第26話

「私が同席していては話せない事なのでしょうか?」

戸田は優しく言うが

二人だけになりたいと言う新一朗を警戒している。


「はい。私の個人的な事なのでサキさん以外の方に

お話を聞かれると言う事は、とても心苦しいのです」

新一朗は懇願する様に言う。


 戸田は事前に役場から元町長だった新一朗が

県や市から予算が取れない時には

私財を投げ打ってでも町の為に尽くすと言う人物だったので

町民の人気は高くて町長を40年も続けていたが


もうそろそろ体力の限界を感じるし

後輩を育てるべきだと

潔く10年前に辞任したと言う事を聞いている。


そのような人物がサキさんに危害を加えるとは思えないし

その落ち着いた話しぶりからは人物をも感じさせる。


何よりも心配な濱中の気配も今の所、何も感じられないし

この様に年老いた老人では

サキさんに危害を加えると言う事など出来ないと思うので

戸田は承諾する事にする。


「はい。解りました。

それでは、私は車の中で待って居ます」

戸田は笑顔で言うと


「サキさん、私は車の中で待って居ますので

お話が終わりましたら声を掛けてくださいね」

サキにも笑顔で言う。


「はい……」

サキも二人だけになる事に

不安はあるが、笑顔で返事をしている。


 戸田は席を外し車に乗り込むと

高嶋達と共に、もしかして濱中が此処を見つけ

どう動くのか判らないし


濱中がサキさんを連れ去る動きなどないか

家の周りを監視している。


 戸田が居なくなったのを確認した新一朗は


「ところでサキさん、突然で誠に申し訳ないのですが、

サキさんが首に付けておられる物は何なのでしょうか?」

新一朗は優しくサキを見つめている。


「あ!これは私のお守りです」

サキは人に聞かれたら

いつも笑顔で、そう答えている。


「それは購入されたものなのですか?

それとも誰かに貰ったものなのでしょうか?」

新一朗は、なおも笑顔で優しく問いかける。


「これは親から貰ったものです」

笑顔のまま、いつものように答えるが


「それを外して私に見せて頂いても良いでしょうか?」

新一朗はサキの反応を見ている。


「……」

外して見せて欲しい。などと言う事など

言われた事の無いサキは返答に困るが


「これは私のお守りなので

肌身離さず着けていたいのです。

御免なさい……」


サキは正体を見破られないようにと

考えて答えている。


 そして、

サキの困っている姿を暫く観察していた新一朗は


「そうなのですね……

サキさん、実は、私もサキさんが持っている

それと同じものを持っているんですよ」

新一朗はサキを見つめながら笑顔で静かに言う。


「えっ!これと同じものをですか!」

サキは思いもよらない言葉に驚くが

新一朗はサキの驚く顔を冷静に見つめている。


「サキさん、あちらにある

あの四角い箱をこちらへ持って来て頂けますか?」


「あの箱ですか?」

サキはジブ星でよく見るキラキラと七色に輝く箱を見るが

まさかジブ星の箱だとは思わず

同じような箱が此処に有るのだと思っている。


「はい。そうです……」


 サキが箱を持って来ると


「箱の蓋を開けて頂けますか……」

新一朗の言葉にサキが箱の蓋を開けると

箱の中にはサキの首に着けている物と同じ発声変換装置と

大きさは少し異なるが似たようなサイクル銃がある。


「あっ!これは!」サキは驚きの顔で新一朗を見る。


 しかしその時、新一朗は

箱の蓋はジブ星人に教えて貰わないと

地球人には絶対に開けることは出来ない筈なのに


簡単に開けてしまったサキに、サキが地球人ではなく

ジブ星人なのだと言う事を確信した。


「サキさんには、これらがどういう物であるのか、

お解かりになりますよね」


「おじいさんはこれを何処で手に入れられたのですか!?」

サキは問いには答えず、なぜこのおじいさんが

発声変換装置とサイクル銃を持っているのか

入手先が気になって仕方がない。


「これは以前私が身に着けていた物です」

新一朗はサキを見つめ笑顔のままだ。


「でも、どうして今は

身に着けていらっしゃらないのですか?」


目の前の男性が自分と同じ

ジブ星から来たのだと確信が持てるまでは

自分もジブ星から来たとは言い出せないでいる。


「もう身に着ける必要がなくなったからです」


「それはどうしてなのでしょうか?」


「サキさん、貴女は賢いお方だ……

自分の正体を誰にも明かさず強く、しかも静かに

この地球で生きて行こうと思っていらっしゃる……」


「えっ!まさか!おじいさんは!」


「はい。70年前の話ですが

私がまだ27歳の時にこの地球に来てしまいました。


友人から届けられた広報誌にサキさんが写っていて

サキさんが首に付けておられる物が

発声変換装置ではないのかと思いました」


「えっ!……」サキは、この老人の口から

発声変換装置の言葉を聞くとは想像もしていなかった。


「そして、それを見た時、サキさんは私と同じ

ジブ星人ではないのかと思ったのです。


しかし、発声変換装置と似たようなものをサキさんが

身に着けていらっしゃるだけなのかもしれないと思い

本当に発声変換装置なのかどうか確認をしたかったのです。


今、目の前で実物を見て

それが発声変換装置だと言う事は間違いないと思うと同時に

サキさんは間違いなく地球の方ではなく

私と同じジブ星の方だと確信しました」


「えっ!そうだったのですね!私もジブ星から来ました……」

そう言ってサキはバッグの中から

サイクル銃を取り出し新一朗に見せた。


「あっ!サイクル銃をお持ちなのですね。

しかし、そのサイクル銃には出力調整や

範囲調整ダイヤルも無ければ消滅再生の

切り替えなどのスイッチが何も無いのですね?」


「はい。

こちらのサイクル銃は全て音声認識となっていて

このボタンと音声で色々な操作を行えるんです」


「ほ~う……これは小さくて軽いので

使い勝手が良さそうです……」

新一朗はサキのサイクル銃を手にして感心している。


「でも、おじいさんは

どうやってこの地球に来られたのですか?」


「話せば長くなります。

サキさんは今夜、此処に泊まって頂く事は出来ますか?」


「はい。大丈夫です」


「それでは戸田様に、サキさんは此処に泊まると言う事を

伝えて頂けますか?」


「はい。では、今日は此処に泊まると言う事を

お話ししてきますね」


 そしてサキは車の中に居る戸田と話をする。

「戸田さん、おじいさんとのお話が長くなりそうなので

今夜は此処に泊めさせて頂く事にしました。

今日は本当に私の為に色々とありがとうございました」


しかし戸田たちは

サキを初対面の男性と二人きりにすると言う事に難色を示す。

 

     続く





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