第30話

「えっ!濱中がまた何かしましたか!」

戸田は突然サキが旅の話を持ち出したので

当然、濱中が何か

問題を起こしたのではないのかと驚くが


「いえ、そうではないのですが……」

言葉を濁すサキに


「そうですよね!濱中は、

まだサキさんを狙っている様なので

無理に引き留める訳にもいかないです……


私も居場所を替えるのは

早い方がいいと思います……」

戸田も心痛めている。


「戸田様、

本日は本当に色々とありがとうございました」

新一朗も深々と頭を下げるが


「いえ、私たちもサキさんには

本当にお世話になり助かりました。


それと、サキさん、

裸で申し訳ないのですが

旅の足しにしてください」


そう言って戸田は財布から20万円を

取り出し、サキに渡す。


「えっ!あ!……

いえ、私が急に決めましたので、

それは仕方のない事です。


でも、これは助かりますので

有難く頂戴いたしますね。

会社の皆様にもよろしくお伝えください」


サキはお金を貰っても仕方が無いのだが

受け取らないのは変だし、失礼にあたると思い

笑顔で受け取る事にした。


「はい。会社の者には伝えておきますので

ご安心ください。

お元気で過ごされて下さいね」


戸田はサキの一瞬の間は

気遣いが出来る優しいサキさんは

お金を受け取る事に気を使っているのだと

勘違いして気にしていない。


「はい。

戸田さんもお元気で過ごされて下さい」


「はい。それでは佐藤様、失礼いたします」

戸田はサキに別れを告げると

新一朗に深く頭を下げ帰って行く。


 そしてサキたちの動きを尾行していた

濱中の部下は


「所長、戸田さんは帰られて

あの女の子は佐藤と言う人物の家に

二人で滞在しているようです。

どうしますか?」


「佐藤と言う人物が何者なのか調べる。

同じ宇宙人かもしれん。

他の者の動きが無いか暫くそのまま

二人で見張っていろ」


「はい」


 そして家の中では

「このお金は、いつか機会を見て

戸田さんに返して頂けますか……」


「はい。頃合いを見て

品物で返すようにしましょう」

新一朗は、お金を返すのは失礼だと思うので

お金ではなく物で返そうと思っている。


 そしてその夜は帰りが遅くなったので

サキはパワーリングの部品を取り外すのは

明日にすることにして眠りに就くが

中々寝付けない。


(部品を交換して上手くワープが出来て

ジブ星に帰る事が出来ると言う事になれば

もう地球に戻らず

そのままワープすると言う事になるのよね……


この地球で出会ってお世話になった

優しい人たち全てに、お別れを言わずに

帰ると言う訳には行かない……

その前にお礼を言っておきたい……


あ!本当は、津波が来て亡くなる人たちが

なるべく出ないようにするのが

一番いい様な気がするのだけれど

悪い人も居るのでは

どちらでも良い様な気がする……)


サキは森本から聞いた地元の有力者と

市の事を思い出して心揺れている。


(でも、その数人の悪い人たちの為に

数万人の人たちを

見過ごすと言う訳には行かない……)


サキはどうするのが一番いいのか

色々と考えているうちに深い眠りに落ちるが

勿論、新一朗もどうするのが一番いいのか

悩んでいる。


 新一朗もサキも

あまりよく眠れぬ夜を過ごし朝になる。


「サキさんおはようございます。

よく眠れましたか?」


「おはようございます。

はいよく眠れました。

おじいさんはよく眠れました?」


サキは新一朗に心配を掛けないように

明るく言う。


「はい。私もよく眠れましたよ」

新一朗も笑顔で答えている。


「おじいさん、昨夜考えたのですが、

私、おじいさんの輸送船の部品を外す前に

連絡船を手に入れて月へ行って


私が乗って来た輸送船から

ワープリングの部品を取り外して

おじいさんの乗って来た輸送船に

その部品を取り付けようと思うの」


サキは寝ながら考えた計画を

新一朗に伝えた。


「えっ!何ですって!先に月へ行き

サキさんの乗って来た輸送船から

部品を外してくる!?


何の為に???

こちらから部品を持って行けば

1度で済むのに?」


新一朗はサキの考えが解らないでいる。


「あのね、私……

おじいさんの乗って来た輸送船を

ワープできるようにして

高知沖の海底の中へワープさせようと思うの」


「えっ!サキさん……まさか!

津波を少しでも

消そうとしていてくれている!?」


「はい……私たちは見るだけで

関与してはいけないと言う

ルールに違反するのですが


私、お世話になった町の人たちを

津波から少しでも救いたいの」

サキは悲しそうに言う。


「サキさん、ありがとうございます。

確かにルール違反ではあるのですが、

私もそれは考えました。


しかしながら、輸送船を山から出して

海底の土の中へ移すと言う事は

例え夜であっても

あの輸送船を移動させれば


地球人に見つかってしまうので

ワープが出来なければ

実現不可能なので諦めていました。


輸送船は全長が2,000メートルしかない

中型輸送船ですし、用途が違いますので

海水を一瞬で収納して津波を無くする

と言う訳には行かないと思いますが


荷室のドアーの開く速度を緊急にしておいて

海水の元素変換収納速度を最高にして

海水を元の状態に戻すのは自動にしておけば

私が居なくても地球の人でも使えると思います。


そうすれば

沖合に出た船舶の方へのリスクは有るものの

全ての県とはいかないまでも


高知県の津波の被害範囲は

かなり抑える事が出来るでしょう。


しかし、私がこんな身体ではサキさんに

全てをお願いする事になると思います。


私は私を育ててくれた

私の愛する町を少しでも津波から救いたい。

どうかサキさん力を貸してください」

新一朗はサキにすがる様に言う。


「おじいさんも私と同じように

考えていらっしゃったのね」

サキは嬉しそうに言う。


「はい。その事は思いました。

輸送船をワープさせる場所は

今から調べておきます。


それとワープリングの部品を外す工具は

こちらから持って行かなくても

そちらの輸送船に有るのですか?」


「はい。私の乗って来た輸送船も

ワープリングを修理中だったみたいで

工具は置いてありました。

壊れている部品は外しかけなので

解りますから違う部品を外して来ます」


「そうなのですね……それは安心しました」


「では今夜、連絡船を取りに行って

月に行って部品を外して来ますね」


サキは濱中の部下が外に居るとは

夢にも思わず町の人を少しでも

津波から救う事が出来ると喜んでいる。


    続く



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