13 閉鎖型ダンジョン
ごつごつとした岩肌。
ぴちょり、ぴちょりとどこかから水滴が垂れる音。
息をするだけで肺病にかかりそうな、
小型の魔物が「コココココ」とせわしなく洞窟の中を走り回る音。聞いてるだけで不快になる。
ここではない別の世界で、幾度となく過ごした場所。
「ダンジョン……か」
「面接時間が来てる!? うおお……終わった……」
どうやら
「ついてねえ……」
国内では既に、数多くのダンジョンが発生している。
それでも
それくらい
「はは、まさかこんなタイミングでダンジョンに入れるとはなあ……。まあ嘆いててもしゃーない。何とかダンジョンから抜け出そう。事情を話せば面接もさせてくれるだろ」
すると、急にスマホの画面が真っ暗になり、動かなくなった。
「げ……。そう言えばニュースでやってたな」
ダンジョンに電子機器を持ち込むと、数時間としないうちに壊れるのだ。
原因は不明だが、ダンジョン内に漂う魔力か何かが電子機器を急激に劣化させてしまうらしい。
「最悪すぎる。スマホを買う金なんてないのに……」
ある意味で
金欠の
「今月は、スマホなしで生活かもなあ。借金してまで買いたくないし」
と、遠くから人の叫び声が聞こえてきた。
「何だ……?」
人間の声を模倣するタイプの魔物もいるかもしれない。
声に惹かれて進むうちに食われていた……なんてことは、元勇者としては避けたいところだ。
だんだん暗闇にも目が慣れてきた。
すると、叫び声の内容がよりはっきり聞こえてきた。
「誰かいるかあああ! こっちに人が集まってる! 攻略パーティを編成するから、聞こえてるなら、こっちに来てくれえええ!」
ダンジョン化現象に巻き込まれた、他の人たちが集まっているらしい。
さすがは都会だ。
列車の中にもあれだけ人がいたし、剣や魔導具を装備していた人もいた。
とりあえず人々と合流すれば、ダンジョンから抜け出すこともできるだろう。
「おおい! ここです! 今行きますよ!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ダンジョンの上層では、数十人ほど集まっていた。
上層の広場は闘技場――コロシアムのような形になっていて、運動会でも開催できそうなほどの広さがあった。
明かりを灯す魔法を使える人がいたのか、広場は人の顔が判別できるほどには明るくなっていた。
人々は円形の広場の外周に沿うように、何となく座り込んでいた。
すると、広場の真ん中にスーツ姿で特大剣を持った男がやってきた。
ジャケットは既にぼろぼろになり、裂けた布地から
既に何度かモンスターと戦闘をしていたらしい。
「今から、経験者たちで周辺を調査した結果を説明します。別にリーダーを気取るつもりはありませんが、何となく流れでここに立っています。不服な人は、俺の話は無視してくれてかまいません。
時間もないので、結論から。このダンジョンは恐らく『閉鎖型ダンジョン』になっています」
広場からどよめく声があがった。
「閉鎖型? 何それ?」
「出口がないダンジョンってことでしょ」
「てことは、助けが来ないってこと?」
「ダンジョンのボスを全員殺せってことかよ。無理じゃね?」
広場のどよめきが収まるのを見計らい、男が続けた。
「皆さんもご存じかと思いますが、ダンジョン化現象は全てのボスを殺すことで終息します。つまり我々の脱出条件は、このダンジョンをクリアすることになります」
「待ってくれ! 本当に出口はないのか? 昼までに会社に戻らなきゃならないんだが」
と質問が会場の中から出てくる。
「可能性はゼロではありません。しかし攻略メンバーの中に、〝
それが答えだった。
このダンジョンに出口は、ない。
「マッパーがいたか……」
「てことは、出口はマジでないかもな」
「だったら攻略するしかねえか。まあせっかくだし、ドロップアイテムで一稼ぎしていくか」
「俺、武器の
「私、行きます!」
会場のどよめきが再び起こり、収集がつかなくなる。
中には勇み足でダンジョンに向かう者も現れた。
説明していたサラリーマンの男は、強引に話を締めくくった。
「では我々もダンジョン攻略に戻ります。ここにいる皆さんも、パーティを組みながら攻略をするなり、誰かがダンジョンをクリアするのを待っているなりしてください。
もっとも――こんな機会は滅多にないので、そんな人はいないと思いますがね」
(ここにいるんだよなあ……)
本当に、大ダンジョン時代が到来しているんだなあ。と。
そして人々の熱狂する様子を見て、少し怖くなった。
この人たちはまだ、ダンジョンの恐ろしさを知らないのだ。
そんな浮ついた様子では、間違いなく死んでしまうだろう。
異世界で、何度も冒険者が死ぬのを見てきた。
彼らの多くは、金に目が眩んでいた。
広場から人の気配がなくなり、最終的には五名ほどの人間が残った。
「なあ……そこのあんた。俺らも行かないか? とりあえず皆で、魔力量計ろうぜ。あと得意な魔法とか、魔力属性も教えてくれよ」
作業員風の男が
話しぶりから察するに、あまり魔力量は高くないのだろう。
もっとも、
「期待させると悪いから、先に言っておきますよ。俺、魔力ゼロなんです。すいませんが、ダンジョンじゃ何の役にも立たないですよ」
「え、ええ……本気で言ってるのか? ゼロってあり得ないだろ。俺、テスター持ってるけど計っていいか? アマゾンで買ったやつだから、精度は微妙だけど」
「もちろんです」
男はテスターを起動し、
テスターの結果を見ると、男の顔は驚きと落胆に染まった。
「ね? 言ったでしょう」
「ああ……すまないが、俺たちだけでダンジョン攻略するわ」
そうして
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