第2話①桜庭敦志
いつもの様にポスターの張り替えをしていると、
官庁営業部 部長の春山が声をかけてきた。
一度声をかけてくれて以降顔を見るたびに春山は田﨑を気にかけてくれていた。
「うちの桜庭が今悩んでいるみたいなんだよ。
一度話を聞いてあげてよ」
「分かりました」
と返事をしながら、田﨑は昨日のミーティングのことを思い出した。
昨日のミーティングで田﨑が、
「日本一ファンを大切にするチーム」というスローガンを提案した。
田﨑は、自分で強豪チームから離れていきながらも、地響きがする程の歓声の呪縛に未だに捕らわれていた。
現状では観客数も少なく、中村建設からも社を上げての応援は期待できない。
でも、もう一度たくさんの観客の前で試合をする感動を味わいたい。という想いが日増しに強くなっていた。
そこで田﨑なりに必死に考えたことがこのスローガンをミーティングで提案したのだった。
社内に眠る昔ファンだった人たちにももう一度スタジアムに来て欲しいという想いが込められていた。
中村建設では試合に出ないメンバーは会場設営、運営に携わることになっている。
桜庭は試合に出ることが多い選手ではない。
だから自然と会場での誘導等を行い観客と話すことが多い。
桜庭から声をかけて、一緒に写真を撮ることからファンの間では非常に人気がある選手だ。
そんな桜庭はスローガンにすぐに賛同してくれると、田﨑は考えていた。
しかし、予想に反して桜庭は黙っていた。
メンバーの形ばかりの同意を得たミーティング終了後に田﨑はすでに帰り支度をしている桜庭に声をかけた。
「桜庭さん。今日のスローガンどうでした?」
「別にいいんじゃない。お疲れ様」
と、それだけ言い桜庭は足早にミーティングルームを去った。
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