第3話 警鐘

 俺たちは黄金兎ゴールデンラビットを食べつくした。


 スキルの悪食ディアボリックフィーストがあるから、もうきれいさっぱり影も形もないくらいに。


 でも生はやっぱり抵抗があったから、アリミの新しいスキルの火炎球ファイヤーボールで焼いてもらったけど。


 まぁそんなことは置いといて、


 神々の遊び《スキルガチャ》の結果をまとめようか。


 俺が新しく獲得できたスキルは三つ。変換トランスフォーム擬態ミミック吸収アブソーブだ。


 スキルを使ってみた感想を率直に言うと、


 はっきり言おう。


 外れだ。


 前衛、斥候の俺が欲しい攻撃系のスキルが一つもない。


 まず変換トランスフォーム

 体の一部を一時的に別の物質に変える。見た目は変わらないけど、強度や性質が変わるスキルみたいだ。

 ここまではいいよ、ここまでは。


 でも変化できるのはたった一秒、一秒だよ一秒! 一秒でなにができるんだよぉ。


 次に擬態ミミック

 見た物の動作やスキルを一時的に模倣することができるみたいだ。

 でも模倣できるのは短時間のみで、スキルの強度も弱まってしまう。


 なんで完全模倣じゃないんだよ! 弱くなったら意味ないだろ!


 最後に吸収アブソーブ

 受けた攻撃を一部吸収して自身のHPやMPに変換することができる。

 スキルの名前も格好いいし、効果も強いよ? 当りだと思うじゃん?


 でも吸収できる量は少なくて、戦闘中の回復効果もごくわずかだから結局ダメージを受けてしまう。


 吸収してダメージ受けてたら元も子もないじゃん! ジリ貧じゃん! ゾンビ戦法も使えないし!


 どうしてリアルラックがこんなに低いんだ……。


 女神さまのバカ。


 まぁ、外れだったのは仕方がない。妹たちの獲得スキルを確認しよう。


「アリミ、アリコ、ステータスの確認をしたいんだけど」


 二匹はコクンとうなずいた。


「蟻の共鳴アントリンク


 俺はアリミとアリコのステータスを確認しようとしたが異変に気付いた。


 名前:アリミア

 種族:蟻族

 分類:ブラッディアント

 希少度:ミスティックレアモンスター

 状態:瀕死

 レベル:58

 HP:3

 MP:0

 ATK:750

 DEF:970

 SPD:580

 LUCK:320


「あれ? これ……誰だ?」


 俺は驚きのあまり、しばらくその場で固まってしまった。


 再度ステータスを確認し、間違いないことを確かめる。アリミとアリコも同じようにステータスを見て、驚きの表情を浮かべている。


「こんなステータスのアリ、俺たち知らないよな?」


 アリコが驚きで口を開けたまま首を振り、アリミも困惑した表情でうなずいた。

 二匹ともこの異変に戸惑っている様子だ。


「どこか近くにいるのかもしれない。この状態じゃ早く見つけないと手遅れになるかもな」


 心臓? が早鐘を打つように鳴り響くようだ。アリミアという名前のブラッディアントが、瀕死の状態でこの洞窟のどこかにいる。


 彼女を助け出さなければならないと本能が叫ぶ。彼女のHPがわずか3という絶望的な状況である以上、時間は一刻を争う。


「まずはこの洞窟の中を探そう。アリミアがどこにいるのか手がかりを見つけるんだ」


 アリミとアリコは同意し、俺たちは急いで行動を開始した。洞窟内の暗い通路を進みながら、アリミアの居場所を探し出すために全力を尽くす。


「はい、私も探してみます」


 アリミは緊張した声で応え、


「任せてー、絶対に見逃さないから!」


 アリコは力強く答えた。


 俺たちは手がかりを探すことにした。洞窟の中は冷たく、湿った空気が漂っている。岩肌には微かに苔が生えており、足元が滑りやすい。緊張感が漂う中で、アリミとアリコの目は鋭く、細かな異変を見逃さないようにしている。


 アリミが慎重に進みながら、洞窟の壁に触れ、微細な震えを感じ取ろうとしている。その動きから彼女の焦りと必死さが伝わってくる。何度も触角を壁に触れ、耳を澄ませている彼女の姿が、緊張の高さを物語っている。


「アリミア……どこにいるの? お願い、無事でいて」と、アリミの心の声が聞こえるようだ。


 一方で、アリコは洞窟の奥へと進みながら、彼女の触角は常に動き、何か異常がないかを探っている。彼女の表情は真剣そのもので、心の中では強い決意が感じられる。


「絶対に見つける。ブラッドお兄ちゃんと一緒に」と、アリコの決意が伝わってくるようだ。


 洞窟の奥へと進むにつれ、なにかの足音が響く。俺たちはそれぞれの役割を果たしながら、慎重に進んでいた。


 突然、アリミが叫んだ。


「ブラッドお兄ちゃん! 早く!」


 俺は急いで駆け寄り、アリミが示す方向に目を凝らした。そこには、薄暗い光に照らされたアリミアが横たわっていた。彼女の体は衰弱し、冷たく震えている。


「見つけた……これがアリミアか」


 俺は慎重にアリミアの体を抱きかかえ、その冷たさに息を呑んだ。


「アリミ、早く治癒スキルを使ってくれ!」


 アリミはすぐに新たなスキルの癒光ヒールライトを発動させ、温かな光がアリミアの体を包み込んだ。その光は彼女の傷を徐々に癒し、温もりが彼女の冷えた体に広がっていくのが感じられた。


「もう少し……もう少しだけ持ちこたえてくれ」


 アリミは全力を尽くし、光を送り続ける。俺はアリミアの足を握りしめ、かすかな鼓動を感じ取ろうとした。わずかに感じる生命の証が、彼女がまだ戦っていることを伝えてくれた。


「アリミ、他に何かできることはないか? 彼女を安定させるために」


「そうですね……回復アイテムがあればいいんだけど、私たちの持っているものでは足りないかも。でも、何か使えるものが近くにあるかもしれない」


 アリコは洞窟の周囲を見回し、何か役立つものを探している。彼女の触角が動き、微細な変化を感じ取ろうとしている。その姿勢はまるで、最後の希望を探し求めるかのようだ。


「ブラッドお兄ちゃん、あの奥に見えるのは……昆虫蜜インセクトネクターじゃないかなー?」


 アリコが示す方向には、淡い光を放つ小さな花が咲いている。その花からは甘い香りが漂い、昆虫が好む蜜が滴り落ちている。


「よし、それを使おう。アリコ、急いで取ってきてくれ」


「任せてー」


 アリコは素早く動き、昆虫蜜インセクトネクターを集めて戻ってきた。彼女はその蜜をアリミアに差し出し、口元に持っていく。


「アリミア、これを飲んで……少しでも回復するんだ」


 アリミアは僅かに目を開け、アリコが差し出す昆虫蜜を見つめた。彼女の意識はまだ薄れかけているが、蜜の甘い香りが彼女の生命力を呼び覚ますかのようだった。


「頼む、飲んでくれ……」


 アリミアが昆虫蜜インセクトネクターを飲み始めると、彼女の喉がごくりと鳴り、蜜が体内に広がるにつれて、少しずつだが彼女の表情が和らいでいく。


 俺たちは緊張しながらも、彼女のHPが徐々に回復していくのを見守った。


「効いてる……アリミアが回復してる!」


 アリミもホッとした表情を浮かべ、アリミアの回復を見守っている。アリコはさらに蜜を集め、アリミアに飲ませる準備をしている。


「よし、これで彼女は安定してきた。もう少しで完全に回復できるはずだ」


 俺たちはアリミアを囲み、彼女の回復を待ちながら緊張感を解いていく。洞窟内の冷たい空気も、少しずつ温かく感じられるようになってきた。


 俺は彼女たちと共にアリミアを見守った。彼女のHPが安定し、呼吸も深くなっていく。やがて、彼女の目がしっかりと開き、意識が戻ったことがわかった。


「……ありがとう。助けてくれて」


 アリミアのかすれた声が洞窟内に微かに響く。その声を聞いて、俺たちは皆安堵の笑みを浮かべた。


「大丈夫だ、アリミア。俺たちがついている。もう安心していいんだ」


 助かったのは良かった。しかし、なぜ彼女は瀕死の状態でここにいたのか、その理由が気になる。


「アリミア、どうしてこんな状態になってしまったんだ?」


 俺は優しく尋ねた。


 彼女は一瞬、辛そうな表情を浮かべ、そして少しずつ話し始めた。


「私……餌を探して、この神秘アルカナダンジョン内の洞窟に迷い込んだんです。でも、ここには強力なモンスターがいて……」


 アリミアの声はかすれているが、少しずつ力を取り戻しているのがわかる。それにここでミスティックレアモンスターばかりに遭遇する理由も見えてきた。


 神秘アルカナダンジョンは、神々や古代の英雄が発見したとされる伝説のダンジョンだ。ここにはミスティック伝説レジェンダリーのモンスターしか存在せず、神の力を持つ者だけが到達できるとされる。


 彼女は息を整えて話を続けた。


「そのモンスターはとても凶暴で、私は必死に逃げ回ったけど、傷を負ってしまって……。途中で倒れてしまい、動けなくなってしまったんです」


 彼女の目には恐怖と悲しみが浮かんでいた。アリミとアリコもその話を聞き、同情の表情を浮かべている。


「私は蟻の共鳴アントリンクを使って助けを呼ぶことができました。でも、誰かが来てくれるかどうかはわからなかった……。だから、あなたたちが来てくれたのは本当に奇跡みたいです。ブラッド、アリミちゃん、アリコちゃん、ありがとう」


 アリミアの言葉に、俺たちは驚きと共に彼女の勇気を感じた。彼女が一人で強力なモンスターに立ち向かい、生き延びたのは奇跡に近い。


「よく頑張ったな、アリミア。俺たちがここに来たのもきっと偶然じゃない。君を助けるためにここにきたんだよ」


 俺の言葉に、アリミアは涙を浮かべた。その涙は、恐怖や悲しみから解放された喜びの涙だった。


「ありがとう……本当に、ありがとう……」


 彼女の感謝の言葉に、俺たちが互いに微笑み合った時、


 ドシン、ドシン


 さっきから聞こえていた足音がこちらに向かってくるのを感じた。

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