第10話①バックスミーティング

練習後に田﨑はバックスメンバーを集めた。


みんなの疲れ切った視線の前に吉川のビデオを流した。


ファーストプレイを見ただけでメンバーに緊張が走った。

ハイパントを蹴った相手のボールを吉川は高い空中到達点でキャッチし、スマッシュタックルを狙う相手がまだ吉川に到着する前に、既に攻撃の陣営を整えて、フォローに入る仲間にパスをした。


空中にいるわずかの時間に攻撃陣営を見極めた吉川もだが、一瞬で陣営を整えたことに見ていたメンバーは驚きを隠せないようだ。


そこからはどこに走っても必ずフォローが、相手の数より多くいるのでどんどん前に進む。

試合開始15秒でトライを取った。


「すごいな」

ため息混じりの声が色々なところから聞こえた。


昔からブルーウイングスは「仕事もラグビーも常に全力」を掲げているため練習に避ける時間は今の田﨑たちと変わらないはずだ。

なのに個々のフィジカルの強さに加えて、フィジカルに頼らないチームとしての統制にはみんな言葉を失った。


一通りビデオを見終わったタイミングで田﨑は声を発した。

「この時のフルバックの人にバックスコーチを依頼しました。

今の自分の上司で吉川さんという方です」

田﨑の言葉に興奮したメンバーが

「すごいな。

こんな人にコーチしてもらえるのか」

騒ぎ出した。


「断られました。今のチームは自分のためのプレーに優れているが、チームのためのプレイができていない。という指摘を受けました」


「チームとしてここまで統制をきかせてきた人から見ると、今のチームはそう見えるだろうな」


「自分はどうしても吉川さんにコーチをお願いしたいと考えています。

勝負を制するのには個々の経歴よりも集団としての意思統一と自己犠牲が必要だと考えている吉川さんの考えがチームに受け入れられないことが理由で断られました。

それ以外にも理由がありますが、それは自分が何とかします。


皆さんの考えを教えてください」


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