第34話

 新一朗が不思議そうにしているとサキが


「私が出ます!」

そう言って玄関の扉を開けると

知らない二人の男性の後ろに濱中が居る。


「あっ!貴方は!」

サキがそう言うと同時に

男性が二人でサキを連れ去ろうと

サキの腕を掴んだ。


「キャ~!!!」

サキは大声を出すが、

大人2人には敵わない。


「サキさん!」

新一朗は慌てて立ち上がるが


その時、改造中のリモコンがショートして

“バチッ”と大きな音と火花が散り

リモコンは黒焦げになってしまった。


「あっ!」

新一朗はリモコンを

ショートさせてしまった事に気付くが

今はそれどころではない。


新一朗は立ち上がり玄関へ行こうとするが


「佐藤さん、

この子は行方不明者届が出ていますので

親御さんの元へお返しします。


本来であれば佐藤さん、

貴方も取り調べの対象なのですが

高齢であるので免除いたします」


濱中は新一朗に聞こえる様に大声で

もっともらしく言う。


勿論、新一朗は濱中の言う事は

全てが嘘だと直ぐに理解するが

しかし、押し問答をしても

どうにもならない事も直ぐに理解している。


 と、その時、

「濱中!何をしている!」

と、戸田がサキと警察だと名乗っている

男性との間に割って入った。


「何をしていると言われても

サキさんには行方不明者届が出ているので

サキさんを連れに来た……」

と、苦し紛れに濱中は言うが


「なんだと!

そもそも、警察が行方不明者を探すか!

それに何故関係のないお前が此処にいる!」


「いや!

サキさんの居所を教える為に案内をして来た」

濱中は咄嗟に嘘をつくが


「ほ~う……

行方不明者届は誰が出した?


サキさんは既に

ご両親を亡くされていらっしゃるし

親族の方もいらっしゃらないのに

おかしいだろうが!


そして確か……

沖谷君と木ノ内君だったな?

君たちは、いつから警察官になった!?」


戸田の言葉に濱中たちは

逃げるように大慌てで去って行く。


「サキさん、大丈夫ですか!」

戸田は崩れ落ちるサキを抱え心配そうに聞く。


「はい。私は大丈夫です。

ありがとうございました」


 ガクッと力の抜けたサキは

戸田に支えられ家に入るが

新一朗が呆然と立ち尽くしている。


「佐藤様、大丈夫ですか!」


「おじいさん!大丈夫!あっ!」


 新一朗は

戸田やサキの問いかけに頷きもせず

テーブルの上を見つめ、

呆然と立っているだけだ。


 そして、サキもテーブルの上に有る

リモコンを見て固まってしまった。


「どうされました!?」

見ると黒く焼け焦げた

テレビのリモコンの様な物が

テーブルの上に有る。


「あ!何か修理されていたのですか?」


「あ!はい。

リモコンを修理していましたが

ショートさせてしまい

使えなくなりました」

 

我に返った新一朗は、

魂の抜けたような声で言う。


そして、サキも

この世の終わりのような顔をして

立ち尽くしている新一朗の傍に寄り

リモコンを見つめ泣きそうになっている。


「佐藤様、リモコンは買えばありますので

私が明日買ってきます」戸田は慰める様に言うが

 

「戸田様、このリモコンは特殊な物なので

同じものは手に入らないのです」

サキも新一朗と同じ目をして立ち尽くしている。


「それなら、

うちの者に言って修理させましょうか」


「戸田様、ありがとうございます。

でもそれは叶わないと思います。

それよりも、どうして戸田様が此処に?」


新一朗は戸田がタイミングよく来てくれたことに

感謝はしているが不思議に思う。


「今朝、森本さんが、一昨日の夜

サキさんが一人で走っているのも見て驚き

車に乗って頂いたのですが

いつものサキさんらしくなくて笑顔が無かったです。


誰かに捕まっていて逃げ出して来たのでは?

と思う程でした。

何か良くない事でもあったのではないでしょうか?


と、言われるのでサキさんが旅に出た途端、

濱中に捕まりそうになったのかと

嫌な予感がして此処に来てみました。

間に合って良かったです」


戸田は本当に安堵している。


「戸田様、本当にありがとうございました。

戸田様が来て頂いていなければ

サキさんは今頃此処に居なかったと思います。

本当にありがとうございました」


しかし、言葉とは裏腹に

新一朗とサキの表情に安ど感は全く無い。


(どう言う事だ?

確かにリモコンは壊れた様だが

サキさんは無事保護できたと言うのに……)

戸田は、この状況が全く呑み込めないでいる。


「サキさん、とにかく此処は危険です。

どこか遠くへ行きましょう」

戸田は再び濱中が来ると読んでいる。


「戸田様、実は私の別荘の裏山には

トンネルが掘ってありまして

人知れず別の場所へ行く事が出来るのです。


戸田様、サキさんを

私の別荘へ送ってあげてくれますか……


戸田様が付いて行って下されば濱中と言う者も

手出しが出来ないようなので、お願いいたします」

新一朗は泣くように懇願する。


「おじいさん!」

サキは新一朗の言う意味は理解している。


 そして新一朗はサキを見つめ頷くと


「サキさん、旅に出ても此処を忘れないでくださいね。

此処はサキさんの第2の故郷(ふるさと)ですから、

帰って来ようと思ったら、いつでも帰って来てください」

新一朗はワープできなかった時のことを考えている。


「はい。またいつの日か

此処へ戻って来るかもしれません……」

サキもワープできなければ

此処へ戻る事になると思っている。


「佐藤様、解りました。

私がサキさんを責任もって

佐藤様の別荘へ送り届けます。


サキさん、

濱中が次に何を考えて

どう出て来るか分かりません。


早く行きましょう」

戸田はそう言うとサキを連れて玄関へ向かう。


「おじいさん!お世話になりました」


「サキさん、お元気でお過ごしください」


「はい。

おじいさんこそ元気で長生きをされて下さいね」

サキの言葉に新一朗は無言で頷いている。


       続く


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運命の分かれ道 優美 @yumi125

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