第18話 氷点下の嵐
(まずは力量を確かめるか)
俺はリリカの短剣を構え、素早さ
(俺のスピードに反応した? いや、野生の勘か)
「カエルさん、頑張って!」リリカが叫ぶ。
俺は跳び上がり、
俺は木々の間を利用して身を翻し、再び攻撃の隙をうかがった。
(なるほど、あの程度じゃダメージを受けないか)
一瞬の隙を突き、
しかし、再びその巨大な腕が振り下ろされる。俺は素早く後退し、またもやその拳が地面を砕く様子を見ながら考えた。
「カエルさん、気をつけて!」リリカが心配そうに言うのが聞こえる。
リリカとダリエルを守るため、そしてなにより俺は怒っている。
「ゲロ(もう一度だ)」
筋肉が動いた瞬間、巨大な拳が俺に降り下ろされる。俺は跳び上がり、その腕を掴んで肩の上へ駆け上がった。
「ゲロゲロ!(このまま一気に!)」
(固いな……どこかに隙はないか?)
「
(やっと隙を見せたな。これを食らえ!)
魔法のポーチから炎魔法が封じられている火炎球を
やっぱり熱に弱い、特にその背中。グレイから聞いていた通り、準備しておいてよかった。
その隙に
まだ、油断は禁物だ。最後の一撃を確実に決めるため、俺は全力を尽くす。
目を抑えて暴れ回る
麻痺無効などのスキルがないようで、山をも揺り動かすのように暴れていた
(とどめだ)
俺は
「カエルさん! その……ゴリラさん、もう動けないなら……それ以上はやらなくても大丈夫……じゃないかな?」
(大丈夫……ではないんだリリカ)
野生の獣を前に絶対にしてはいけない事がある。それは、油断だ。
どれだけ深手を負わせても、獣は最後の力を振り絞って襲いかかることがある。それが野生の本能、モンスターの本能だ。
「ゲロ……ゲロゲロ(確実に仕留めるしかないんだ……このまま恨みを買ったままではいつ襲われるか分かったものじゃないんだから)」
短剣をさらに強く握りしめ、
「襲う、なんてとんでもない。ワシの完敗じゃ、仕留めてくれてもかまわんよ」
突然、聞き慣れない低い声が響いた。その声に驚き手を止めて、
「あれ? もしかして喋れた?」
「おお、どうやらお主の言葉がワシにも分かるようじゃ」
(そうか、
俺はリリカとダリエルに目配せをし、
「お前の言葉が分かるようになったのか。これは、ありがたい。」
「ワシも他の種族と会話ができるとは思わなんだ」
その表情には敵意がなく、むしろ落ち着きと諦めが感じられた。
「人間を連れとるので、最近山の向こうで悪さをしとるものだと思ったが、どうやらワシの勘違いじゃったか」
「カエルさん、本当にもう大丈夫……なんだよね?」
リリカが不安そうに尋ねた。俺は頷き、短剣をおさめた。
「ゲロ(こいつはもう戦う意志を失っている)」
「この少女……知っておるぞ。六つの夜明けを迎える前、悪さをしてる連中の馬車を襲撃した時に囚われておった子じゃ。この子のことが心配になり探しておったのよ」
(良かった、一撃で倒してしまなわなくて)
とホッとするも、早くこの事実をリリカに教えてあげたい。
俺は地面に棒で絵を描き始めた。まず、馬車とその中に閉じ込められている少女の絵を描いた。次に、その馬車を襲撃する
つもりだ、俺は絵が上手じゃないからどうか分かって欲しい、と願いながら彼女の目をまっすぐにみつめた。
リリカがその絵を見て驚いたように目を見開いた。
「え? これってあの時の……このゴリラさんが助けてくれたの」
(さすがリリカ! 分かってくれたか!)
「ゲロ!(そうだよ!)」と俺は大きく頷いた。
リリカは感激の表情を浮かべながら、倒れて動けない
「ありがとう、優しいゴリラさん」と頭をなでた。
すると、
「お嬢ちゃん、その光は……」
「ゲロ?(癒しの力?)」
ダリエルも驚いているが、俺も驚きを隠せない。
リリカの右手から放たれる光は
「なんだろう……なんか温かい気分だぁ」
リリカ自身も温かさを感じているみたいだ。
「ウホ……ウホ(ありがとう……小さな癒し手よ)」
「カエルさん、見て。ゴリラさんが元気になったよ!」
リリカが嬉しそうに言う。その笑顔はまるで温かい春の日差しのように輝いていた。
俺はリリカの新たな力に感謝すると同時に、その力をどのように活かしていくかを考えた。これからの旅で、彼女の力がどれほど重要な役割を果たすか、期待と責任を感じずにはいられない。
それもそのはず、仮説の段階だが恐らくリリカの本質的な力は癒しだけではないと気づかされたからだ。
こんなこともあるんだなと深くは考えていなかったけど、リリカが作ってくれたこの短剣。素材はただの木なのに切れ味も良く、頑丈すぎる。
そしてリリカが作ってくれた服もそうだ。森の素材のみで作られているのにほころび一つない。それはまるで、普通の物がリリカの手によって特別なものに変わるようだった。
(リリカに名前を付けたときにスキルを獲得したのは確定的だ。鑑定スキルを持ってないからなんとも言えないけど、言うなれば神の
リリカが持つ力は、ただの癒しだけではない。
彼女が意識を込めた右手で触れるもの全てが特別な力を持つようになる。
この短剣も、彼女が作った服も、その証拠だ。彼女の手が触れることで、普通の素材が信じられないほどの性能を発揮する。
「ゲロ、ゲロゲロ!(さすがリリカ、本当にすごいな!)」
(しかし、リリカのこの力、これって……女神様の奇跡を体現したようなスキルだな)
ただし、リリカのこの力が目立ちすぎるのも危険だ。彼女の力を狙う者が現れるかもしれない。
それに、女神教徒たちがこの力を黙って見過ごすとは思えない。リリカの力が彼らの信仰に影響を与えることは明白だ。俺は彼女を守ることを改めて誓った。
(リリカの力は、俺たち、いや、この世界の希望だ。その力を守り抜いてみせる)
三日かかると予想されていた山越えだったが、俺たちは
リリカの小さな体が震え、ダリエルも顔をしかめるが、俺たちは防寒着を着込んでいたおかげでなんとか耐えられている。この地域の寒さがどれほど厳しいかは承知しているが、それでも油断は禁物だ。
「カエルの旦那! こっからはあっしに道案内させてくださいやせんか? いくら防寒着を着てるとはいえ、この寒さの中じゃお嬢ちゃんがもたねぇや」
「ゲロ、ゲロ(分かった、頼む)」と首を縦にふり、俺たちはダリエルだけが知っているというアジトへの近道の洞窟を目指す事にした。
その時、突然遠くから不気味な轟音が響き渡った。俺たちは驚いて足を止め、周囲を見渡す。
「この音やばいですよ! 氷点下の
俺たちはのんびりすることは許されず、寒波から逃げるように全速力で洞窟を目指した。
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