40 閃光
ドブ板ダンジョンの最下層、水を抜かれた湖の底。
その名のとおり炎の刻印が刻まれた、炎属性の
装備方法は簡単。
ボクシング選手のバンテージのように、腕に巻きつけるだけ。
使い方はもっと簡単だ。
シンプルに殴るだけ。
――ズォオオッ!
と、幽体化した岩底ナマズが空中を泳ぎ、結香に突進してくる。
「まずはアイテム単体の威力を試すとよう――〝静寂〟」
「そいっ!」
ズパァアアアアッ!!!
眩い閃光と炎がダンジョンを照らし、残響音はダンジョンの上層まで響いていった。
が、炎と爆音で怯みはしたが、敵へのダメージはほとんどないようだ。
「
〝解除〟
そう唱えたとたん、
「
幽体化した岩底ナマズが体を翻し、結香に向かって突進してくる。
「〝絶壁〟!」
そして詠唱と同時に拳をアッパーのように突き上げる。
岩底ナマズは魔力の濁流に飲まれ、遙か遠くに飛ばされていった。
「おっと、危うく殺してしまうところだった。まだまだ試したいことがあるからな」
岩底ナマズと
「こわ…………」
と
少しギャルめいた女子高生の、素のリアクションだ。
「そう言えば、本当に俺が倒していいのか?」
パーティーでモンスターを倒した時、経験値は戦闘の貢献度によって分配される。
それゆえ「パワーレベリング」と言えど、多少は戦闘に参加しなければ経験値を得ることができない。
今日は結香のレベル上げのために来ているのだ。
「構いません。と言うか戦闘に加わってはいるので、多少は経験値が入ると思います。お気遣い、ありがとうございます」
「ちょ……ちょっと良いか」
「何ですか?」
「普通に話してくれないか?」
すると、結香は顔に恐怖と畏れの感情を滲ませた。
唇を震わせながら、
「ふ、普通……に? え、怖い。普通って何ですか」
結香は恐怖のあまり、普通の基準さえも忘れているらしい。
「とにかく普通にだ。『従業員』とか言われるのも嫌だけど、距離を置かれすぎるのもキツいぞ。何でそうなる?」
「でも何か怖いし、強すぎて逆に不気味っていうか……人間超えて魔王みたい」
「言い方ってもんがあるだろ……」
「ひぃいい! すみませんすみませんすみません!!」
両極端すぎる。
やはり〝闇の魔力〟の影響だろう。
普通の人間は魔力を解放した
〝静寂〟
「じゃあ、これでどうかな?」
「あれ? 平気に、なった? ただの人間に戻った感じがする。ていうか……
しかし
「その話は、後にしよう」
「え、どうして――」
時間切れだった。
岩底ナマズが再び二人の前に躍り出てきたのだ。
「
――シュボッ!!!!!
二つの力は拮抗し、反発し、やがて
「少し本気を出すか」
まず、何年も使い込んだかのように手に馴染む。
何より、炎の調整も自在だ。
どうやらこの武器には、他の魔力を炎属性に変換する
「闇と炎の混合魔力、か。これはこれで、良いものだ」
一瞬のうちに岩底ナマズの方に接近し、拳を構える。
そして
その技の名は――
「〝閃光〟!」
ごく狭い範囲だったが、火力は恐ろしく強かった。
岩底ナマズは、一瞬のうちに蒸発して消滅した。
「〝幽体化〟している敵も燃やせるのか。いいぞ、上出来だ。これなら堂々とダンジョンで戦闘ができるな」
〝閃光〟なら、いつぞやのようにダンジョンに風穴を開けることもない。これなら他の探索者に見られても問題ない。
事情を知らない人間には
――ゴゴゴゴゴ…………
と、地鳴りがダンジョンに響き渡っだ。
「ダンジョンの崩壊が始まるな」
探索者が手に入れたアイテムは「こちら側」に残り、それ以外は魔力の霧となって消滅する。
中に残された探索者は自動的に地上に転送されていく。
「取りあえずは地上に戻れるな……って、大丈夫か??」
「あ、ああ……たた、立てません」
結香はダンジョンのクリアを喜べるような状態にはなかった。
しかも股の間からは、生暖かいものが漏れていた。
目のやり場と、声のかけかたに悩むパターンだ。
(ていうかこの関係、ここからどうやって立て直せばいいんだ?)
消滅するダンジョンの中、
やはり
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