25 謎のおっさん
『
先日の新宿ダンジョン事件以来、忙しい日が続いている。
今日も講義の合間を縫って、ダンジョン攻略とメディア対応に追われていた。
実に忙しい。そしてこの後はバイトが入っている。もっとも、少し特殊なバイトだが。……いずれメディアにも紹介されることになると思うから、皆気長に待っていてくれ』
「今から店長と打ち合わせをする。休憩室から出ていけ」
国道沿いのホームセンター、クラフトマンの休憩室。
今日も
ダンジョンであれだけ酷い目に遭ったのに、何一つ懲りていないようだ。
それはそれで才能があるな、と
「打ち合わせをするなら、会議室を使えばいいだろ。俺は休憩中だ」
「会議室はとある資材でいっぱいで使えないんだよ。だからお前が出ていけ」
「資材って何だよ」
「魔力ゼロのお前には関係ないだろうが、教えてやるよ」
「ダンジョンの
「何でうちの店にそんなものがあるんだ」
「使うからに決まってるだろうが。ダンジョン不況の煽りを受けてクラフトマンは閉店するが、新たにダンジョン探索事業に乗り出すことになった。アイテムはその時に使うんだよ」
「そんな話を何でお前が知ってるんだ?」
「俺はダンジョン事業のアドバイザーとして任命されることになった。全て俺が取り仕切っている。俺はもはや、お前と同じ立場ではない! 本部の人間だぞ。
「そうか……」
「何だそのリアクションは。驚いて言葉もないようだな?」
「ああ、言葉もないよ。さすがは新宿ダンジョンのボスを倒すだけの実力者だ。俺には一生敵いそうもない」
「……っ!」
新宿ダンジョンでの恐怖がフラッシュバックしているのかもしれない。
「だ……だったら俺の命令に従え。休憩室を出ていけ。魔力ゼロのザコが」
その事実が
「命令に従う。ちょうど休憩も終わる時間だ。出て行くよ」
「分かれば良いんだよ、分かれば」
〝解除〟
直後、
ドアを閉めた直後。
休憩室から「ひぃいっ!」という情けない叫び声が聞こえてきた。
素知らぬ顔で
チョロロロロ……という水漏れのような音は、聞こえないふりをしてやった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「でもまさか、魔力を解放しただけで漏らすとはなあ。たまげたなあ……」
気分を切り替えて、バイト明け。
「さあ探索探索……っと、その前に。〝封印〟! 〝隠蔽〟!」
まずはゴブリンが内側から出てこないように〝封印〟。
そして何も知らない一般人が外側からマンホールを開けないように、存在を〝隠蔽〟したのだ。
これでダンジョンへの入口を知る者は
またゴブリンが外に出てきたら、大変なことになってしまう。陰ながら善行を積み、
「ギャァアアアッ!!」
ゴブリンはまたも
ドロップアイテムがその都度出現するが、拾う気にはなれなかった。ゴブリンは無限に湧いてくるし、バックパックの容量も無限ではない。
ダンジョンを探索して、分かったことが一つある。
ダンジョンにいる魔物は〝レイルグラント〟で遭遇した魔物にそっくりだ。
が、完全に同じものではなかった。
「……魔力で作られた、コピーっぽいんだよなあ」
レイルグラントでは殺した魔物の死体が消えることはない。
倒したモンスターからアイテムや魔石が出てくることもない。
そして殲滅したゴブリン達は翌日には復活していた。
まるで、リロードしたら敵が復活するゲームのようでもあった。
「とてつもなく強力な魔法使いか、神に近い存在の仕業なのかもしれないな。でも一体、どこの誰が……?」
考えたところで答えが出るはずがないのだ。
「それよりも、探索に集中するか」
ゴブリンの巣穴を抜けて、ダンジョン本体へと向かう。
ダンジョンの中はかなり広く、高さ百メートルほどの空間が広がっていた。
中は神殿の石柱が無数に立っていて、所々に篝火が設置されていた。
さながら「邪心を祀る神殿」とでもいったところか。
篝火の付近には獣の頭骨を被ったオークが歩き回っていた。
第一階層から、かなりのレベルの敵が配置されているようだ。
その時だった。
「丸腰でいくとか、死ぬつもりか?」
と、石像の一つが
「誰だ!?」
「静かに! 俺は人間だ。
と石像は返事をする。
「お前もレベルは足りないけどダンジョンで金儲けしようってクチだな。……政府に見つかっていない、この野良ダンジョンで」
見るからに、怪しい男だった。
「なあ兄ちゃん。ちょっと交渉しないか?」
「交渉?」
「そうだ。交渉だ。見たところ兄ちゃん、探索者証を持っていないようだな。……実は俺も似たようなもんでな」
男が
「悪いようにはしない。どうだ?」
最悪、戦闘になったとしても負ける気はしない。
「いいだろう。とりあえずは話だけでも聞こうか」
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