第44話 栞ねえが真衣の家にやってきた……
俺はその瞬間、思わず椅子から立ち上がっていた。
「え……ど、どうしたの? 唯、突然……」
「よ、用はすんだから、帰るだけだ!」
「そ、そんな……とにかくちょっと待ってて! 唯にはわたしたちの部屋を……それにわたし今日は下着だって……と、とにかく……少しだけでいいから待って!」
真衣は案の定慌てて、必死になって俺を引き留めようとする。
そして、真衣はインターフォンに向かっていってしまう。
く、くそ……四の五の言っている場合じゃないぞ。
こ、こうなったらもう無理やりダッシュで強行突破を——。
が、既に真衣はその時もう応答していた。
そして、インターフォンからはやはり俺が先ほど想像していたドスの聞いた彼氏の声が——。
「真衣ちゃん、栞です。唯くんはそこにいるんでしょ?」
「し、栞さん! な、なんでここに……」
真衣は、驚きの声を上げているが、それは俺も同じだった。
なぜ……栞ねえがこの場に突然現れたんだ?
いや……二人が手を組んでるのなら、不自然ではないのか?
「それはこっちが聞きたいのだけれど……真衣ちゃん。なぜ唯くんを……いえそれは直接話した方がいいかな。とにかくここを開けてくれないかな?」
栞ねえはおっとりとした口調であったが、どこか剣を帯びていた。
「え……は、はい……それは……」
真衣も、栞ねえの剣幕に圧倒されていたし、驚いているように見える。
とても演技とは思えない。
真衣は、俺の方を向くと、
「唯、栞さん呼んだの?」
と、戸惑いの顔を浮かべている。
「い、いや……」
当然、俺は栞ねえに声などかけていない。
というか、今日の昼まで3年間一切話していないのだ。
俺の表情を見た真衣は、顔をうつむかせてなにやら考え込んでいるようだ。
「唯の後をつけたのね……わたしが、抜け駆けして、唯に接触したから……だから、栞さんが怒って……まずいわね。あの人、唯のことになると、話が通じなく——」
真衣はなにやら訳知り顔でつぶやいている。
と、玄関のチャイムが再び鳴る。
真衣は、なぜか緊張しているようで、顔を強張らせている。
「え、えっと……ゆ、唯はとりあえずここにいて、たぶん……いえ間違いないなく、栞さんはわたしに用があるはずだから……」
そう言うと、真衣は小走りで玄関に向かう。
明らかに真衣の様子がおかしい。
俺はその場にとどまるふりをして、居間の扉から二人の様子をこっそりと覗き見することにした。
あまり褒められたことではないが仕方がない。
きっと俺に隠れて、真衣は栞ねえと俺をはめる策謀の相談でもするつもりなのだろうしな。
扉が開いて、栞ねえが姿を現す。
学校から直接来たのか、栞ねえは先程と同じ制服姿だった。
正直二人の話しの内容はあまり聞こえなかった。
だが、二人の表情は見えた。
二人とも微笑んでいるが、どこか不自然に見える。
真衣はやはり先ほどと同じように表情はどこか硬い。
対照的に栞ねえはとてもにこやかにしている。
だけど、俺は栞ねえのこうした表情に見覚えがあった。
それは……栞ねえが怒りを抱いている時の顔だ……。
二人はその後も何やら何度も会話を交わしているようだが、ここからではまるで聞こえない。
俺は気になりすぎて、ついつい体を前のめりにしてしまった。
と、半開きの扉が大きく開いてしまう。
「あ!」と声を出した時には、廊下に思いっきりずっこけていた。
俺がこけた時のその物音はかなり大きなもので、当然真衣と栞ねえもその音に気づいてしまう。
俺が顔を上げると、二人が怪訝な顔を浮かべて、俺を射抜くように見ているのであった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます