第1話④田﨑達也
「自分はいつも思っています。
仕事に恵まれていないと。
ただ、自分と松戸さんの環境が似ているから怒っているんじゃなく、ちゃんと仕事を与えることができない会社に怒っています」
田﨑は普段なら口にしないようなことを苛立ちもあり、一気に話した。
「吉川部長に話をした?」
村西は笑顔で聞いた。
「話なんてできないですよ。
自分には期待しないと言われ、
雑用しか与えてもらえない。
部長は自分のこと嫌いなんですよ」
真っ赤な顔で早口に話す田﨑を見ていたが、
村西はそこまで聞いて我慢できずに吹き出した。
笑いながら、
「嫌いって小学生じゃないんだから。
1番田﨑くんに期待しているのは部長だよ」
「そんな事はない」
と否定する田﨑に、村西はゆっくり話した。
「田﨑くん配属されてすぐのこと覚えている?
何かをしなきゃ。って必死だったよね。
ちょうど私たちが忙しい時期で、
田﨑くんも練習の時間なのに帰りにくそうにしていたよね。
部長は時間をすごく心配していたんだよね」
と、少し笑いながら村西は言った。
「だからって、自分には仕事では期待しない。って言い方は。ないんじゃないですか」
と言う田﨑に、
「そうだね。そう言ったとき、私もびっくりしたけど、その後の部長の話を聞いて部長らしいな。ってみんなで笑っちゃったよ。下手なんだよね」
おかしそうに村西は笑った。
田﨑はその後の部長の話が全く記憶にないので、困惑した。
村西は田﨑の顔を見てまた声を上げて笑いながら、
「そっか。田﨑くんは期待しない。と言われた途端に幽霊みたいな顔していたから何も聞いていなかったのか。
部長はその後ね、仕事のやり方とかはいつでも覚えられる。だから今はラグビーを大切にしながら、ラグビー引退後に必ず必要になる力を身につけるように。今は仕事で焦って目に見える成果なんて期待していないから。って。言っていたよ。
聞いていて感動しちゃったよ」
田﨑はまだ納得できずに、
「今は雑用しかしていないから、引退後に必要な力なんて何一つ身についていないから不安なんですよ」
村西は
「迷える新入社員なら答えを教えてあげるけど、
田﨑くんには自分で考えて欲しいな。
まだ田﨑くんは仕事もラグビーも常に全力ではないから見えていないかな」
と、変わらない笑顔で颯爽と村西は去って行った。
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