第28話

「えっ!?」


「先ほどお話ししましたように、

私の乗って来た整備中だった中型輸送船が

此処から少し離れた地中に在ります。


船が大きくなればワープリングは大きくなりますが

ワープリングについている部品の数が増えるだけで

ワープリングの部品は同じものが使われている筈です。


なので、私が乗って来た輸送船から

ワープリングの部品を取り外して

サキさんが乗って来た連絡船で月へ行き輸送船を修理すれば

サキさんはジブ星に帰る事が出来る可能性が有ります」


「あ!そうですね!

あ!でも、座標が解からないと出ていたのですが、

ワープリングを修理できても

ジブ星に帰る事が出来るのか解からないのですけれど……」


サキは出発地点が入力できないのであれば

帰る事が出来ないのでは?と心配をしている。


「それが1番問題なのですが、

輸送船には航路を記憶する機能が有りますよね」


「あ!はい。ありますね!」

サキは、新一朗の言葉に一筋の希望を見出し

笑顔を見せた。


「私の輸送船は電源が切られていましたので

航路を覚えていないのですが、

サキさんの輸送船は新しいと思います。


出発点が不明でもワープ先が分かれば

ワープする事が出来ると言う

対策がなされているかもしれません。


しかし、整備中でもあり

メーンスイッチも切った状態で暴走していますから

記録されていないと言う事も考えられますが、

予備の回路が有りますよね」


「はい。ありますね」


「しかし予備の回路に記録されている可能性は

かなり低いですが

見てみる事はいい考えだと思います」


「帰ることは出来ないと言う可能性も有る

と言う事なのですよね……」

サキも、その事は何となく想像できる。


「サキさん、

帰る事が出来るかもしれないと言う

可能性に賭けてみますか?


ワープをしても再び見知らぬ場所か

見知らぬ星へ行ってしまい


そこから更にワープして行くと言う

無限ワープの連鎖になると言う

可能性もあります……」

新一朗はサキを見つめサキの決断を見ている。


「………」

サキはどうするのが1番良いのか思案している。


「ま、今日中に結論を出す事は無いと思います。

今夜はゆっくりと休まれてください」

新一朗は今、結論を出すのは大人でも難しいと思う。


(ワープした先で又ワープ……

ジブ星を見つけるまで永遠にワープを

続けなくてはならないかもしれないのよね……)


「おじいさん、私、

とりあえず輸送船の電源を入れてみようと思います……


メーンか予備のどちらかにワープ先が表示されて

帰れそうな感じがしたらワープしてみようと思うのですが、

どうですか?」


「そうですね……

メーンスイッチを入れる前に

暴走の原因となって居るテスト回路と

サブパワーを必ず切り離してくださいね」


「はい。解りました」


「メーンスイッチを入れてワープ先が表示されれば、

まず帰ることは出来ると思います。

でも、ワープ先が表示されなくて不明のままでしたら

ワープは諦めた方が良いと思います。


その時には無理をせずに此処へ戻って来てくださいね」

新一朗は心配そうに言う。


「えっ!?……何だか私一人だけで

ジブ星に帰る様に聞こえますけれど?……

おじいさんも私と一緒にジブ星へ帰るでしょ!?……」

サキは新一朗の言葉に違和感がある。


「いえ、サキさん、私は帰らないです。

もし帰っても父も母も、

そして姉も兄たちも既に亡くなって居ない筈です……


私はこの地球に70年も住んでいます。

友人も沢山出来て楽しく暮らしています。


娘や妻の居たこの地球は、

もうかけがえのない私の故郷(ふるさと)なのです」

新一朗は優しくサキを諭す様に静かに語る。


「そうなのですね……そうですよね……」

サキは新一朗に掛ける言葉が見つからない。


「あ!でも、私が乗って来た連絡船は、

もう既に地球の人に見つけられて

建物の中へ運ばれてしまっています。

どうしましょう……」


サキは部品を外しても

その部品を月まで持って行く手段がない事に気付く。


「えっ!サキさんが乗って来た連絡船は

もう地球人に見つけられてしまったのですか!」


「はい。今日、

私が乗って来た連絡船を建物の中で見ました。

連絡船の操縦桿に付いて居るこのボタンは何だ!

って聞かれました。


濱中と言う人は私が地球人ではないと気が付いたみたいで

私を監禁しようとしたのですが

一緒に居てくれた戸田さんに助けて頂きました」

サキは今までの出来事を思い出し震えている。


「戸田様には本当に感謝しかないですね……


それでは、とりあえず輸送船から部品を取り外して、

その部品を持って建物の中へ入って

連絡船に乗らなくてはならないと言う事なのですね……」

新一朗は考え込む。


「しかし今日はもう遅いですので

連絡船にどうやって乗り込むのかは明日考えましょう」


「はい。解りました」

(よかった!これでジブ星へ帰る事が出来るかもしれないわ)

サキは地球で自分ただ一人だと思っていたのに

強い味方が居てくれたことに安堵した。


(連絡船を取り返すためとは言え

中に居る人たちに危害を加える訳にはいかないし

無事に取り返すのにはどうすればいいの?……)


食事を終え布団に入るが

サキはこれからの事を考えると中々寝付けない。


勿論、新一朗も、どうやって連絡船に乗り込むのが

1番良いのかを思案している。


 そして朝、

朝食を食べながら新一朗は

昨夜考えた作戦をサキに告げる。


「サキさん、結花さんに

急な話で申し訳ないのですが、

戸田様に、お昼ご飯に招待されたので

お昼前にはお店を出ます。


そして戸田様と、お昼ご飯を済ませたら

旅に出ますと伝えて頂けますか……」


「はい。解りました」


「そして、食事を終え

サキさんが帰って来られましたら


私が乗って来た輸送船から

ワープリングの部品を取り外し……」

と、新一朗は考えた段取りを説明する。


「しかしながら、私はもう体力も無いので

サキさんにワープリングの部品を外してもらって


サキさん一人で連絡船のある場所へ

行って頂かなくてはいけないのですが

よろしいでしょうか?」新一朗は心配そうに言う。


「はい。私は大丈夫です」


 そして結花に連絡を取ると結花は驚いていたが

いつかはこんな日が来ると覚悟をしていたのか決心は早く


「今日はそれほど混むとは思えませんので、

こちらは大丈夫よ。旅の準備もあるでしょうから

こちらの事は気にされなくていいわ。


でも、お給料などの支払いもありますから、

旅に出る前に一度顔を出してくださいね」

結花は自分達のキューピットの旅立ちを心から歓迎している。


「はい……」サキは給料を貰う気は無い。

しかし、お別れの言葉は言いたいので逢いたいのだが

そう言う訳には行かないだろうと考えている。


「お店には顔を出さなくて良くなりましたが

戸田さんにはどう話をしましょうか?」


    続く






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