第15話


と言うのも戸田は

サキがシリウスの中に入って驚くだろうと思っていたが

瞳を輝かせながら落ち着いて受け答えしていたことに

既にサキの持つ強いオーラを感じていた。


 しかし、山田は

サキが本物だと言う事は解かっていたつもりだが

これ程の腕前だとは想定外で


サキがゲームとは違う実機の動きをする

シリウスの動きに即対応していることに

腰を抜かすほど驚いている。


 時間を忘れ、暫くサキの操縦を見ていた戸田たちだが

簡単に操縦して行くサキに他のスタッフ全員も驚いている。


「う~ん……操縦センスを見る為に

なるべく追いつかれないようにプログラムでしてあるのだが

サキさんはあまり引き離されることなく追いかけているし

少しづつ間を詰めている……」戸田は感心している。


「そうですよね。

実機の動きをするシリウスは初めてだと思いますので

敵機をシャドー設定にしていますが

それにしても良く追いかける事が出来ていますよね。

普通ならもっと離されてもおかしくは無い筈なのですが……。


(シャドー設定とは

先行する機体は後方に空気の乱れを出してしまうので

その直後を追いかけるサキの機体には操縦に支障が出る。


サキの機体に影響が出ないようにサキの前方を飛んではいるが

実際には飛んでいない時の空気の流れになって

後方への空気の乱れは何も無いと言うプログラム上の設定)


それと、こちらはプログラムで動いていますから

どんなに狭い所でも簡単にすり抜けて行きますが

追いかけるサキさんにすれば

たまったもんじゃぁ~ない筈なのですけれど……


しかし、もうかなり近くまで追いついて

追尾している時間が長くなりましたから

ひょっとしたら撃墜してしまうかもしれないですね。

サキさんの動きを見ているとそんな感じがします」


データーログを収集しながら小型モニター画面を監視している谷村は

サキが冷静に獲物を仕留めるタイミングを狙っているような動きに

そう感じている。


「サキさんは始めから撃ち落とす気でいたようだからね」


「えっ!初めて乗るこのシリウスでですか!!!

普通の者ならビビってしまって

相手を追いかけるどころの騒ぎではないですよね!

サキさんの思考回路はどうなっているのでしょうか!?……」


谷村を含めスタッフ全員驚きの顔をしてサキの動きを見ている。


(重力制御無しで実機と同じ設定だと言っていた割には

後方気流の乱れが無いわね?

ソフト側で操作しているのかしら?……


どうしよう?撃ち落とせる距離だけど、この狭い峡谷で撃墜すると

バリアが使えない今の状態では、こちらにも被害が出そうな気がするわね。

もう少し広い場所に出るまで待った方がいいわね……)

サキはもう少し撃墜のタイミングを待つ事にした。


「内山君!乱気流を出してみてくれ」

「えっ!この狭いこの場所でですか!」

プログラム担当の内山はまさかの注文に目を丸くして驚く。


「うん。あの子がどう対応するのか見てみたい」

「はい。解りました。では、レベル1で行きましょうか」


「いや!2で頼む」

「はい。ではレベル2で入れます!入れました!」


(あっ!こんな所に乱気流が有る!重力制御されていないと

乱気流に機体が揺れるのが良く判るわね……


実機の様に動くって言っていたのに

後方の気流の乱れが無いのは変だとは思っていたけれど

やはり何かソフト側でプログラム操作をしているのね……)


ジェット機を追っていたサキは

重力制御されていないジェット機に慣れている為

先行機の出す空気の乱れが無い事に違和感は無かったが

突然の乱気流に巻き込まれ少し驚く。


しかしサキは、すかさず立て直し

何事もなかったようにジェット機の後を追う。


「おっ!早い!なんて子だ!

あっと言う間に立て直したぞ!!!」

データーログを見ていた谷村は目を丸くしている。


「驚いたな……これ程反射神経が優れているとは……

落ち着いて操縦出来ているし操縦のセンスも抜群にいい……

これならシャドー設定にしなくても良かったかも……」

突然の乱気流に動じないサキに戸田はワクワクしている。


「社長さん!

サキさんは最初からニコニコしながら操縦していますけれど!」

サキを観察している上野はサキが乱気流に遭いながらも

笑みを浮かべていることに感動すら覚えている。


「なんだって!!!」

戸田と山田は上野の言葉にサキの目線画面ではなく

上野が見ているサキの操縦画面を見ると

サキは確かに笑みを浮かべながら楽しそうに操縦している。


(サキさんは、こんな狭い峡谷の伸るか反るかの厳しい状況で

どうして笑みを浮かべる事が出来ている?……

こんな状況での飛行を幾度となく経験してきたと言う事なのか……)

サキの実力をもっと見てみたいと思った戸田は


「よし!今度は最高レベルの10で行こう」

「えっ!いきなりレベル10ですか!

この高度では流石に無理ではないでしょうか?」


「いや、サキさんがどう対応するのか見てみたい」

戸田はニヤニヤしている。

「それではレベル10で入れます!」

「うん」

「入れました!」


「あっ!」突然、激しい突然乱気流に巻き込まれ

単発プロペラ機のパワーオンスピンの時の様な

きりもみ状態になったサキは

急激な飛行の変化に驚き思わず声を上げてしまうが


操縦桿の操作などは身体が覚えていて

無意識のうちに対応している。


「あっ!流石にレベル10の乱気流には驚いて声を上げたようです。

あっ!えっ!今まで冷静だったサキさんは

この乱気流に入ってからの操縦の仕方が

とんでもなくメチャクチャだ!」


(乱気流に巻き込まれてしまっては何をやっても無駄だ!)

「サキさん、パニックに陥ってしまったようです!」

データーログをチェックしていた高嶋は大声を上げた。



       続く

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