第23話


「こんにちは。サキさん、

お忙しい中、失礼します。

こちらが私の後輩で、濱中君です」


「こんにちは。濱中と言います」


戸田は久しぶりに

サキと会えて嬉しそうだが

濱中は戸田の後ろから

サキを探る様な上目で言う。


「あ!濱中様、初めまして。サキと申します。

どうぞ奥の海の見える席へお座りください」

サキは、そんな濱中を気にすることなく

窓辺の見晴らしのいい席へと二人を案内する。


「サキさん、此処のお勧めは何でしょうか?」


「此処は特製カレーがとても美味しくて

お勧めですよ」

サキは最高の笑顔で答える。


「特製カレーですか!それは楽しみです。

では、それをお願いいたします」


「僕にも同じものを」

濱中も作り笑顔で注文する。


「はい。お二人共特製カレーですね」

サキも特製カレーの注文が

2個も取れて嬉しい。


 そして、二人共食事を済ませて

サキと3人で話している。


「サキさん、

実は貴女が戸田さんの所で操縦している姿を

画面上で偶然観ました。


サキさんの時間の空いた時に

来て欲しい所が有るのですが?」

濱中は再び作り笑顔で優しく言う。


「私のお休みは木曜日なので

木曜日でしたら大丈夫です」

サキは色々な出会いを楽しみにしているので

嬉しそうに答えている。


「あ!それでは木曜日に迎えに来ます」

濱中は嬉しそうだ。


「濱中!私がサキさんを連れて行こう。

何時に何処へ行けばいい?」

戸田は濱中を信用していなくはないのだが

サキの身を心配している。


「いや!戸田さんのお手を

煩わすことは出来ないですから

僕がサキさんを迎えに行きます」

濱中はサキと二人で逢おうとするが


「いやいや、二人を合わせた

私の責任もあるし、

私も行きたいのだがどうだろう?」


戸田は濱中の笑顔に

不自然な物を感じ取っていた。


「それでは木曜日の朝10時、

研究所にサキさんを連れてきて欲しい」


「えっ!濱中!まさか!……」

戸田は濱中が何を考えているのか

理解しかねている。


「戸田さん、お願いしますよ。

必ずサキさんを連れて来てください」

濱中は上目で戸田を睨んでいる。


「う、うん……」

戸田はサキを連れて行くとは言ったものの、

この成り行きに困惑をしている。


 そして木曜日、車の中で戸田は

「サキさん、これから行く所は

私が昔、勤めていた場所なのですが

そこは国の国防に関わる重要な場所なんです。


これから見聞きすることは

絶対に口外しないと約束をさせられます。

それは守られてくださいね」

戸田に笑顔はなく芯のある口調だ。


(えっ!

いつもの戸田さんじゃないみたい?………)


「はい。解りました……」

サキはこのピンと張りつめた空気の中で

緊張している。


 やがて車は警備員で固められた入り口を

戸田の顔パスで通ると

車を降り建物の中へと入る。


 入り口に居た濱中の部下が


「あ!戸田所長!お久しぶりです」

と声を掛けてくれるが


「おいおい!

もう此処の所長ではないんだから

戸田でいいよ」戸田は苦笑いしている。


「あ!済みません……

しかし、私たちの中では戸田所長は

いつまでも此処の所長です」


昔、戸田の部下だった吉本と永木は

いつも明るくて優しく素敵な所長だった

戸田を尊敬している。


「おう!サキさん、よく来てくれた。

早速ですがこちらへどうぞ!」


 そう言って通路を歩き濱中が

二人をコンクリートで作られた

立派な倉庫に案内し


一人がやっと通れるような

小さな鉄製のドアーを開けると


「えっ!」

サキはキラキラと銀色に輝く連絡船を見て

一瞬小さく声を上げてしまった。


(どうして此処に私が乗って来た

連絡船が有るの!?……)


 サキは戸惑いながら連絡船の横を

濱中たちと一緒に歩くが

そんなサキの姿を濱中は横目で

注意深く観察している。


「どうぞ、中へお入りください」


 濱中に勧められサキが

連絡船の入り口に置いてある

小さな2段の踏み台を上がると

濱中もサキに続き踏み台を上がり、

戸田も濱中の後に続く。


 中へ入ると濱中はサキの動きを

注意深く観察しているが

サキは、この地球の者ではない事を

悟られないように冷静なふりをしている。


「サキさん、

この操縦桿に有る

このボタンが何であるか教えてくれ!」

濱中はいきなりサキに質問をする。


「えっ!そう言われましても

私には何も解りません。


これは濱中さんが作られた

フライトシミュレーター

ではないのですか?………」


(何故この人は私が乗って来た

連絡船だと知っているの!?


その質問に答えると

私が地球人でない事が判ってしまう。


そうなれば私はこの地球で

暮らして行くことは出来ないわ)

サキは動揺しながらも

知らないふりをしているが


しかし濱中は、

さらに強い口調でサキを問い詰める。


「いや、そんな筈は無い!

お前は知っているはずだ!」


「いえ、知らないです」


サキは両手で顔を覆い消え入りそうな声で

今にも泣きだしそうに言うが

サキが白状しないと思った濱中は

戸田の所で撮った動画を見せる。


「これは戸田さんの所で、

お前がフライトシミュレーターの

操縦桿を動かしていた時の動画だ!


この親指の動きは此処に

このボタンが有ると言う事を

知っているからだろうが!」

濱中は強い口調でサキを問い詰めた。


サキは動画を見せられ動揺するが

顔を両手で覆いながら


「いえ、それが何のボタンなのか

私は知らないです」の一点張りだ。


(どうしよう………

このまま逃げ切るのは無理かもしれない………)


「濱中!

サキさんは知らないと言っているんだ!

もう、その位にしろ!」

と、戸田がサキと濱中の間に割って入った。


「戸田さん!なぜ止めるんですか!

貴方だって、この宇宙船の事を

知りたいと思っているでしょうが!」

濱中は戸田がサキへの質問を止めた事に

怒り狂っている。


「勿論、私だってこの宇宙船の事は知りたい。

だが、何故サキさんなんだ!

サキさんは知らないと言っているし

知っている訳が無いだろうが!」


「アハハ」


「濱中!何がおかしい」


「戸田さん、貴方は甘い……

こいつが

この宇宙船を目にした時の顔を見ましたか?


驚いてはいたが、初めて

この宇宙船を見たと言う顔ではなかった。


そして、宇宙船の中に入ってからも、

それは同じだった。戸田さん!こいつは、

間違いなく、この宇宙船の持ち主で

宇宙人ですよ!」


  続く

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