第32話
サキは新一朗の家でこの施設の上からの見取り図を見て
計画した事を復習しながら歩いている。
(連絡船の置いてある建物は西側の塀の端から20メートル。
南側の塀から18メートル北の所に出れば連絡船の前に出る筈ね。
トンネルの深さは4メートルだったわね……)
「所長!女の子が東へ曲がりました。追いかけます」
部下がサキの後を追い、角を曲がるとサキが居ない。
「あっ!所長!女の子が消えました!
塀を飛び越える事は不可能ですので
南側に有る民家の方へ行ったようです。探します」
(なんだと!……
南側の住民に誰か協力者が居るのか?)
その頃サキは、サイクル銃でトンネルを掘り
連絡船が置いてある建物の中へ入っていて
踏み台を上がり連絡船に乗り込んでいた。
(これで一安心ね)
サキは安心して連絡船のドアーを閉めようとするが
(えっ!ドアーをロックするレバーの形も大きさも違う!?
レバーはこんなに大きくなかったし
レバーの下に有るこの小さな二つのレバーは何なの???
赤いボタンと青いボタンの2つボタンがあるのは同じだけど
他が全然違うし操作の為の文字が無いわ!
これではドアーの閉め方が解らない!……)
サキは慌てるが念のために操縦席を見てみると
スイッチの大きさや位置が少し違う事に気付く。
(これは私が乗って来た連絡船ではないわ!
連絡船自体は始動させることは出来るかもしれないけれど
ドアーを閉める事が出来ないのでは
これを移動させる事は出来ない!)
と、その頃、南側を捜索している部下から
濱中へ連絡が入る。
「所長!南側を徹底的に探しましたが
女の子の気配が無いです」
「なに!……居ないだと!?」
(おかしい……ガキの足だ……
見つからない筈が無い……まさか!)
「おい!2人共、直ぐに帰って来い!」
濱中は捜索している者を呼び寄せると
「2人共、一緒に来い!」
濱中は嫌な予感がして宇宙船の元へと急ぐ。
サキは仕方が無いので連絡船を動かすことを諦めて
サイクル銃で床にトンネルを掘り
後ろ側のトンネルを閉じながら慎重に外を確認して
塀の南側に出ると駆け足で駅へと向かう。
その頃、濱中たちは
宇宙船の置いてある建物内に進入するが誰も居ない。
(今回は下見だったのか?それとも気付かれたか?……)
「ガキはそれほど遠くへ入っていない筈だ!
駅へ引き返した可能性もある。
直ぐに追って捕まえてこい!」
濱中は苛立っている。
その頃、
駅へ向かって走っているサキを森本が見つけた。
「サキさん!
どうしてこんな所を走られているのですか!?
良ければ乗られませんか!」
「あ!ありがとうございます!」
息を切らせながらサキは
渡りに船と森本の車に乗せてもらう。
「助かりました。ありがとうございます」
サキは肩で息をしながら頭を下げるが
「こんなに夜遅く若い女性が一人で居ては危ないですよ」
森本は笑いながら冗談半分で言う。
「ホントですよね」
サキも安心して笑顔になっている。
「森本さんはどうして此処に?……」
「戸田さんの会社の近くにオープンした
あの店に行く途中です」
「あ!そうだったのですね。
あ!海辺のお店で
ごちそうして頂きありがとうございました。
とても美味しくて戸田さん達も大喜びでした。
お昼には新しく出来たレストランを
利用させて頂きます。ですって!」
サキは大きな瞳を輝かせている。
「それは良かったです。ありがとうございます。
で、サキさんは何処へ行こうと
されていらっしゃるのですか?
良ければ送りますよ」森本は笑顔で言う。
「少し遠いのですがよろしいでしょうか……」
サキは遠慮がちに言う。
「勿論いいですよ!
サキさんを見た時からその気ですから!」
「では、宇亜駅の近くまで良いでしょうか……」
「はい大丈夫ですよ」森本は笑顔で了解してくれた。
そして宇亜駅の近くで降ろして貰ったサキは
森本にお礼を言うと、急ぎ足で新一朗の家に帰る。
「おじいさん!ただいま!」
サキは息を切らせながら言うが
「おっ!早かったですね!」
新一朗はサキが月まで行って
急ぎ足で部品を持って帰ったと思っている。
「おじいさん!私が見たあの連絡船は
私が乗って来た連絡船ではなかったの!」
サキは困惑している。
「えっ!連絡船が違う!?」
新一朗もこんがらがっている。
「はい。ドアーのロックレバーの大きさも違うし
レバーの下に小さなレバーが二つあって
何のレバーなのか
表示が無くて操作方法が判らなかったの……
だからドアーを閉める事が出来なくて
月へ行く事が出来ませんでした!」
サキは泣きそうになった。
「えっ!小さなレバーが二つですか!?」
「はい。私が乗って来た連絡船には
緊急用の小さなレバーが一つしか付いていません」
「あ!左側に有る小さなレバーは
ドアーの開閉速度を変える物ですが
言われてみれば開閉速度を変えると言う事など
あまりありませんので無くても正解ですよね?……」
(ん!?何かがおかしい?……
サキさんの話に違和感が有るのは何故だ!……)
「あ!左側のレバーは
開閉速度を変えるレバーだったのね……
何も表示が無かったので解りませんでした」
(あら!?何故かしら!?
おじさんの話に違和感が有るわ!
それと、戸田さんのお話は少しおかしくない?……
戸田さんはフライトシミュレーターを作る
会社の社長さんよね?
それなのに昔、
あの連絡船を濱中さんと一緒に調べていた?
それって私の時間列と合わなくない???
時空が歪んでいるの?……)
続く
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