が刻まれており、過去の戦闘の激しさを物語っている。その傷跡はまるで暗闇の中でぼんやりと光るように見え、あいつの異様な存在感をさらに引き立てていた。
極めつけは、頭上には王冠が堂々と載っている。王冠は古代の彫刻が施され、神秘的なオーラを放っている。
その姿は、あいつがただのモンスターではなく、真の王であることを示しているようだ。
こいつは……無理かな……。いや、まだだ! まだ諦めない!
俺は即座に戦略を生み出す。
まず、アリミの
でも、あいつの皮膚は厚いし厄介な粘膜もある、今の俺の攻撃では傷一つつかないな。
じゃあ、アリコの新しいスキルの高速移動を活かしてあいつを混乱させて、その間に俺が
しかし、一秒では効果が持続しないし、アリコではあいつの動きについていけるわけがない。
なら、スキルの
食いちぎることは可能だけど、あいつの粘膜には生物を麻痺させる効果がある。俺の毒無効スキルでは麻痺は対処できない。
うーん……ダメだ。無理。他に戦略も百通り考えたけど無理。あいつには通じない。
蟻が龍に勝てないように、今の俺たちでは勝てない。圧倒的にステータスが違いすぎる……。
あいつは
元魔王の忠臣、六王の一体。
勇魔大戦では見かけなかったがこんなところにいたのか。
蛙の
くそ! もし転生前の姿に戻れる、みたいなスキルがあればなんとかなったかも知れないのに。
なんて現実逃避してる場合じゃないな。
「アリコ、アリミ、アリミア、準備はいいか?」
俺は小声で三匹に呼びかけた。三匹は緊張した様子で頷いた。
「どうする気ですか?」
アリミが恐る恐る聞いてくる。
俺は心の中で戦略を組み立てながら、アリミに向けて頷いた。
「まず、逃げる。戦うのは無理だ。あとは……逃げながら考える」
とにかくパッシブスキル不屈の
俺たちは静かに後退し始めたがその瞬間、ゲロゲロという不気味な声と同時にケロキングが巨大な手で洞窟の壁を叩きつけた瞬間、洞窟全体が轟音と共に震えた。
地面は波打ち、足元の小石が跳ね上がり、岩壁からは砂塵が舞い上がる。
冷たい風が急に吹き抜け、土と岩の匂いが強く残った。
≪虫の報せ《バグシグナル》が発動しました≫
「みんな構えろ!」
俺たちはその揺れに足を取られ、一瞬バランスを崩した。
「ちっ! 逃げるんだ!」
俺は大声を上げてアリミとアリコ、そしてアリミアを先に行かせた。
ケロキングの目が鋭く光り、その巨大な体がこちらに向かって動き出す。
「待って! あの方向には出口がない!」
アリミアが叫ぶ。
出口がないなら掘れば済む話だけど、今の俺たちにはそんな時間なんてあるはずがない。
とりあえずケロキングから少しでも距離を取らないと。
「みんなついてこい!」
俺がそう言った直後アリミアが突然立ち止まって叫んだ。
「ブラッド、囮になる! 逃げて!」
アリミアの決意の表情を見て、俺は即座に反応して彼女に駆け寄った。
「ふざけるな! 自分を犠牲にするな!」
「このままじゃ全滅する!」
「それでも俺が守る! 信じろ!」
「でも……」
俺はアリミアの前脚を強く握りしめ、彼女の決意を打ち砕くように言った。
「全員で生き延びるんだ!」
アリミアの目に涙が浮かぶが、俺はその前脚を離さず、彼女の気持ちを受け止める。
「だから、もう一度走ろう。俺たちならできる!」
アリミアは力強く頷き、俺たちは再び走り出そうとしたが、
ドシーン
ケロキングが俺たちの前に跳躍した。
洞窟全体が震え、天井から岩の破片が降り注ぐ。
ケロキングの跳躍はまるで地震のようで、その圧倒的な重量が洞窟を揺るがすたびに、俺たちの体が共鳴するかのように震えた。
跳躍の瞬間、巨大な脚が地面を蹴り上げ、その衝撃で足元が不安定になる。
そして俺たちの目の前でケロキングの目が不気味に光り、その冷酷な視線が俺たちを貫いた。
「あーあ、博打は好きじゃないんだけどな……こう序盤から何回も賭けにでないといけないなんて蟻生は厳しいな。アリコ、俺にEXスキルを使ってくれ。そしてスキルを使ったらすぐにここから離れるんだ」
「ちょっとブラッドお兄ちゃん! さっきみんなでって自分が言ったの忘れたんですか!」
「そうだよー。私のEXスキル
会話の内容を把握できたのかアリミアも激怒した様子で、
「ブラッド! 諦めるなんて絶対にしない! 俺たちならできる! ってさっき私を奮い立たせてくれたばかりなの――」
俺はアリミアの言葉をさえぎった。
「こうも言ったよな? 信じてくれって。時間がないんだ! アリコ! EXスキルだ! 俺を、きみたちのお兄ちゃんを信じろ!」
俺の目を見て三匹は決心がついたようだ。
「ブラッド、絶対、絶対に追いついてきてね。約束だからね」
アリミアの声が震えている。
彼女の目には恐怖と希望が入り混じり、その視線は俺の心に重くのしかかる。
「信じてる……から。負けないでください、ブラッドお兄ちゃん」
アリコの震える声も俺に力を与えた。彼女たちの信頼と期待に応えるためには、何としても勝たなければならない。
体が熱くなる。アリミア、アリコ、アリミの命を背負っているんだ。
ケロキングがこちらを見据えている。巨大な体と圧倒的な力を持つ敵だが、恐れるわけにはいかない。俺がここで倒れたら、彼女たちを守る者は誰もいなくなる。
自分を信じて戦うしかない。
「いくよー! EXスキル!
アリコのEXスキルが発動すると、俺の体が一瞬で巨大化、硬質化し、外殻が鋭く突き出た。
視界が赤く染まり、全身に凶暴な力が溢れ出す。この力は絶大で短時間だけ鬼神の如き力を得ることができるが、制御が難しく自分自身をも破壊しかねないし、効果が切れると全く動けない状態になるまさに諸刃の剣。
「ケロキング、ここからは俺が相手だ!」
俺は鋭い前脚を振り上げ、ケロキングに向かって突進した。
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