第16話⑥千葉県富津合宿

合宿3日目になり昨日の疲れが残っていた選手たちが眠い目をこすりながらグランドに集合してきた。


吉川は

「今日からは組織として勝つための練習を始めるが、同時にフィジカル面を今まで以上に鍛えあげていく」

と宣言した。


スタッフが主に戦術をプランニングして、それを選手に確実に落とし込みをして、選手が実行に移すというバランスを向上させていく。戦術、それに対しての選手の実行力という部分が勝つために必要な両輪であることは選手全員が理解していた。


昨日、惨敗した経験から立ち直っていないメンバー達は吉川の練習がどれだけハードであっても食らいついていく覚悟に溢れていた。


常にみんながサポートプレーや反応するリアクションプレーを鍛えあげる。相手や仲間が仕掛けたことに対してどう反応するかを、全員がしっかりアンテナを張って対応でき、かつ共通の認識が形成されれば組織として必ず強くなれる。


「まずは試合形式の練習を行う。

プレーの中で私たちが望むプレイではないときはその都度止めて意図を確認する。まずは私たちがみんなにやってほしいプレースタイルの基本を学んでもらいたい」

吉川が説明した。


選手達を4つに分けたチームを発表した。

 

全スタッフが4つのチームそれぞれの試合に張り付いてプレーを細かく止めていく。


「田﨑、今のプレイはなぜ裏へ蹴った?」


「あの位置に穴がありました。

そこに若色が入れると思ったからです」


「若色どうだ?」


「間に合わずすみませんでした」


「謝罪はいい。状況を教えてくれ」


「はい。田﨑さんのキックは読まれていました。

自分が走ることも完全に読まれていました。

最短距離で進むことができず、ディフェンスをかわすのにわずかですが時間がかかり間に合いませんでした」


「田﨑気づいていたか」


「気づいていませんでした。若色の位置と若色のトイメンが間に合っていなかったのでいけると思いました」


「ディフェンスが下がったんだ。

仮にそこまで見えていたとしたらどうする」


「自分のフォローを待ちます」


「そうだ。さっきのプレイはリターンがないリスクしかなかった。

はい。試合再開」


極端に言うと1プレイ1プレイ止められ、振り返りまた試合再開を延々と繰り返した。

最初は止められた人のみが答えていたのを周囲で聞いていたが、だんだんチームメイトや、相手チームまで入り考え意見を言うようになった。


その頃にはスタッフはあまり口を挟まなくなっていた。

既にプレイスタイルは全選手の頭に入り、共通化されているからだ。


頭に入った上で、自発的に最善のプレイをアウトプットする。繰り返すことで理解のレベルはさらに高まる。


「練習終了」


という声が聞こえてもまだ納得できない選手たちは最善のプレイを考えることをやめなかった。

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