第25話

画面を見ると電話の相手は良治だった。


「あ!良治さん、

先日はありがとうございました」

そして電話の内容を聞いた戸田は

サキに電話の内容を伝える。


「サキさん、

良治さんからの電話だったのですが


サキさんにどうしても会いたいと言う

佐藤新一朗と言う人が居るとの事で

サキさんに、その事を伝えて頂けませんか。


と、隣町の役場から良治さんに

伝言が有ったそうです」


「佐藤新一朗と言う人が、

私に会いたいと言われて居るのですね……

はい。では、その人に連絡をしてみます」


(えっ!今、酷い目に遭ったばかりなのに

普通の者なら、もう知らない人と会うのは

コリゴリだと思いそうなものだが……


サキさんは人を疑うと言う

事を知らないのか?……

ま、それがサキさんの素敵な所だが……)


「サキさん、これは濱中の罠かもしれません。

会いに行くのは辞めた方が

良いのではありませんか?」

戸田は警告するが


「もし本当に、その方が

私と会う事を願っていたらと思うと

気になります。


連絡を取って会いに行っては

いけないでしょうか」

悲しそうに言うサキに戸田は暫く考えて


「では、サキさん……

その前に確認をしてみましょう」

サキの対応に驚きながらも

戸田は役場へ確認の電話を入れる。


 役場の者によると、サキさんの写っている

広報を見た元町長の佐藤新一朗氏が


サキさんに会いたいので

連絡が取れないだろうか。

と、役場に電話が有り


一平さんにお願いをして、

この事をサキさんに

伝えてもらえないかと

連絡を取ったとの事だった。


しかし戸田は、今度こそ

サキを辛い目に合わせる訳には

行かないと思っている。


「う~ん……そうですね…………

濱中しては動きが少し早すぎるような

気もしますので多分大丈夫だとは思いますが


サキさん、念のために私たちも

一緒に行きましょう」


「戸田さんにご迷惑をおかけする訳には

行かないと思うのですが………」

サキは本当に申し訳の無いと

言うような顔をしている。


「いえいえ!サキさんを

こんな事に巻き込んでしまったのは私なので

サキさんの心配される事ではありません。

私に任せて頂けませんか」


「……はい。

それではよろしくお願いいたします」


どちらにしても誰かの手を借りなければ

佐藤新一朗と言う人の所へ

行く事が出来ないサキは

暫く考え戸田の厚意に甘え、深く頭を下げた。


 戸田は役場から聞いた電話番号をもとに

新一朗にサキさんを連れていく事を

電話して住所を聞くと


「サキさん、ちょっと待って居て下さいね」

そう言うと戸田は高嶋と谷村を連れ

倉庫へ向かう。


 戸田は直ぐに3人で

大きなワンボックスカーに乗り現れ

サキと共に、

その佐藤と言う人物の居る所へと向かうが


「サキさん、もうお昼ですので

昼食を済ませましょう」

戸田はそう言うと高嶋に料亭へ向かわせた。

 

 食事を済ませ暫く走り

佐藤新一朗と言う人物の住んでいると言う

大きな古民家の近くに着くと


高嶋はサーマルスコープで

佐藤と言う人物の家に

佐藤新一朗以外に不審者がいないか捜索する。


「家の中には人が一人しかいないです。

刃物や銃などの凶器も持っていませんし

周りにも人影はないです。


そして、

これが佐藤新一朗と言う人物の顔写真です」


高嶋は、確かに家の中に

一人しか人が居ない事を確認すると

スマホの写真を戸田のスマホに転送した。


「よし、解かった。

何か変な動きが有れば連絡を入れてくれ」

戸田は高嶋に念を押すと


「サキさん、

家の中には佐藤新一朗と言う人物が

一人しかいないようですので

大丈夫とは思いますが


安全の為に私もサキさんと一緒に行きます。

私の後に付いて来てください」


そう言うと戸田はサキを連れて

用心をしながら佐藤の家に向かう。


 そして戸田はインターホンを鳴らす。


「はい。佐藤ですが」


「先ほど電話を致しました戸田と申します。

サキさんをお連れしました」


「戸田様、

こんな所までお呼びたて致しまして

誠に申し訳の無い事でございます。

少々お待ちください」

 

 暫くすると

玄関の扉を開けて佐藤新一朗らしき人物が

顔を出して二人を出迎えてくれた。


「どうぞ中へお入りください」

新一朗は笑顔で深く頭を下げて二人を迎える。


(写真と同じ人物だ……

佐藤新一朗と言う事で間違いない)


しかし濱中に買収されていると言う事も

可能性として考えられるので

戸田は油断していない。


「遠い所を私の為にありがとうございます。

此処で立ち話と言う訳にもいきませんので、

どうぞお上がりください」


新一朗は応接室に

二人を誘い椅子に座る様に言うと


「初めまして。私は佐藤新一朗と申します」

笑顔で言う新一朗に


「こちらこそ初めまして戸田 昇と申します。

そしてこちらがサキさんです」


「初めましてサキと申します」

サキも笑顔で挨拶をした。


「これを拝見させて頂きました」

新一朗は広報で

サキの写っているページを開くと

サキに笑顔で手渡す。


「あ!これは私が出ている広報ですね」

サキは嬉しそうに瞳を輝かせた。


「はい。私の友人のお孫さんが

仮装イベントに出たと言って

その広報を持って来てくれたのですが


見てみると仮装イベントを見に来ていて

特別賞を貰ったと言う

若い女性の写真が出ていました。


その写真を見て

是非とも貴女に会ってみたいと思いまして

役場へ連絡をさせて頂きました。


生きている間に

会える事が出来て嬉しく思います」

新一朗は心から嬉しそうに言う。


「生きている間に

サキさんに会いたいとの事ですが

何処か体調でも

崩されていらっしゃるのですか?」

戸田は新一朗の身を心配している。


「いえ今の所、身体は何ともないのですが

年老いてしまい、もうそんなに

長くは生きていく事が出来ないと思うのです」

新一朗は静かに、そして悲しそうに言う。


「そうでしたのね………」

サキは新一朗の手を取り優しく声を掛けた。


「サキさん、お願いがあるのですが、

よろしいでしょうか……」


「はい。何でしょう?」


「その前に戸田様、

サキさんと二人きりでお話がしたいのですが

宜しいでしょうか……」


新一朗は優しく戸田を見つめている。 


    続く

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