第11話

「はい。こちらこそ楽しい時間をありがとうございました。

私はこれから私用が有りますので帰りますが

山田君は誠実な男ですから心配される事は無いです。


何か困りごとが出来ましたら山田君に言ってください

必ず対処してくれますから。山田君、後をお願いしますよ」


「はい。サキさんの事はお任せください。

平岡さん、ありがとうございます」

「うん。頼んだよ」平岡は笑顔で言うと手を振り去って行く。


「平岡さん、お世話になりました」

サキは再び深々と頭を下げるが

平岡は前を向いたまま二人に手を挙げ去って行った。


「サキさん、早速で申し訳ないのですが

時間もあまりありませんので

ゲームを始めさせてもよろしいでしょうか……」

山田は申し訳なさそうに言うが


「はい。私はそのつもりで来ていますので大丈夫です」

と、笑顔のサキに

「それはありがとうございます。それではこちらへどうぞ」


 ゲームソフト開発部の部屋には

4台のフライトシミュレーターが有り

スタッフの鈴木が、その内の一つにサキを座らせる。

 

 そしてその姿をソフト開発部スタッフ全員が見ていて


「社長、あの女の子が本当に平岡さんを撃墜したのですか?……

僕にはとても信じられないのですが……

ソフトをいじったチート機でと言う事は無いのですか?」

スタッフの一人、本田は小声で言う。


「うん。ネット対戦ではなく

平岡さんのフライトシミュレーターで確認したそうだから本物だと思う。

ま、見れば判るだろう……」


 そしてスタッフの鈴木がサキにシミュレーターの説明をしている。

「サキさん、平岡さんの所でこれと同じものを動かされたと思いますが

その時のラダー操作はどちらにされましたか?

こちらの機器もフットでも操縦桿でもどちらにでも切り替える事が出来ます」


「私は操縦桿でラダー操作をする方がいいです」

「はい。解りました。では操縦桿でラダー操作する様にしますね。

そのほかに何か質問は有りますか?」スタッフの鈴木は笑顔で優しく言う。


「ええ、これで大丈夫です」サキも笑顔で返事をする。

「ゲーム内容はコンピューターとサキさんとの空中戦です。

どちらかがが落とされればゲーム終了となります。

とにかく相手を撃ち落とせばいいだけですから」


「解りました」

「では、スタートしますね」

「はい」

しかし、サキはあっと言う間に相手を撃墜してしまい話にならない。


「えつ!これではデーターを取るどころの話ではないな……

もう少しレベルを上げよう」

山田はシミュレーションレベルを初級から中級にするが

サキはあっと言う間に敵を撃ち落としてしまう。


「えっ!ほんと!サキさんは本当に上手いなぁ~!

レベルを上級にしよう」山田はレベルを最高レベルにするが

またもやサキは簡単に撃ち落としてしまう。


「う~ん……コンピューター相手ではどうにもならないのか!

鈴木君!今度は君が対戦してあげてくれ」

山田は操縦の上手い鈴木にサキの相手をさせるが

あっという間に落とされてしまい、やはり相手にならない。


「なんだって!!!

鈴木君!女の子だからって手は抜かなくていいんだぞ!」

山田は笑いながら冗談半分で言う。


「いえ!社長!僕は本気なんですが、サキさんは強すぎます」

鈴木は涙目だ。


「う~ん……本田君、今度は君がサキさんと対戦してみてくれ!」

山田は開発スタッフの中でも特に操縦の上手い

本田にサキさんの相手をさせるが、それでも敵わない。


「う~ん……本田君でもダメか!本田君と鈴木君、

二人で同時にサキさんの相手をしてみてくれるか!」


「えっ!本田と一緒にですか!」

「うん」

「と言う事は、サキさん相手に二人でと言う事ですか!」

本田と鈴木は同時に驚いている。


「うん。そうだ」山田は笑顔で当然の様に言う。

「流石に女の子相手に二人でと言うのは……」

本田と鈴木は考え込むが

「一人で勝てないんだから仕方が無いだろう……」


笑いながらの山田の言葉に

返す言葉もない二人は2対1でサキに挑むが

二人はなすすべもなく簡単に撃ち落とされてしまった。


「う~ん……」山田はこの状況に考え込んでしまう。

(こんなに若い女の子が

どうしてこれほどの操縦センスを身に付けている?……


この子はゲームの世界などで居る器ではない……

もっと別の世界に居るべきだ!……)


 そして本田と鈴木は

二人で何度もサキに挑戦するが簡単に落とされてしまう。

しかしサキのデーターはどんどん溜まって行き山田は喜んでいるが

暫く対戦して疲れ果てた二人は休憩を求める。


「サキさん本当に操縦がお上手で、強いですねぇ~……」

本田と鈴木は参ったと言う顔をしながらサキに声を掛けると

サキを連れ山田の元へ来た。


「サキさん、お疲れさまでした。

うちのスタッフ二人掛でも勝ってしまわれるとは驚きました。

素晴らしい操縦センスをお持ちですね。


そこでですが……

私の知り合いにパイロット養成の為のジェット機などの

シミュレーターを開発製作している戸田と言う人が居るのですが

もしサキさんさえよければ明日にでも会ってみませんか」

山田は笑顔で言う。


「私で良いのでしょうか?」

「はい。貴女が良いのです。

貴女の一生の思い出になると思いますよ」山田は力強く言う。


「はい。それではお願いいたします」

サキは一生の思い出になる筈だと言う

山田の言葉に心動かされ即答する。


「明日、逢えるかどうか確認を取ってきますので少しお持ちください」

そう言うと山田は席を外して行く。


「もしもし。山田ですが、戸田社長をお願いできますか」

「はい。少々お待ちください」

「もしもし。山田さんどうされました?」


「戸田さん……以前、操縦の上手い奴のデーターを

集めていると言っておられましたよね」

「はい」


    続く




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