第6話 5

「手伝う? えと、ケイ? そもそも四公って?」


 たしかリーシャがハヤセさんの事をそう呼んでいたような……


 戸惑うわたしに、リーシャが駆け寄って来て。


「――トヨア皇国建国以前から陛下に仕える筆頭家臣の事っス。

 大将軍ハヤセのおっさん、侍女長アリア様、宰相のヤシマさん、そして陛下の相談役にして筆頭のケイちゃんっス!」


「……四天王みたいなものなのね」


 トヨア皇国建国以前から仕えているという事は、ハヤセさんもアリアさんも見た目通りの年齢ではないって事か。


 魔属だもんね。


 寿命も普通の人より長いのかもしれない。


 アリアさんもそうだと教えられても、あまり驚きはない。


 むしろ納得したという感覚の方が強いかな。


 あの人、侍女にしては余りにも動きが洗練され過ぎてるし、雰囲気が姫様に近いんだもの。


「あ、ちなみにあーしの憧れのシャドウ様も、侍女長様やヤシマさんと同じくらいから仕えてるみたいなんスけど、諜報機関の長なんで四公には数えられてないんス!」


 少なくともハヤセさん、アリアさんレベルの人がもうひとりいるって事か。


 そんな戦力があるにも関わらず、わたしと直接の対決を望んだヒノエ様は、本当に家臣を大切に思っているんだろう。


 もしハヤセさんと戦う事になっていたなら……わたしはきっと相打ち覚悟で挑んだと思う。


 いろんな敵と戦ってきたからわかる。


 ハヤセさんは、純粋な肉弾戦だけならわたしより強い。


 魔法を交えて戦って、ようやく対等といったところかな。


 だからこそ、相打ち覚悟。


 どうせ死んだとしても、わたしはアーガス王城で復活を果たし、けれどハヤセさんは死んでしまったらそれっきりだから。


 ヒノエ様はきっと、それさえも見越して自らわたしの前に立ったんだ。


『ちなみに補足すると、ボクはフソウ宮――トヨア型生体戦艦フソウのメインスフィアに生み出された幽属ガイストロイドで、主に艦の制御・運用を担ってるんだ』


「え? ええと……」


 よくわからない言葉が連続して、わたしは顔を引きつらせてしまった。


 わたしはこの世界がファンタジーな世界だと思ってたんだ。


 アーガス王国はちぃちゃんが貸してくれた小説みたいな中世風だったし、魔法や魔道器もあって、「あー、ファンタジーならそういうのもあるよね」って考えてた。


 兵騎みたいなSDロボットだって、古代遺跡の工房で造られる魔道器の一種だと聞かされてたしね。


 ちぃちゃんが貸してくれた本なんかにも、大昔に滅んだ古代文明が高度な技術を持っていたってのは定番だった。


 実際、わたしは勇者としての任務でそういう古代遺跡を探索して、多くの遺産をアーガス王国に持ち帰っているから、そういう世界なんだと思ってたんだ。


 でも、フソウ宮で暮らすうちに、おかしいなって思い始めてたんだよね。


 例えばヒノエ様が先日観せてくれたホロウィンドウ。


 古代遺跡なんかで時々見かけるアレを、ヒノエ様は自在に操作していた。


 そして、ヒノエ様に見せてもらった映像で、フソウ宮の下には大きな竜型の生体戦艦が眠っているというのは説明されて。


 ――生体戦艦。


 ヒノエ様の説明では、んだとか。


 魔道器の一種ではなく、ヒノエ様ははっきりと宇宙戦艦だって言ってた。


 ちぃちゃんが貸してくれた本には、そういった超科学SF的なものはなかったから、わたしも詳しくはないけれど。


 どうもヒノエ様や側近の魔属はファンタジーというより、SFとかスペースオペラとかの世界の人なんじゃないかって思うようになってたんだよね。


 化生なんかもそう。


 ヒノエ様はあれをバイオスーツの一種って言ってた。


 あの時は魔属特有の呼び方なんだろうって思ってたんだけど、今にして思えばあれも言葉そのまま、超科学SF的な意味でのものだったのかもしれない。


「あ~、ケイちゃん。一気に言われてミィナ様固まっちゃってるじゃないっスか。

 ケイちゃんはいい加減、自分がレアキャラだって理解した方が良いっスよ」


 理解が追いつかないわたしに、リーシャが助け舟を出してくれた。


『ああ、そう言えばリーシャ。キミも初めてボクを見た時は驚いてたね。

 あれはウツロに連れられて来たばかりの頃だったっけ?

 ――おばけが出たーって大泣きして、おもらししちゃってたよね』


 ホロウィンドウの中で、ケイは銀色の目を細めてリーシャに訊ねる。


「――あっ、あれはっ!

 ミィナ様、違うんですよ? 漏らしてはないっス!

 そもそもケイちゃんが、城の地下でおかしな笑い方してるのが悪いんス!」


 必死にわたしに説明するリーシャ。


 なんでも慣れない客室で夜、ひとり寝ることになった幼いリーシャは、心細さを覚えて部屋を抜け出したらしい。


 彼女を救ってくれたシャドウさんか、面倒を見てくれる事になったアリアさんを求めて城内をさまよい、そしてふと何処からか子供の笑い声が聞こえて来たのだという。


 ――自分と同じくらいの子供がどこかで遊んでるのかもしれない。


 そう思ったリーシャは、声のする方に進んで行って。


「――想像して見て下さいっス!

 ……暗い地下倉庫にぼんやりと浮かぶホロウィンドウ。

 そしてそこに映る人とは違う影……それが子供の声で笑ってるんスよ!?

 あの頃のあーしは、ホロウィンドウなんて知らなかったんスから、お、おばけと思ったって仕方ないじゃないっスか!」


『まあ、元々は形而上概念であるそれをモデルに、ボクら幽属ガイストロイドは名付けられたからね。

 ユニバーサル・スフィア――ミィナにもわかるように言うなら、霊脈だよね。そこに発生したソーサリー・アバターがボクらのご先祖様さ』


 と、ケイはまん丸いお腹を突き出して――たぶん、胸を張ってるんだと思う――そう言った。


 また新たな言葉が追加されて、わたしはますます混乱する。


「――ま、わかりやすく言うならフソウを管理してる人工知能みたいなもんだと思ってくれ」


 なるほど。それならなんとなくわかる。


 ハヤセさんが苦笑しながら、そう教えてくれたんだけど。


『――この脳筋っ! ボクをそう呼ぶなといつも言ってるだろう!?

 あんな既知情報の出力しかできない低能と一緒にするな!』


 それはケイにとっての侮辱だったみたい。


『ボクら幽属ガイストロイドは、推測や創造も熟せる人類連合に認められたれっきとした人類の一員だぞ!』


「わーった! 悪かったよ! ミィナにわかりやすく説明しようとしただけだろうが!」


 早口でまくしたてるケイに、ハヤセさんは頭を掻いて謝る。


「――それよりホレ、ミィナに手伝って欲しい事ってなんだよ?」

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