第29話

「まだ朝早いですから戸田様は家に居らっしゃると思います。

お店には行かなくてもよくなりましたので、

そちらのいい時間に迎えをお願いいたしますと

連絡をされるのが良いと思います。


旅に出ると言うお話は

戸田様との食事の前では食事が重くなりますので

戸田様と楽しく食事を済ませて此処へ帰られた時に

突然なのですが今から旅に出ます。

と伝えるのがいいかもしれないですね」


「そうですね。では、そうしますね」

そう言うとサキは

戸田に貰った名刺あてに連絡を取り了解を得ると


「ではサキさん、連絡船のある場所はお判りになりますか?」

新一朗は、どの辺りに連絡船が有るのかと地図を広げた。


「はい。解ります。この場所に有るこの建物の中です。

此処から駅まで行って、この3つ目の駅から

20分程で行けると思います」


サキは暫く地図を眺めていたが

連絡船の置いてある場所は確認出来て

地図に指を置き新一朗と目を合わせ作戦を練る。


 そしてお昼少し前に戸田がサキを迎えに来た。

「こんにちは。

サキさんを迎えに来ましたが大丈夫でしょうか?」


「あ!戸田様、お迎えありがとうございます。

はい。大丈夫でございます。

昨日は大変お世話になりました。お礼を申し上げます」

新一朗は深く頭を下げ感謝の意を表した。


「いえいえ、こちらこそ失礼を致しました。

お話は済まれましたか?」


「はい。お陰様で心残りなく話す事が出来ました。

これも戸田様のおかげです。ありがとうございました」

新一朗も深く頭を下げる。


「戸田さん、こんにちは」

サキはジブ星へ帰る事が出来るかもしれない

と、思っているので笑顔で嬉しそうだ。


(ん!サキさんに、いつもの笑顔が戻った!

佐藤さんとのお話で落ち着かれたようだ……)


「では参りましょうか」

戸田はサキの笑顔に釣られ笑顔になっている。


「はい。

それと、申し訳ないのですが食事が終わったら

もう一度此処へ送って頂けますか……」


「はい解りました」


「ではおじいさん、行ってきますね」

サキも、これからの先が見えて嬉しそうだ。


「では佐藤様、失礼いたします」


「よろしくお願いいたします」

新一朗は笑顔で手を振り二人を見送っている。


「昨夜は楽しかったのですね。良かったです」


「はい。色々なお話が聞けて良かったです」

サキは本当にウキウキしている。


 レストランの開店祝いには沢山の人たちが来ていて

お店は満員なのだが戸田は予約を入れていたので

サキたちは窓際の素敵な場所に座る事が出来ている。


しかし、店の外でジッとサキを見つめていた人物が

何処かへ連絡をしている。


「所長、あの女の子を見つけました。

戸田さんと一緒に居ます」


「なに!まさかとは思ったが!……

戸田さんに気付かれないようにしながら

ガキが一人になるのを待て!」


濱中は盗聴されているのを知ったサキは

レストランへは来ずに、

既に何処かへ逃げているはずだと思い

逃走経路を調べるも、なかなか見つからず焦っていた。


しかし、ダメ元で配置していた部下の報告に

ニンマリとしている。


 何も知らないサキたちは食事を済ませて帰ろうとすると

店の若い男性がサキを呼び止めた。


サキは首をかしげながらも戸田たちと話を聞くと

「祖母を介抱してくれた方ですよね。

その節はありがとうございました。


本日、偶然あなたを見かけて祖母が、

お礼を言わなければと言いますので

お声がけをさせて頂きました」


そのおばあさんは仮装イベントの前に倒れていて

サキが介抱したおばあさんだった。


「あ!あの時のおばあさんね!」


「あの時は、本当にお世話になりました」

老婆は嬉しそうにサキを見ている。


「いえいえ、何も出来ませんでしたが

お元気そうで良かったです」


「その節は、祖母が本当に、お世話になりました。

此処は私たちの次の店としてオープンしましたが

是非あなた方を此処ではなく、少し遠いのですが

私の本店にて夕食のご招待をさせて頂きたく存います。


急ではありますが、本日夕方のご都合は如何でしょうか?

あ!申し上げるのが遅くなりました。

私は此処のオーナーの森本 道弘(40)と申します」

頭を下げる森本に


「あ!私はサキと言います」

慌てて名前を言うとサキも頭を下げた。


「サキさん、どうされますか?」戸田は聞くが

サキは午後からワープリングの部品を取り外して

今夜にもジブ星へ帰りたい。


しかし、折角の申し出を自分の都合で

断ると言うのも悪い様な気がする。


それに、戸田さん達は

食事を楽しみにしているかもしれない……

ジブ星へ帰るのは明日の夜にしようと考えたサキは


「戸田さん達の都合は如何でしょうか?」


「私たちはサキさんさえよければ大丈夫ですよ」

サキが他の者の顔を見ると全員が行きたい!

と言う顔をしている。


「はい。では私も、どのようなお店で

どのようなお食事が頂けるのか楽しみなので

お言葉に甘えますね」サキが嬉しそうに言うと


「あ!それは良かった!実は祖母が貴女の名前も聞かず

お礼も何もできずにそのまま別れてしまい


それが気がかりでならないと

ずっと落ち込んでいましたので助かります」

森本は本当に嬉しそうに言う。


サキは連絡手段を持たないために

レストランの経営者から夕食を招待されたので

帰りが遅くなると戸田に

その事を新一朗に連絡をしてもらう。


戸田は森本に住所を聞くと、

一度サキを連れ戸田の会社へ帰り

夕方、森本の経営するレストランへ

サキと会社の皆を連れて行く。


 森本の海の見えるレストランは

大賑わいで混雑をしているが

サキたちは特別室へ案内されて

その素敵な部屋と景色に皆大喜びをしている。


 フルコースの食事に

サキたちも大満足で話に花が咲くが

森本によるとこのレストランは 

2か月後に閉店するとの事。


こんなに繁盛しているのにどうして閉店するのかと

疑問に思った戸田が聞くと、


 市から土地を借り入れて営業をしていたのだが

どうしてもこの土地が欲しい地元の有力者が居て

市からも圧力が来ている。裁判をして争っても良いのだが

イメージダウンは避けられないので閉店を決めたとの事だ。


戸田は裁判を起こして裁判に勝ったとしても

イメージダウンになるのであれば

裁判は避ける方が賢明かもしれませんね。

と、森本の選択を支持する。


しかし一昔前の地上げ屋みたいなやり方に

当然社員たちは憤慨しているし

サキもその様な事が有ってもいいのかと悲しんでいる。


 サキが食事を終え森本にお礼を言うと

戸田たちもお礼を言い

戸田がサキを新一朗の元へ送る。


 家に着くと計画通りサキが神妙な顔をして

「戸田さん、突然なのですが

私、今から旅に出ようと思います」


    続く

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