閑話 2

「――あらあら。こんな夜中までなんて……勇者様は本当にお強いのですねぇ」


 音もなくドアが開いて、するりと女が忍び込んでくる。


 濃い紫のナイトローブをまとっただけの女。


 その袂から覗く零れ落ちそうな膨らみに、中途半端にお預けを食らっている俺自身が反応する。


「……遅かったな、ティア」


 俺がそう呼べば、彼女は俺の首に両手を絡めて口づけしてきた。


「ごめんなさい。陛下ってば、回数ができないものだからが長いのよ。そのくせ、行為自体はあっという間で」


 クスクスと妖しく笑うティアを抱き寄せ、俺はベッドに誘った。


 先に果てて横たわる娘がいても、ベッドはなお有り余る広さがある。


「じゃあ、いつものように俺が満足させてやるよ」


「ええ。愉しみましょう」


 ティアは白く柔らかな肌を俺に押し付けて、もう一度、口づけてきた。


「……わたしも、あなたを満足させてあげる……」


 その言葉が耳元で囁かれ、俺は貪るように彼女の中に押し入った。


 この世界に喚ばれて三年。


 あの女達の所為でドン底に落とされた俺の人生は、一変した。


 この世界なら――まるで物語の中のようなこの世界なら、俺は以前の俺に戻れる。


 誰もが俺を特別に扱い、俺も特別でいられたあの頃のように……


「はあああぁぁ……んん……」


 甘い、蕩けるようなティアの声。


 何人もの娘があてがわれたが、この女は格別だった。


 この女を抱いている時だけは、彼女を――あの女を忘れて、行為に没頭できる。


 俺が刺し貫いたティアの中心を見下ろし、強引にその両脚を開かせる。


「あっ……ヤだっ……恥ずかしい……」


 高く震える声で、ティアは顔をそむけた。


 時折見せる、こういう初々しさも良い。


 ティアは三つ年上の二二歳と聞いている。


 普段はどこか年上振っているくせに、こうして抱いてやっている時は俺に従順で年下なような雰囲気になる。


 王の愛妾という話だったから、最初に誘われた時は遠慮していたのだが、彼女の境遇を聞いて考え直した。


 ティアは魔道士として優れていた為、貴族の養女に取り立てられ、王宮魔道士になったそうだ。


 だが、この美貌に目がくらんだ王によって愛妾として後宮に入れられた。


 毎夜、好きでもない王に身体を汚される日々。


 ――お願いします、勇者様。忘れさせて下さいませ……


 それが彼女の救いになるなら、抱かないワケに行かないだろう。


 ティアは他の貴族女達とは違う。


 俺だってバカじゃない。


 貴族達が娘を差し出してくる理由はわかってる。


 ――勇者の血を家に取り込みたいんだろう。


 ミィナのように、子や子孫が勇者として選定される可能性があるから。


 そんな打算に満ちた女達を抱いた所で、あの女に対する怒りのはけ口にしかならない。


 いや、最近では、むしろあの頃を思い出して、より怒りが高まるほどだ。


 ティアが……ティアだけが、彼女を忘れさせてくれる。


「――んんっ……ん……あぅっ!?」


 俺の腕の下で喘ぎ声を堪えるティアの淫らな姿をもっと見たくて、俺は強く激しく腰を打ち付ける。


「あっ!? きゃっ――あ、あ、あっ……んっんーっ!?」


 彼女が鳴くほどに俺の心が満たされていく。


 軽く唇を噛んで身を震わせたティアだったが、ふっと息をすると笑みを浮かべて俺に口づけ、舌を絡めてきた。


「……はぁっ!」


 十分に彼女の舌をねぶってやると、ティアは荒い息のまま、潤んだで俺を見つめてきた。


 両手を俺の首に回し、豊かな胸を俺の胸に押し付けると、上擦った声で甘く囁く。


「――ああ、勇者様。あの紛い物亡き今、あなただけが勇者です……」


 そうだ。あいつは血筋だけの紛い物だった。


 そしてあいつが――ミィナが姑息な手段で俺から力を奪っても、ティアは失くした力を取り戻すために魔道士達に働きかけてくれた。


 最初に俺が負けたのは、俺のレベルが足りなかったからなんだ。


 そう、レベルアップだ。


 その方法を、ティアが教えてくれたんだ。


 経験値を貯めて、聖櫃で眠ることでそれは行われる。


 ミィナが最初から強かったのは、本来俺が得るはずだった経験値ボーナスを奪ったかららしい。


 それで自分が強いと思い込んでイキり散らかしてんだから、お笑い草だ。


 ま、結局、身の丈に合わない力を持って調子に乗ったアイツは、魔王の暗殺を目論んで死んだらしいがな。


 思わず笑みがこぼれ出る。


 俺の力で勝ち誇っていたあいつがくたばり、それに怒った魔王を俺が退かせた。


 いまやアーガス王都は俺を称える声で溢れ返っている。


 そうだ。俺こそが主人公なんだ。


 羨望の眼差しを向と共に俺の名を呼ぶ民達の姿を思い出し、俺は甘美な昂りが背筋を駆け上るのを感じた。


「――あっ、勇者様! セイヤ様、わたしもうっ――あ、あっあ……」


 ティアが俺をきつく抱き締める。


「ああ、俺も――――ッ!!」


「あああ――――ッ!!」


 深く唇を合わせて、二人同時に果てる。


 心地よい倦怠感の中、俺がベッドに身を横たえると、ティアは俺の頬に口づけて、胸に顔を寄せた。


「……勇者様、魔王からわたしを守ってくださいますよね?」


 迫る戦を不安に思っているのだろう。


「任せておけ。ティアも見ただろう? 勇者の力と君がくれた騎体があれば、魔王だってなんてことない」


 ティアが兵騎工房で造ってくれた<光臨神器アドヴェント・レガリア>は、勇者専用の騎体なのだという。


 鈍重な兵騎と違い、あの騎体はまるでもうひとつの俺の身体だ。


 ミィナや第二騎士団に負けたのは、いわば負けイベント。


 いや、俺をより輝かせる為の修行の導入だったのだろう。


 あそこで負けたからこそ、俺はティアと共にレベルアップを重ねる事になったのだから。


 魔王が山脈を吹き飛ばすほどの竜を従えていたとしても、この世界の主人公である俺はもう負けないはずだ。


 俺はティアを抱き寄せ、柔らかな尻を揉みながら目を閉じる。


「俺にできない事なんて、なにもないんだ……」


 眠気がやってきて、意識が遠のいて行く。


「ええ、そうですね。そして、新しき世界を作ってくださいまし……」


 甘く熱い吐息が、耳にかかる。


 ……そういえば、俺を陥れた彼女……あの女の名前は、なんと言ったっけ――





★――――――――――――――――――――――――――――――――――――★

 ここまでで男勇者視点の閑話が終了となります。

 

 エロ中心になってしまったのは、男勇者の性質を描写するのに一番伝わりやすいと考えたからです(^_^;)


 次回からはミィナに視点を戻し、本編再開~


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