第1話⑤田﨑達也

まだ貼らなければいけないポスターを抱えながら歩く田﨑に、

「君、ラグビー部?」

と声をかけてきたのは、田﨑より2回り以上歳上のにこやかな男性


「そうですけど」

田﨑は笑顔も見せずに答えた。


官庁営業部 部長の春山は田﨑の訝しむ様子も気にせずに聞いた。

「ポジションは?」


「フルバックです」田﨑は答えた。


「最近ラグビーのリーグ戦を見に行くことは減ったけど、昔はよく取引先の人を連れて見に行っていたよ。当時フルバックにすごい選手がいたな」

と、春山は懐かしそうに一方的に話し始めた。


「一度のタックルで止められなくてもすぐに立ち上がり、いつの間にか敵に追いついてタックルして止めていたな。あいつが15番付けて1番後ろにいると、

試合を見ていても安心するんだよな。

最後の砦。という感じだったな」


「最近はどうしてあまり見なくなったのですか?」

懐かしそうに話す春山に田﨑は疑問を口にした。


「あまりワクワクしなくなったからかな。

取引先の人を連れて行ってもすごい会社だな。って思ってもらえないからね。最近は残念だけど」


春山はそう言いながら、田﨑の険しい表情を見て続けた。

「ただ自分たちの世代はやっぱりラグビー部の試合で仕事を助けてもらったこともたくさんあるし、部署みんなで応援に行って熱狂した記憶が残っているから、頑張って欲しいんだよね。

長く想い出を話してごめん。ごめん。

でもさ、せっかくこうして、仕事で色々な部署を回っているんだから、仕事でも何でも困ったら言ってよ。

意外と頼りになる人達が支えてくれるよ」


「じゃね。頑張ってね」

と言いながら、春山は歩いて行った。


「ありがとうございます」

と小さな声で田﨑は答えた。

村西の言っていたことが少し分かった気がした。

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