第16話 盗賊

 人をさらう異端者の集団D、その集団の荷物に子供サイズの服があるのは当然の事か。ダリエルが荷物の中から大きな袋を引っ張り出し、地面に広げた。


 袋の中には様々なサイズの防寒着や、物資が詰め込まれていた。リリカは興味津々にその中を覗き込んだ。


「このコートなんてどうだい、お嬢ちゃん?」


 ダリエルは鮮やかな青いコートをリリカに見せた。


 リリカは手に取ってみて、その柔らかい素材に驚いたように目を見開いた。


「わあ、これすごく暖かそう!」


「そいつは特別な素材で作られているんですぜ。極寒でもしっかり体を温めてくれる」とダリエルが説明すると、リリカは満足そうに頷いた。


 次に、リリカは袋の中から毛糸の帽子を見つけた。赤いポンポンが付いたかわいらしいデザインだった。


「この帽子もいいね!」

「そうだな、その帽子はお嬢ちゃんにぴったりですぜ」


 リリカはさらに探し続け、厚手の手袋と毛糸のマフラーも見つけた。全てを身に付けてみると、彼女は少し不格好ながらもとても暖かそうだった。


「カエルさん、どう? 似合うかな?」


 リリカは少し照れたように笑いながら俺に尋ねてきた。


「ゲロゲロ(とても似合ってるよ、リルカ)」と頷く。


 リリカの顔に笑みが広がり、彼女は満足そうに防寒着を整えた。


 リリカが防寒着を選び終わった後、ダリエルが再び袋の中を探り始めた。


「カエルの旦那、こんなのどうですかい?」と、彼は厚手のマントを取り出した。


 首をかしげて、それは何だ? とジェスチャーするとダリエルは分かってくれたようで、


「これは特別な防寒マントですぜ。極寒の地でも暖かさを保つ魔法がかけられているんです。これを着れば寒さも心配いりやせん」


 俺はそのマントを受け取り、羽織ってみた。瞬間的に暖かさが体に広がり、寒さに対する不安が和らいだ。


「ゲロゲロ(これなら寒さに耐えられそうだ)」


 リリカも嬉しそうに、「カエルさん、そのマント似合うよ! 本物の勇者様みたいだよ!」と言って微笑んだ。


「カエルの旦那、見たところ短剣以外なにも持っていないご様子。こんなのもあるんで是非!」


 ダリエルは皮で作られたポーチのような物を手渡してきた。


「ゲロ?(ポーチ?)」とまた俺は首をかしげた。


「これは魔法のポーチで、必要なものをたくさん収納できるんですぜ。外見は小さいですが、中は広々としていて、多くの物を入れることができやす。これは俺が持っている唯一の宝物ですが、カエルの旦那に差し上げやす」


 ポーチを手に取り、中を覗いてみた。確かに見た目以上にたくさんの物が入るようだ。


「ゲロゲロ(これは便利だな)」


 リリカも興味津々にポーチを見て、「すごい! カエルさん、これでいろんな物を持ち歩けるね!」と喜んだ。


「そうですぜ、お嬢ちゃん。これで必要な物をいつでも取り出せるようになる。準備万端で極寒の地に向かいましょう」


 俺たちは防寒具と必要な物をポーチに詰め込み、準備を整えた。これでどんな状況でも対応できそうだ。


 アイテム、物資は旅、そして戦闘のかなめ。

 戦闘は始まる前から始まっているんだ、だったかな。

 かつてのパーティーメンバーの盗賊がそんな事を言ってたっけ。


 ________________________


 彼女の名前はグレイ。

 彼女はいつも先を見据え、必要な準備を怠らない性格だった。彼女の言葉が今でも俺の心に深く刻まれている。


 グレイは盗賊としてのスキルだけでなく、物資管理や戦術の天才でもあった。

 彼女は常に全員の装備や物資のチェックを怠らず、何が足りないのか、何が必要なのかを把握していた。その姿勢に、俺たちのパーティーは何度も救われた。


 そんな彼女の口癖はこうだった。


「戦闘は始まる前から始まっている。戦場に立つ前にどれだけ準備ができているかで勝敗が決まるんだ」


 彼女の言葉に偽りはなかった。

 ある時、俺たちは予期せぬ強敵と遭遇したことがあった。

 グレイの徹底した準備がなければ、俺たちは全滅していたかもしれない。

 彼女は事前に毒の矢など大量に用意し、敵の弱点を突くための計画を立てていた。その結果、俺たちは勝利を収めることができた。


 旅の途中でも、グレイは常に先を見据えていた。彼女は食料や水の確保だけでなく、薬草や緊急時に必要な工具なども準備していた。


 ある日、彼女が俺にこう言ったことがあった。


「旅は戦闘以上に厳しいんだ。予期せぬ出来事が起きることが常だからね。だからこそ、いつでも対応できるように準備をしておくんだ。君は勇者だからってその辺の意識がなさすぎる」


 その言葉は今でも俺の心に響いている。俺たちは過酷な環境を進む中で、彼女の準備がどれほど重要であったかを痛感した。

 彼女が持っていた薬草がなければ、MPがなくなり賢者が解毒魔法を使えなかった時、毒に侵された仲間を救うことはできなかっただろう。


「情報が武器になる。知らない敵は恐ろしいが、知識を持って挑めば恐れることはない」


 グレイのこの言葉も、俺たち全員にとって大切な教訓となった。彼女は常に冷静であり、どんな状況でも最善の策を考え出すことができた。


 そんな彼女をそばで見てきたからこそ、神秘アルカナダンジョンでも、最善の策で乗り切ることができたと思っている。


 まぁ完璧、とは言えないけど。

 捕食されるとか想定外もいいとこだしな。


 俺はこうやって仲間たちからの知識、経験も吸収して勇者として強くなってきたんだ。


「ゲロゲロ。ゲロゲロ(準備はすべてだ。戦闘はすでに始まっているんだから)」


 俺はポーチをしっかりと締め、リリカとダリエルに微笑みかけた。

 これからの旅と戦いに向けて、俺たちは一歩を踏み出す。

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