第16話


「う~ん……流石のサキさんでもパニックとなってしまったか……」


(このレベル10の乱気流はエンジンをフルパワーにしても

まず脱出出来ない様になっている。

機体を落ち着かせようと操作すれば操作するほど状況はむしろ悪くなる。


機体が落ち着くまで冷静に待って居る事が出来るのかを

見るためのレベル10なのだが

高度を失っていくのをコクピットで、ただ待って居る。

これはプロ中のプロでもなかなかできる事ではない……


ひょっとしたら……とは思ったが

やはり、実機経験のないサキさんにはレベル10は厳しすぎたか!)


サキの目線画面を見ていた戸田や山田、

そしてデーターを取っているスタッフの全員は

サキさんならと思ってはいたが、やはりと言う落胆の顔をしている。


「ん!今一瞬、敵機が写ったが、少し離れていないか?」

戸田はサキの操縦目線画面を見ていて

激しく回転しているサキの目線画像から

一瞬見えた敵機に違和感を覚えた。


「あ!サキさんは

メチャクチャな操縦をしているのではないかもしれないです!


エルロンもエレベーターもラダーも

当て舵を切って姿勢を正そうとされているのではなく

むしろ意図的に機体の回転を止めないようにされている様な気がします!


そして、機首が上を向くタイミングに合う様に

エンジン出力を20%から100%の間を規則よく制御されていて

エンジン出力で落下速度を少しでも落とそうとされているように見えます!


メチャクチャで無駄な操作だと思ったのですが

確実に落下速度が落ちています!」

高嶋は信じられないと再び大声を上げた。


「えっ!レベル10の乱気流に遭い

機体が激しく回転を始めて声を上げるほど驚いたと言うのに

即座に此処は高度が足りないと判断して落下中にそんな事をしている!?……」

戸田を含め、その場にいた全員が呆然と立ち尽くしている。


「あっ!AIは引き起こしにかかりましたが

高度が足らずに丘へ激突してしまいました!


でも、サキさんは地表から3メートルも高度を確保して

無事生還したわ!!!」

内山も始めて見る光景に大声を上げた。


(なんて子だ!!!こんな事が出来る子がいるんだ!……


後ろを飛んでいたおかげで時間的な余裕が少し有ったかもしれないが

一瞬でも操作を間違えていれば

AIと共に丘へ激突していてもおかしくは無かった……)

戸田も始めて見る光景に感動しかない。


(えっ!もう1時間も飛んでいたのか!

あっという間だったな……)


「お疲れさまでした。とても素晴らしい操縦でしたね」

戸田は作動を終え下に降りて来たシリウスに入り

シートベルトを外しながら笑顔で言うが


「最後、激しい乱気流に会って大変でしたが

とても楽しかったです」

と、サキは息も切らさず笑顔のままだ。


(えっ!)

「そ、それは楽しかったとの事で、良かったです……」

(あんなに神経をすり減らす激しい動きを1時間もしていて

疲れもせず楽しかっただって!……


あ!そうか!

サキさんは実際に飛んでいると言う感覚は無いのか!

地表に激突してしまっても死んでしまう訳では無いので

落ち着いている事が出来るのかもしれない……


実機経験が長い者ほど無意識に体が動いてしまうが

ゲームで育ったサキさんはある意味これは最強だ!……)


サキはジブ星で習得している操縦をいつもの様にしているだけなのだが

戸田はサキの体力と精神力に腰を抜かすほど感動し驚きつつも

これはゲーム育ちのサキの持つ強運なのだと勘違いをしている。


 戸田は休憩室へ山田とサキを連れて行くと

「サキさん、ジェット機の操縦がとても素晴らしいです。

スタッフ全員で感動しました」


「いえいえ、最後の乱気流は本当に大変で

上手く回避できたのは運が良かっただけだと思います」

「いえいえ、あれもサキさんの実力の内だと思いますよ」

戸田は笑顔でサキを労う。


そして話が一段落するのを待って居た

データーログ収集担当の高嶋が声を掛ける。


「社長、済みませんが、チョットこちらへ来て頂けますか……」

「あ!サキさん、少し失礼しますね」

「高嶋君、どうした?」


 そう言って戸田は席を外し高嶋と一緒に

先ほどのシミュレーター室へ行くと


「社長!これを見てください」

操縦のデーターログと飛行ラインの前で驚きの顔をしている

3人を横に高嶋は戸田にデーターログを見せる。


「ん?どう言う事だ!これは?」

戸田はデーターログを見て信じられないと言う顔をした。


「社長、この部分ですが

この赤い線が我々の理想とするAIの操作ラインですよね……

そして、この青い線がサキさんの対応している操作ラインですが

微妙な違いこそ有るものの、殆ど同じです」


「おいおい!初めて乗った機体と場所で

AIと殆ど同じ操作ラインと言う事などあり得るのか!?」

戸田は信じられないと言う顔をしている。


「社長、逃げる敵を追って動きを見てからでは

絶対に間に合わないですよね。


と言って、離れてしまっては敵機を見失ってしまうし

だからと言ってこれ程敵機に近寄りしかもこのスピードで追いかけると

敵機が動き始める前に操作を行わないとタイムラグが有りますから

絶対に崖に激突をしますよね。


おそらくサキさんは逃げる敵機のエルロンやエレベーター

そしてラダーとエンジンの出力具合の動きを見ながら

先読みをしているんだと思います」


高嶋はそうでなければサキが

AIと殆ど同じラインを取れるはずが無いと思う。


「そうだな!敵機の動きを見てからでは遅すぎる。

あの狭い初めての峡谷で、しかも初めての機体で

それだけのことを同時にやってのけるとは

物凄い動体視力と反射神経、それと精神力だな!」


戸田達はこんな事が出来る人物が居るのだと感動しているが

しかし戸田は高嶋から更に驚かされる言葉を聞くことになる。



       続く

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