第39話 MAIの引退理由
だいたいアイドルなんて、どんなに人気があっても、かなりの額は事務所に取られて、本人の手元にはあまり残らないはずだ。
まあ……6ch情報だが……当たらずとも遠からずだろう。たぶん……。
それに、真衣の家は確かに大金持ちだが、両親は厳しかった。
だから、真衣はそんな家が嫌で、幼い時からよく俺の家に遊びに来て、弱音を吐いたり、時に泣いたりしていた。
俺はそんな真衣を慰めたり、励ましたりしているうちに真衣と仲良くなって——。
って……昔の話はどうでもいい。
とにかくあの両親が、真衣の一人暮らしを許可しているとは思えない。
アイドル活動もそうだけど、たぶん真衣が勝手にやっているのだろう。
おそらく真衣は俺と離れ離れになった後に、いわゆるグレたのだろう。
それで、アイドル活動なんてやったりしていたのだ。
当然、その過程で、金遣いや男遊びが激しくなり、両親からついに見放されて、一人暮らしをする羽目になった。
そして、真衣はプライドが高いから、身の丈に合わないこんな豪華なマンションに住んでいたのだろう。
だが、アイドルを何かの理由で引退せざるを得なくなり、収入がなくなる。
困っていたところ、栞ねえから話しを持ちかけられて、俺に接触してきた……。
全てのパーツが揃ったな。
我ながら完全に合理的かつ現実的な結論だ。
それにしても……真衣はなぜアイドル活動を引退したのだろうか。
クラスメイトの話しを聞く限りかなり人気があったようだし、俺ですら名前を聞いたことがあるほど知名度もあったにもかかわらず……。
まあ……どうせリアルのアイドルの引退原因なんて、「男」か「グループ内のいざこざ」だろうが……。
俺は「MAI」、「アイドル」、「引退理由」で検索する。
今の今まで俺は真衣のことは、あえて検索しなかった。
というのも、俺は真衣のことを可能な限りあまり考えたくなかったからだ。
だが、結局俺は抑えがたい好奇心に負けてしまった。
スマホの画面に表示された検索結果は膨大だった。
俺は思わずその多さに圧倒されてしまう。
人気があるとは知っていたが、まさかこれほどとは……。
去年の年末にはなんと紅白にも出場しているようだった。
ますます引退した理由が不可思議だ。
俺は戸惑いながらも、トップページに表示された記事をいくつかクリックする。
〈週刊文秋〉
『日本を代表する人気アイドル・MAIの突然の引退理由はなんと男が原因!?』
三ヶ月前に突然の引退を発表したMAI。
その引退……無期限活動休止となっているが、実質的には引退に近いと噂されている……理由については今も様々な憶測が流れている。
だが、本誌記者がつかんだある情報によれば、その理由は衝撃的である。
ファンにとってはあまりにもショックが大きいかもしれない。
関係者の声をまとめると、MAIの不可思議な引退の影には『ある男』の存在があるようなのだ。
なんでもMAIは実はデビューをする前……本誌記者の取材によれば、なんと小学生の頃!?……から、『その男』と関係を持っていたようだ。
MAIは高校進学を節目に、『その男』と正式に付き合うために、アイドルを引退したのだという。
もしこれが真実ならば、多くのファンにとっては受け入れがたい話だろう。
『氷姫』とよばれるほどにMAIのリアクションはいつもそっけなく冷たいのが特徴だ。
だが、それにも関わらずMAIの人気は周知のとおり圧倒的である。
その理由の一つが、彼女のギャップにある。
そう……ときおり見せるMAIのとびっきりの笑顔。
その普段の態度とのあまりのギャップに多くのファンが魅力されてきた。
運営や事務所がキャラ付けで無理やりやらせているのではない。
彼女のバックグラウンド……あの水無月家の令嬢……を考えると素でやっているに違いない。
本当のところは不明だが、実際にそう多くの人々は考え、MAIの熱狂的なファンになった。
そのあまりの熱狂ぶりとMAIへの忠誠からファンたちが、『MAIZM』、『MAIST』と呼ばれるようになったことは読者諸兄の記憶に新しいだろう。
いずれにせよMAIの圧倒的なルックス、そして水無月家の令嬢という経歴、それでいて飾り気のない素直な態度、それらにファン……いやマイストたちは惹きつけられてきた。
そして、多くのマイストたちにとってMAIのそのバックグラウンドと態度からして、男の存在を疑う声は皆無に近かった。
実際、MAIのデビュー以来、彼女のいわゆるそういう浮いた話はまったくなかった。
MAIの恋愛とは距離を置いているそうした雰囲気は、男性ではなく女性も魅了した。
それゆえにMAIのファン……マイストたちには男性だけではなく女性も多いとされている。
それだけに今回の本誌記事については、マイストたちにはショックが大きいだろう。
それにしても、あの『氷姫』MAIのハートを射止めたなんとも憎い……いや羨ましい男はいったいどんな人物なのか。
残念ながら、この点については未だに本誌もいまだ確たる情報をつかんでいない。
だが、MAIが水無月家の令嬢であること、それに彼女の古くからの知り合いということを考えるのならば、おそらく水無月家に匹敵する名家の御曹子と考えるのが妥当だ。
マイストたちからすれば、納得しがたいだろうが、我々とは全く別世界の見目麗しい名家の御曹子がMAIのお相手ならば半ばあきらめにも似た感覚で祝福ができるのではないだろうか?
いずれにせよ無期限活動休止を発表したMAIだが、これからもマイストたちだけではなく我々も彼女から目を離すことはできなさそうだ。
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