31 黒き嵐
ダンジョン内に解き放った〝闇人形〟は、あらゆる情報を
ダンジョン内の隠し部屋、モンスターの配置、ボスの数。
そしてダンジョンにいる人間の会話。
「本当に……嫌になるな。知りたくもなかった。あんまりだ」
〝闇人形〟を通して
大泉は、建設会社の社長だった。
ダンジョン不況で会社が傾き、借金に借金を重ねた。
闇金に手を出した。
出さざるを得なかった。
大泉はダンジョンで稼ぐ決意をした。
返済の目処が立った矢先に、千葉という邪悪に目をつけられた。
そして今、大泉はボロボロになっていた。
最悪な気分だ。
「こんなひどいこと、魔王だってしないだろ。……しかも俺のアイテム盗みやがって。お前らはここで潰す」
「ガキが、イキがってんじゃねえ! おい、成田! あいつを殺せ!」
「え……でも」
「うるせえ! 殺しちまえばこっちのもんだ! 金金金! 金が手に入るんだぞ! やれよ! 殺したら一千万くらいはくれてやるよ!」
「は……はいっ! 殺します! 俺、殺します! うおおおお!!!!」
命令を受けた成田が、盾とメイスを装備して突撃してくる。
「真面目な人が、まっとうな人が……普通に生きていけないっておかしくないか。そいや俺も、けっこうひどい目に遭ってたな……別にいいけど」
「死ねぇええッッ!」
「〝魔弾〟」
ビッ!
重く鋭い音がして、成田が持っていたメイスが飛ばされた。
「死ねええええあ!!!! ああ? あれ?」
成田が自らの手元を確かめる。
遅い。
メイスは既に、遥か後方の壁にめり込んでいる。
「〝魔弾〟」
鼻っ柱に直撃。
成田は激痛にうずくまる。
「うあああああ! うああああ! いてええええ!」
「痛いのか? それは残念だったな」
成田の痛みなど、
少なくとも
「ぎゃぁッ! いてええええ!」
超高速で撃ち出される魔力の塊を、成田は認識すらできずにいた。何が何だか分からぬまま、全身を貫く痛みに襲われているのだ。
ゆらりと
「ひっ……何なんだ、こいつ……!!」
「何してんだ、成田ぁ! 早く殺れよ!!!」
千葉が叫ぶ。
「で、でも千葉さん」
「あーうるせえよ! 言い訳はもう聞き飽きた! 最後まで使えねえ奴だなぁ!!!!」
千葉が〝邪竜の爪〟を発動させ、竜を召喚した。
「もうめんどくせえ! まとめて焼き殺せ!」
虚空から竜が現れ、口から高温の炎を吐き出す。
「ち、千葉さ――ギャッ!」
成田は一瞬にして灰になった。
邪竜の炎の範囲は広く、
「〝絶壁〟」
唱えた直後、魔力の壁が展開された。
高温に晒された石畳は赤熱し、〝牢獄墓所〟は赤く染まる。
プスプスと黒い煙が巻き上がる。
煙の向こう側に
大泉は腰を抜かし、唖然としていた。
「なん……だと!? あの炎が効かない!? 馬鹿な、そんなはずなない! もう一度やれ!」
千葉が再び邪竜をけしかける。
「〝薄刃〟」
ぼとり、と千葉の足元に巨大な塊が落ちた。
邪竜の頭部だった。
召喚された邪竜は、魔力の霧となって消えていった。
「うああああ! な、何だ、てめえは……! 邪竜召喚!」
異界の竜が再び現れる。
しかし即座に
「な、な……うああああ! 〝燃えろ、爆ぜろ、燃え尽きろ!〟」
青ざめた顔で、千葉が魔法を詠唱する。
ごく初歩的な火炎魔法だった。
――シュボッ
炎は
肉眼では見えないが、
千葉の炎は、吹き荒れる魔力にかき消されてしまったのだ。
「う、嘘だろっ! 俺の魔法が……! お前、何なんだよ!?」
「だから、言っただろ。通りすがりのフリーターだ」
「ゴベッ」
千葉の体が十メートルほど吹き飛ばされた。
「ふむ。自分の体に近いほど魔力は強くなるのか。加減が難しいな」
「ぐはっ! 何なんだ! 何なんだよこれ!」
千葉は混乱し、逃げようとする。
目の前には既に、
千葉は恐怖で顔を歪ませ、
「……な、なあ。あんた。強いな。金ならある。俺と組まな……ブバッ!」
「いちいち殴らせないでくれ。暴力は好きじゃない」
「グアーッ! じゃ、じゃあ何が目的だ!」
「〝呪縛〟」
魔力で編まれた黒い紐が、千葉の首に巻きついた。
「げほっ! な、なんだ!? 苦しい……!」
「心配するな。ただの呪いだ。
具体的には、俺の命令に従わなければ死ぬ呪いだ。
これ以降の俺の呼びかけには全て『はい』と答えろ。それ以外の言動をしたら死ぬぞ。分かったか」
「はい」
「まず、お前が俺から盗んだアイテムを全て換金しろ。ダンジョン管理機構を通して、合法的な金にしろ」
「はい」
「その金は、全てそこにいる大泉さんに渡せ。借金は全部チャラにしろ」
「は!? は、はい……」
「俺の存在は誰にも言うな。今日のことも誰にも言うな」
「はい」
「分かったら消え失せろ。今すぐにだ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
〝牢獄墓所〟は、再び静寂に包まれる。
何もかもが焼き尽くされ、
「あ……あ、あ……」
大泉は恐怖で動けずにいた。
対する
〝闇の魔力〟を見られてしまった。
力を使いすぎてしまった。
もはや大泉と取引をし続けることは、できないだろう。
だが、これで良いとも思った。
この世から一つ、理不尽な暴力を排除できた。
それだけで十分だった。
「と、
声を震わせながら、大泉が引き止める。
「俺のことは、誰にも言わないでくれ」
大泉の
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【筆者より】
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