20 チュートリアルはラスボスで
新宿ダンジョンの最終階層。
巨大な洞窟の中で二体の
〝闇底の複眼竜、ウドゥール〟
〝盲目の竜騎士、リガンディヌス〟
対峙するは、格安スーツをまとった青年。
「せっかく今日のために新調したのに……もうボロボロになってしまった……」
元々新宿には、採用面接のために来た。
しかし何の因果かダンジョン化現象に巻き込まれ、ダンジョンボスと戦うことになってしまった。スーツはダンジョン攻略に適した服装とは言い難い。
「仕方ない……さっさと終わらせるか」
勇者時代の記憶と今の魔力量を天秤に計り、既に答えは出ていた。
「俺の相手じゃないな」と。
二体のボスもまた、臨戦態勢に入ってはいなかった。
ダンジョンの上から降ってきた
もちろん敵が動くのを待つ
「いよっ……と。こんな感じかな?」
拳に暗き力が満ちる。
高密度に圧縮された魔力が解き放たれる。しかし、二体のボスは無傷のままだった。
「うーむ。さすがにワンパンは無理だったか」
だがその代わり、洞窟の壁が消し飛んでいた。
もしも狙いが正確だったら、二体のボスは一瞬で消滅していただろう。
「ちゃんと狙わないとな」
今の一撃で、二体が同時に
「よし、今度こそ」
――どぱっ!
〝闇底の複眼竜、ウドゥール〟にはその攻撃が見えていた。
見えていたのに、回避も迎撃もできなかった。
巨大な魔力の塊。
通常のモンスターには持ち得ない、闇に染まりし力。
嵐のように、ただ荒れ狂う暴力。
蹂躙する邪悪。
それが、
『ギギュァアアアアアアア……!!!』
断末魔の叫びとともに闇底の複眼竜は絶命した。
その様子を見た
あまりにも強すぎる己の力に。
「……や、やばいな。闇の魔力。マジ何なんだよこれ。ちゃんと練習しないといつか人を殺すぞ」
ちょっと本気を出すだけでダンジョン丸ごと吹き飛ばしかねない。
あまりにも危険すぎる。
これは魔力制御の練習が必要だ。
「どこかに練習相手はいないかな……あ。ちょうどいいところに」
〝盲目の竜騎士、リガンディヌス〟が第二形態に移行しようとしていた。
元々、二体は一組の
たが竜を倒した後、盲目の竜騎兵は竜の目をくり抜き、自らの額に竜の目を移植するのだ。
いわゆる第二形態である。
盲目の竜騎士は視力を取り戻し、さらには複眼竜の力を手に入れる。
第二形態の名は確か、〝邪眼の竜騎士、リガンディヌス〟だった。
かつて勇者だった時は、十人以上の手練れの戦士達と攻略をしたのだった。
敵はそれほどまでに強い。
「まあでも、これ位強くなってもらわないとな。練習にならないし」
そうして
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「おっかしいなあ……もう少し奥か?」
勇者時代に使っていた魔法は、呪文を詠唱することで狙い通りの効果が発動する。
しかし闇の力は、
闇の魔力はただ〝純粋な力〟として
「ううむ、こうも扱いづらいと困るなあ」
とは言え、莫大な量の魔力があるのは確かだった。
「殴る」「身を守る」などの極端にシンプルな動きをすると、その体の延長上に魔力が乗ってくる。
それ故
魔力を扱う技術はないが、それを補って余りある魔力量で弾き返しているのだ。
その状況は、まるで少年マンガの「気」だとか「呪力」のようでもあった。
「ただ殴るだけってのも芸がない……もっと細かいコントロールをしたいんだよなあ」
こうしている今も、
うっかり少しでも本気を出してしまったら、相手は消し炭になってしまうからだ。
魔法の師、ルストールとの会話だ。
『原初魔法には名前がなかった。先人が名前を付けたことで、その魔力は形を得たのだ。故に勇者よ。魔法を詠唱する時は、先人への敬意を忘れぬことじゃ』
「そういえば師匠、言ってたなあ」
魔法の詠唱とは、魔力という〝形のない力に〟形を与える行為だ。
魔法の発動には、その二つの要素が必要なのだ。
「だったら……こんな感じか?」
竜騎士が特大剣に灼熱の魔力を付与させ、振り下ろしてくる。
タイミングを見計らい、
「〝
ズアッ!
と異様な音とともに、魔力の壁が展開された。
四方八方に魔力の奔流が溢れる。
明らかにオーバーキルな防御魔法だった。
竜騎士の攻撃は弾き返され、ダンジョンの遥か反対方向に飛ばされていく。
「〝
魔力が下半身に集中する。
地面を蹴った次の瞬間には、
「なるほど……だいたい分かったぞ。魔力の色は違っても、基本的なところは同じみたいだ。――
とは言え、
それは、出来るだけ渋めの日本語にすることだ。
他の探索者とは違い、
万が一、技名を叫んでいるところを誰かに見られでもしたら、軽く死ねるからだ。
格好いい魔法の詠唱は、異世界だけに留めておこう。
と、
その後も
魔力の塊を弾き出す〝
鋭い魔力の刃を飛ばす〝
敵の動きを一時的に封じる〝
その他にも
「うーん。……どっちかつうと、魔法というよりは、魔技? 魔操術? みたいな感じかなあ、名付けるなら。まあいいか。他の探索者に見られる前に、ボスを倒してしまうか」
竜騎士が奇妙な動きをした。
倒される寸前だと言うのに、なぜか上を見上げたのだ。
「……何だ?」
すると、
「うあああああああああああ!」
男の叫び声がダンジョンに響く。
「……ん? 何か見たことあるような。〝凝視〟」
泣き叫び、涙と
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