第27話
仕方が無いのでサキは
戸田を家の中に呼び
新一朗にも話に入ってもらう事にした。
「戸田様、
戸田様がサキさんの事を我が子の様に
非常に心配して頂けていらっしゃるのは
本当に良く解かりますし
その事は、
とても素晴らしい事だと思っています。
初めて出会った私を
信用して下さいと言う事が
難しいと言う事は
私も良く理解をしております。
しかし、年老いてしまった私は
そう長くは生きて居られませんので
生きているうちにサキさんに
お願いしたいことが有るのです。
何とか私を
信用して頂けないでしょうか……」
新一朗は落ち着き払っていて
悲しそうに戸田に話しかける。
(人を疑うと言う事を知らない
サキさんは、此処に泊まりたいと
懇願する様に私を見つめているが
此処は本当に安全な場所なのだろうか?……)
戸田は暫く考えるが、新一朗の
その落ち着いた行動や話し方
そして、役場から新一朗が
どう言うどういう人物なのかを聞いていて
新一朗の人間性も大体理解しているし
買収されていると言う事は無い様な気がする。
しかも、盗聴器で濱中が
自分たちの行動を聞いていることを考えると
此処の方が安全かもしれない……
サキさんが此処にいる事は
会社の人間以外誰も知らないし
濱中が此処にサキさんが居ると
気付くまでには、
まだ時間が有るかもしれないと思い
今夜は此処に泊まった方が良いだろうと
判断する。
「はい。解りました。
では佐藤様、サキさんを
よろしくお願いいたします。
サキさん、何かあれば
直ぐに私に連絡を下さい。
明日の朝8時半に私が迎えに来て
結花さんのお店に送りますので
ゆっくりとお話をされて下さいね」
「はい。解りました。
ありがとうございます。おやすみなさい」
サキは明るく言うと手を振り戸田を見送った。
「サキさん、戸田様は素敵な方ですね。
サキさんの事を我が子の様に
心配されていらっしゃいます」
新一朗は嬉しそうだ。
「はい。この地球の人たちは
本当に優しくて素敵な人達ばかりです。
あ!結花さんに今日は帰らないと
連絡を入れておかないといけないです!
電話をお借りしてもいいですか!」
連絡手段を持たないサキは懇願する。
「勿論です」
新一朗は笑顔で当然の様に答えている。
「ありがとうございます」
サキは嬉しそうに言うと
結花に連絡を入れて了解を得た。
「さて、先ほどのお話の続きですけれど
サキさんの、
どうやって私がこの地球に来たのか?
と言う問いに答えなくてはいけませんね……」
サキは新一朗を見つめている。
「私はこの地球に来たのではなく、
来てしまったのです……」
サキを見つめ、新一朗は物静かに話す。
「来てしまった?……」
「来てしまったと言うのは、
私は宇宙船の整備士でして
同僚のサイラム(25)と
ワープが上手く出来ないと言う
中型輸送船の点検をしている時でした。
ワープリングのメーンスイッチや
エンジンのメーンスイッチのオフを確認して
メーンスイッチを入れた途端、
スイッチが切ってあって動かない筈の
ワープリングとエンジンが
作動してしまいました。
直ぐにメーンスイッチを切ったのですが
時すでに遅く
ワープリングの安全の為
ワープリングは止まらなかったのです。
私はサイラムに直ぐに
輸送船から降りる様に言って
私も輸送船から降りようとしたのですが
私が降りようとした時には
もう既に輸送船は建物から離れていました。
私は輸送船から降りる事が出来ず
動き始めた輸送船のドアーを
急いで閉めましたが
気が付けば
この地球に来ていてしまったのです」
新一朗は悲しそうに言う。
「そう言う事だったのですね……」
サキはこのおじいさんも
自分と全く同じ事が起こって
此処に来てしまい
今の自分と同じ気持ちだったろうと思うと
泣きそうになっている。
「輸送船が暴走したためだと思うのですが
位置情報が正確に捉えられておらず
地表ではなく船首を外に向け地中
350メートル程の所へワープしていました。
此処から少し離れた所に有る山の中です。
場所を探索すると土の中に居ると
判りましたので、連絡船で外へ出て
前方を探りながら地表近くまで出て
その発声変換装置3点セットを持ち
サイクル銃でトンネルを掘り地表へ出て、
再びそのサイクル銃で出口を閉じたのです」
新一朗は箱の中に入っている
サイクル銃を指さす。
「この星で修理に必要な部品を手に入れようと
記憶を無くしたふりをして
一生懸命に働きながら
ワープリングの修理の為の部品を探すのですが
残念ながらこの地球では
必要な部品を手に入れる事が
出来ないと判りました。
そしてその後、
私は佐藤平八郎と言う方と出会いましたが
平八郎様には、
お子様がいらっしゃらなかったので
養子縁組をして、私は新一朗と名前を頂き
暖かく迎え入れて頂きました。
そうしている間に、がけ崩れが起きて
地表近くに隠していた
連絡船が見つかってしまい
何処かへ運ばれましたが
取り戻しても、どうなるものではなく
ただ見つめているだけでした。
佐藤家の跡継ぎをと言う事で
私は結婚をして子供を儲けましたが
子供が2歳の時に母親と一緒に
川に流され死亡してしまいました。
私が一緒に居てあげていたら
あんな事にはならなかったと思います。
そんなような事も有り
私はそれからと結婚と言う事は
考えない事にしたのです」
「奥様と、お子様を亡くされたのですか……
それはとても辛い事だったと思います……」
サキはおじいさんの事を考えると
泣きだしそうになっている。
「ありがとうございます。
平八郎さまへの恩もあり
私は地球人として
この地球で生きていく事を決心したのです。
言葉や文字は覚えましたので
その発声変換装置は
必要にならなくなりました。
ところで、サキさんは
どうして地球に来られたのですか?」
「私もおじいさんと同じく、
この地球へ来てしまったのです」
「えっ!来てしまった?」
「はい」
そしてサキは、
父を探して輸送船に乗ってしまった事など
今までの経緯を話した。
「そうだったのですか……
それは大変な事でしたね。
サキさんの今回の事故は残念でしたが
メーンスイッチを触るなと言う
張り紙がしてあったと言う事は
私の事故は無駄ではなかったと言う事で
点検整備中にメーンスイッチを
入れてはいけないと言う
教訓は残されたのですね……」
「はい。私も学校で聞いてはいたのですが
うっかりしていました」
サキも自分のした事に落ち込んでいる。
「サキさん、
そんなに落ち込まなくても
いいかもしれないです。
ジブ星へ帰る事が
出来るかもしれないですよ」
新一朗は優しくサキの肩に手を置いた。
続く
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