21 井桐君の華麗なダンス
「ぎゃぁぁぁああああっ!! うあ、うあ、助け、助けてくれぇええ!!!」
「あいつ……もしかして、俺が空けた穴から落ちてきたのか?」
遙か上層の
他の探索者が
(あのデカい穴に普通落ちるか? 何て間抜けなんだ……)
死なせるのは簡単だ。
だが別の考えも浮かんでくる。
そう、バイトのシフトである。
あと数ヶ月で卒業して就職する。
バイトも辞めることになるだろう。
だが
〝闇の力〟に目覚める前であれば、シフトが増えることはむしろ喜ばしいことだ。
が、今となれば話は違う。
新たに目覚めたこの力を、もっと試してみたい。
あわよくば、ダンジョン探索者になって金を稼ぎたい。
そのためにはもう少し〝闇の力〟を色々とテストする時間が必要だ。
――とは言え。
バイトを辞めるのはまだリスクがある。
生活費が底を尽きそうで怖い。
そうなると
そうして
「やれやれ……バイトに助けられたな」
「〝
すると地上から百メートル程の高さに、〝闇の魔力〟で編まれた網が幾重にも渡って展開された。
網は
その度に
最終的に
「うわぁぁぁっぁあああ、うわっ、あああ、助けてくれ――!! ……あれ? 何だ、これは!?」
それと同時に、
「〝
詠唱の直後、〝闇の魔力〟は
(これでよし……っと)
状況は、整った。
ダンジョンの最下層、
竜騎士は今は第二形態を取っている。
第二形態は、〝邪眼の竜騎士、リガンディヌス〟と言うおどろおどろしい名だった。
しかし
こうした方が面白そうだぞ。と。
「う、うわあああっ! ま、まさかこいつが
竜騎士は
「そ、そうか。何だか分からないが……これはチャンスだ! こいつを倒せば俺は、ダンジョン界隈で一躍有名人になれる! この〝
――ビギッ!!!
金属がぶつかる音と魔力が爆ぜる音が合わさった、異様な音がダンジョンに響き渡った。
「……な、そんな馬鹿な!? この剣は200万もしたんだぞ……あの武器屋、俺を騙したのか!?」
よほど自らの剣に自信があったようだ。
(あの剣は確か、安物の量産型魔剣だったよなあ……竜騎士相手じゃそりゃ打ち負けるだろ。て言うか、
ぶん、と竜騎士の剣が空を切る。
次の瞬間、竜騎士の剣に赤と青の魔力が宿った。
炎と冷気の魔力だ。
その威容に、
「ま、まさか……混合魔力!? 世界でもほとんど例がないのに……!!!」
しかし
(混合魔力、別に普通だけどな。俺も勇者時代は全属性の魔力を使えてたし)
悠然とした足取りで竜騎士が迫る。
対する
ナスターシャがシミュレートするよりも、迷宮の階層は遥かに深かった。それに比例するように迷宮のボスも強くなり、
「う、あ、うあああ……」
竜騎士が剣を振り下ろす。
そのタイミングで
「〝魔弾〟」
バチュン!
そして竜騎士の剣は空を切る。
「へぐっ!?」
しかし同時に、突然の痛みに悶える。
まさか姿を隠した
竜騎士が
その度に
「〝魔弾〟」
「ぐわぁああ!」
「〝魔弾〟」
「いてぇええ!」
「〝魔弾〟」
「あああああああああああ!」
竜騎士の乱撃を
その姿は、操り人形のようなトリッキーな動きであった。
「な、なんだよ、これぇ? 誰か、助けてくれ、助けてくれえ!」
なぜか敵の攻撃をかわせていることは理解できる。
が、自分の身に何が起こっているのか、まるで理解できない。
人助けをするのは、とても気持ちがいい。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
もちろん
単に新宿ダンジョンの最奥に行きたいという好奇心に突き動かされただけだ。
ナスターシャは
「ほう、ダンジョンの最奥は巨大な洞窟空間になっているのか。さぞかし巨大なボスがいるんだろうなあ」
次第に落下地点が見えてくると、激しい戦闘の音が聞こえてきた。
「ずいぶんと激しいじゃないか。攻略組かな?」
最下層まではまだ距離があり、はっきりとは見えない。
分かるのは、ダンジョンの主と誰かが戦っているらしい、ということだけだ。
「見えないな。仕方ない」
ナスターシャは胸元から双眼鏡を取り出した。
ナスターシャのバニー衣装は、ダンジョン探索に特化した魔導具だ。身体機能の向上はもちろん、様々なアイテムを胸の谷間に収納することができるのだ。
ナスターシャは双眼鏡ごしに、地上の様子を見た。
そして驚愕した。
落下した
それどころか、ダンジョンの主と戦闘までしている。
「す、すごいぞ! 彼、敵の攻撃を空中でかわしてる……のか? まるで踊ってるみたいだ! って言うか、何で生きてるんだ?」
ナスターシャは興奮を覚えた。
「分からない」という未知の状況こそが、ダンジョン研究の醍醐味なのだ。
「ひひ、うひひひひひひっ! ダンジョンって、本当に面白いねえ!!!!」
ナスターシャは〝綿毛の傘〟をすぼめ、ダンジョンの底に加速していった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「誰か、来るな」
「あの教授……本当にバニーの衣装でダンジョン攻略してるのか。えっちだな」
しかし直後、危機感を感じた。
他の探索者ならいざ知らず、ナスターシャはダンジョンの研究者だ。
この状況を続けていたら
面倒なことになる予感がする。
(もっと遊んでいたかったが、終わりにするか)
「〝魔弾〟」
「うばばばっ!」
「〝魔弾〟!」
「グポッ!!!」
「〝浮遊〟!」
そしてへし折られた
体勢としては、
そして
「〝魔弾〟!」
同時にナスターシャ教授が最下層に降り立つ。
しかし時すでに遅かった。
「
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