第21話

「社長!この画像の、この部分を見て頂けますか!」


「ん!どうした?」


「サキさんの操縦桿を操作している部分の動画なのですが

妙な動きが有るんです!」


「妙とは?……」


「この部分なのですが、

親指を操縦桿の斜め上に持って行くんです?」


「う~ん……手が滑っている訳ではなさそうだなぁ~?……」


「はい。親指をこんな風に斜めに持って行くのって

意図的じゃないと動かないですよね?……」


「うん」


「それも、この画面では一瞬なのですが

こちらの画面では少し長く押されていますね」


「うん……これは確かに変だな?……」


「で、これがどの場面なのかを見てみると、意外な事が判ったんです」


「おいおい!勿体ぶらずに結論を早く言ってくれ!……」

戸田は笑顔で言う。


「あ!済みません……

サキさんが親指を上げられたのは2度しかないです。


1度目は、ジェット機を追いかけて

初めて狭い峡谷に入ってしまって直ぐと

2度目は、あのレベル10の乱気流に巻き込まれた時なのですが


おかしいと思うのは、始めて峡谷に入って直ぐに親指を上げ

操縦桿の斜め上にあるボタンを押す様な仕草をされたのですが

それは一瞬で親指を元へ戻されましたね。


その次からは

狭い峡谷に入っても親指を動かすと言う事は無いのですが

あのレベル10の乱気流に入った瞬間

操縦桿に有るボタンを押す様に

少しの間ですが斜め上に親指を置かれています」


「う~ん……確かに変だなぁ~?……

手が滑っているのではなく

意図的にある筈の無いボタンを押しているように見える?……

どう言う事だ!?……」


「僕にも解らないですが他の全員も考え込んでいます……」

高嶋は意味のないサキの親指の動きに首をひねっている。


と、その時、谷村が

「サキさんは普段から、そのボタンを押して

チート機能を使っていたと言う事でしょうか?」


(チート機能とは

ゲーム制作者が意図しない動きをさせる不正行為)


「おいおい!

サキさんはチート機能なんて必要ない程、操縦は上手いぞ!

そもそも、そんなもん要らんだろ!」

高嶋は谷村の意見を否定する。


「いや!意外とその線かもしれないな……」


「えっ!社長!

社長は、サキさんがチートを使っていると!?」


「いや!サキさんはチートなど使わないし必要としない。

それは此処で操縦技術を見ていて解る。


そうではなくて、

ジェット機を追いかけて初めてあの狭い峡谷に入ってしまい

何かをしようとしたのではないか?


追っているAIは我々が作ったプログラムで飛んでいるから、

どんなに狭い所でも簡単に通過できる。


だがそれに対してサキさんはどうだ……

先の読めない峡谷を相手の動きを見ながら対応して行くしかない。

こんな時、君たちならどんな機能が欲しい?


サキさんはお父さんのゲーム機で遊んで飛び方を覚えたと言っていた。

お父さんの操縦桿には

そこに何かに対応するボタンが有ったのではないのか?……」


「あ!そう言われれば、そうですよね!」

谷村も高嶋も納得している。


「うーん……どんな機能が有ればいいのだろう?……」

皆が思案している時


「そう言えば、

サキさんは乱気流に巻き込まれた時には

暫く押し続けていらっしゃるのよねぇ~……」

内山は独り言の様に言う。


「やはり操縦の手助けをしてくれる

アシストプログラムが有って

それを作動させようとしていた。

そう考えると全ての説明が付くわ。


いつもの癖でアシストを使おうと思ったけれど

ボタンがない事に気付いた。


それで2度目を押す事は無かったのだけど

あのレベル10の乱気流の時には

無意識にアシストボタンを押されたのではないでしょうか?」

内山はそう結論付けた。


「でも、アシストプログラムって

最初から入れておけばいい様な気がする……」

谷村は疑問視している。


だが内山は

「う~ん……私はアシストが無い方が良い時もあると思うの。

私はステアリングアシストやオートクルーズはいつも切っているわ。

欲しい時だけに入れると言う方が

自分が制御していると言う気がするから……」


「うん。その意見も間違いないな。

サキさんが押そうとしていたのは

アシストプログラムを入れるボタンだと

そう考えるのが一番妥当なのかもしれない」


戸田の、その意見に他の全員も頷いている。


「ま、どちらにせよサキさんは結局アシスト無しで

対応してしまったけれどね!」戸田は呆れたように言う。


「やはりサキさんはモンスターですよ!社長!」

高嶋は目を丸くしてサキがとんでもない女の子であることを確信した。


「そう言う事だな!それは間違いない!」

戸田の言葉に全員が納得をしている。


 そして次の日

高嶋はサキの動画とフライトログの確認整理をしている。


(う~ん……見れば見る程サキさんの反応時間の速さは異常だ!

先行するAIの動きを見ながら先読みも

レベル2の乱気流時の対応の速さも、どう考えても説明がつかない……


反応時間は神経の長さに関係している。

神経の長さを変えることは出来ないが、

脳の処理時間を訓練する事で反応時間は

ある程度短くすることは出来る……


しかし何度見てもサキさんの、この反応時間はない……

どんなに訓練して鍛えたとしても

誰も真似をすることは出来ないと思う……


剣の達人の話は、たとえ話として使わせてもらったが

おそらくあの話は作り話だ……


似た話に、居合の達人が拳銃の弾を二つに切ったと言う話が有るが

しかしそれは、弾道が決まっていて

拳銃の弾が来るのを待って居ればいいだけだ……


それはそれで凄い事ではあるのだが、

生きていて逃げ回るハエを切ると言う事は全く別の話だ……


しかし、サキさんの反応時間は

人間の物とは思えない程、速くて正確だ!

どう訓練すればこんな事が出来るようになる?……


いやいや!神経の長さが決まっている以上は

こんな事は有りえない……

しかし、サキさんにはそれが出来ている?……


だが、これをプログラムとして組んでしまうと

誰一人として対応出来なくなってしまうぞ!……

う~ん……)


高嶋はサキが地球人ではなく宇宙人なのだと気付く訳もなく

この理解不能なデーターを

プログラム化するべきかどうか悩んでいる。


そして高嶋が悩んでいる所へ

戸田の後輩の濱中(60)がやって来た。


      続く



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